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第十二話「出来れば部屋の被害は最小限に!」


 そしてやってきましたお茶会当日。

 まぁ昨日の今日なんだけど……気が重いなぁ。

 憂鬱な気持ちのままに空を見上げると、そこは悲しいくらいに良い天気。本来ならば今頃はシーライト王国で冒険中だったはずなのに……。

 ……なんて、ついつい愚痴をこぼしたくなってしまうが、さすがに今日は飲み込んでおく。

 だって、お茶会と聞いて家族や屋敷の皆が喜んでくれているから。

 正直に言うと、あんなに喜んでくれるとは思わなかった。

 そんな風に想って貰えているなんて、思いもしなかったから嬉しかった。

 思い出して少し気恥ずかしくなっていると、


「はい、お嬢様。準備が出来ましたよ!」


 と、衣装を整えてくれていたアズが、声を掛けてくれた。

 今日は少しだけ洒落たドレスである。深いグリーンの色合いが森の木々を彷彿とさせて、とても綺麗だなと思う。

 普段は動きやすさをメインとしているので、こういったドレスを好んで着る事はあまりない。

 それにしても、私のクローゼットにこんなのがあったんだ……。

 自分の部屋の事だけど、興味がないせいで覚えてもいないのは、さすがにまずいか……。


「ところでお嬢様、本日のお茶会は本当に、お嬢様のお部屋で良いのですか?」

「うん、大丈夫」


 心配そうに言うアズに、頷いて見せる。

 そう、今日のお茶会は私の部屋で行うのである。

 うちの屋敷にも、ちゃんとお茶会用の部屋はあるのだが、今日だけは別だ。

 何せ怪し過ぎる手紙で開催されるお茶会なのである。用心するに越したことはない。

 私の部屋ならば、幾らでも好きなように護身用の魔法陣を張れる。これ以上の安全な場所はないだろう。

 そんな事をアズに話したところ、


「出来れば部屋の被害は最小限に! 最小限にお願いします!」


 と、繰り返し言われた。

 いっそ部屋全体に防御用の魔法陣を設置した方が良いだろうか。

 とりあえず、努力します、と返しておいた。


 そうこうしていると、再び部屋のドアがノックされた。


「お嬢様、ご到着されました」

「ありがとう、すぐに行きます」


 呼びに来てくれた使用人にそう答えると、立ち上がる。

 隣でアズが拳を握りしめ、ふんす、と気合を入れていた。


「どんな方なのか心配ではありますが、お嬢様が学院に通い始めて初めてのお茶会です。私も精一杯、頑張りますね!」


 ありがとう、アズ。

 でも、そうか。私、そんなにお茶会開いたり、呼ばれたりしてなかったんだな……。

 唐突に自覚した事実に、何とも言えない気持ちが競り上がって来るのを感じながら、私は出迎えに向かった。





 さて、まず結論から言うと、明らかにおかしかった。

 私たちが出迎えに行くと、そこには帽子を深くかぶった女性、らしき姿があったのだ。

 あったのだが、その背格好は明らかに、十二歳の少女とは思えなかった。

 うちの兄上よりは低めの身長と、広めの肩幅。赤色のドレスを纏うその体つきには、柔らかな女性らしい線はなく、がっしりとしていた。


「ハジメマシテ、ガーネット・ダマスカスフィストとモウシマス」


 裏声で挨拶をする自称ガーネットは、帽子を深くかぶっているため、顔は見えない。

 もしかしたら万が一の確率で本当にガーネットさんなのかもしれないが、斜め後ろに控えるアズの顔を盗み見ると唖然としているので、そのセンはないだろう。

 ならば、これは誰か。

 ……もうここまで来ると、さすがに私でも誰かという予想はつくが。


「初めまして、ベリル・ミスリルハンドです」


 とりあえず動揺を声と顔に出さずに挨拶出来た事を褒めて欲しい。

 できるだけ優雅に見えるように微笑むと、ガーネットさんは明らかにホッとしたような雰囲気になった。

 バレなかった、とでも思ったのだろうか。

 ところで自称ガーネットさんの後ろに控えている側仕えの目が、明らかに死んでいるのだが、どうしたら良いのだろうか。

 そして何より、つい先刻まで元気に仕事をしてくれていたうちの使用人たちがとても動揺しているのが、申し訳なくて仕方がない。

 どうしてくれる、コノヤロウ。

 事実が明るみに出たら()には猛省して欲しい。


「ガーネットさんは、その……とても成長期なのですね?」

「ソウナノデス……オハズカシイデスワ……」

「私は身長止まってしまったので、羨ましい限りです」

「マァ……ベリルサマハソノママデ、ステキデスワ……」


 とにかく私は、成長期なのだという事をごり押しする事にした。

 そうでなければ私にお茶会に招待する相手がいるのだと喜んでくれた、家族や使用人たちに申し訳ないからだ。決してガーネットさんたちのためではない。

 これが使用人たちの前でなければ、帽子を引っぺがして「正体を現せ!」とでも言っている所である。

 そんな私の必死の茶番劇に、アズが涙ぐんでいた。肩が震えているので、笑いを堪えているのかもしれない。

 私も一周回って変な笑いが出そうになって来た。


「それでは、行きましょうか」


 成長期だと周囲にアピールしたあと、私は自称ガーネットさんたちをお茶会を開催する自室へと案内する事にした。


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