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第十三話「いや、バレてますからね」


 そしてお茶会はごくごく普通に始まった。

 前提に問題があり過ぎるので、せめてそこだけは普通に始まってくれて良かった、というのが本音である。

 淹れて貰った紅茶を飲みながら、自称ガーネット嬢を見る。相変わらず帽子は深くかぶったままなので、顔は見えない。

 その流れで側仕えの方も見てみた。相変わらず目は死んでいる。


 ……止められなかったんだろうなぁ。


 そんな事を思いながら、私はティーカップをテーブルの上に置いた。


「――――で、何のご用件ですかね、アンドラ殿?」

「げっほ!? ……ナッナナナナナナンノコトデスノ?」


 紅茶を吹いて激しく動揺しておりますが、誤魔化す以前の問題ですよ……。

 初対面ではあるけれど、何故これでバレないと思ったのだろう。

 むしろ、こんな事をしていてタダで済むと思っていたのだろうか。

 何もなければ、面倒だし大事にする気はないけれども、さすがに茶番を延々と続ける気力が私にはない。

 なので、早々に理由を聞く事にしたのだ。


「いや、バレてますからね。猛者というか勇者と言うか……よくそれを決行したな、とは思いますが」

「…………まさか褒められるとは思わなかったぞ」


 断じて褒めていないのだが、アンドラは満更でもなさそうに帽子を取った。

 あ、よく見えなかったけれど、さすがに化粧はして来なかったようだ。顔は見覚えのあるアンドラそのままである。

 側仕えが「ほら、バレてるじゃないか」というような顔をしながら、こちらに必死で頭を下げている。あちらもあちらで大変そうだ。

 私は彼らに「大丈夫ですよ」と軽く手を振って笑ってみせると、アンドラの方を改めて見た。


「それで、何の真似だい、これは」

「貴様が俺を避けるから、こうして出てきたんだ」

「嘘の手紙を送るのが、ダマスカスフィスト家の礼儀だとは知らなかったよ」


 肩をすくめて、わざと嫌味を混ぜてみる。

 だがアンドラには効果がないようで、ふん、と鼻を鳴らすだけだった。

 ……いや本当にそれだけのために、こんな事をしたの?

 確かアンドラは跡取りだったよね? 大丈夫なのか、ダマスカスフィスト家は……。

 まぁアンドラの将来はどうでも良い。ダマスカスフィスト辺境伯が何とかなさるだろう。

 それよりも心配なのは、恐らく将来有望であろう、彼の妹さんである。


「アンドラ殿に女装趣味があったとかは、大した問題ではないんだよ。人それぞれだ。だが幾らなんでも、それ(、、)では、ガーネットさんがあまりにもお可哀想だ。下手な事をすれば彼女の将来に関わるんだが、今回の件、妹さんはご存じで?」

「え?」


 え、じゃない。なぜそんな驚いた顔をするのだ。

 ……いや、まさか。もしかして本当に何も考えずにこんな事をしたのだろうか。

 アンドラの側仕えの顔色は、青を通り越して白くなっている。そんな顔になる前に、是非とも頑張って止めて欲しかった。

 私は片手で顔を覆って、天を仰いだ。


「……で、話ってのは何だ」

「だから、貴様が何の魔法を使ったのか、という事だ」

「まだその話か」


 引っ張るなぁ……。

 確かに昨日一日は全力でアンドラを避けた。説明するのに時間が掛かるだろうし、面倒だと判断した私も、それなりに悪かったとは思う。

 だがさすがに、嘘の手紙を送って、正体を偽ってまでやって来たのは、誰が見ても分かるほどの悪手である。

 それを周りが注意出来なかった事も含めて、酷いとした言いようがない。家名に泥を塗るような行為だ。

 相手が相手なら訴えられてもおかしくはない。


「確かに私は魔法は使えるが、戦いで役に立つような代物じゃない。君の腹に叩きこんだアレは、ごく普通の拳です」

「そんな馬鹿な話があるか!」


 アンドラは怒鳴って、拳でテーブルを叩いた。

 するとテーブルの上のティーカップが軒並み倒れ、中に入っていた紅茶がばしゃり、と広がる。

 何をするんだ、何を。そのティーカップだって高いんだぞ、割れたらどうしてくれる。


「うわ!? 母上から借りたドレスが!」


 そのドレスはアンドラの母君の物だったのか。

 飛び込んできた余計な新事実に、一瞬思考回路が止まる。

 その間に、アンドラは事もあろうか、近くにあった布地を勝手に引っ張り出して拭き出した。


「あ!」


 アズが声を出す。

 何だろうかとみると、それは転移魔法陣が描かれた敷物だった。 

 お茶会の準備をする際に、下手に作動しては困ると、横に避けて置いたのだ。


「ちょ、アンドラ、それは!」

「ん?」


 私は慌てて立ち上がる。

 あの魔法陣は、下手に弄ると座標がずれてしまうのだ。

 何とか取り戻そうと手を伸ばすと、焦って前のめりになり、ドレスの裾を踏んづけた。


「うわ!?」


 傾く体。

 咄嗟に受け身を取ろうとしたその瞬間、魔法陣に手が触れた。

 すると、急激に魔力が吸われる感覚が身体に走る。

 その瞬間、今までに見た事のない強い光が、転移魔法字陣から発せられた。


「え」


 まずい、と思った時には、すでに遅く。

 その場にいた全員は、転移魔法陣の光に包まれた。

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