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第十話「放っておけば良いのでは?」


 謹慎明けの学院で聞いたのは、隣国のシーライト王国でダイヤ王子とその取り巻きの株が暴落している、という話だった。

 恐らく冒険者たちの間で噂話が広がったのだろう。

 しかしいくら何でも早すぎる。

 ダンジョンネットワークならぬ冒険者ネットワークと言ったところだろうか。 

 大事な部分は話していないし口止めはお願いしてあるけれど、それ以外のふわっとした部分が広がってしまったようだ。

 ……さすがに責任は感じる。思わず愚痴を言ってしまったのは私だから。

 ダイヤ王子たちからは疑いの眼差しを向けられはしたが、名目上は謹慎中であったので直接何か聞かれる事はなかった。


 ……いや、でも本当に悪かったと思う。


 噂話の火消しに奔走するダイヤ王子たちを見ると、かなり申し訳なく思う。

 自分でもここまで話が大きくなるとは思ってなかったんだ。

 シーライト王国に行った時に、新しい噂流して貰おうかな……。


「この状況をどうしたら良いかな……」

「放っておけば良いのでは? あんなの親子まるっと自業自得です」


 アズに相談してみると、そう一刀両断された。

 確かに人の噂は二か月ちょっと経てば収まると言われているけれども。

 そうそう「親子まるっと自業自得」で思い出したが、アルマさんに嫌がらせをしていた件はやはり国王夫妻が絡んでいた。

 私の仕事への手助け以外に、どうやらダイヤ王子とアルマさんが良い関係になるのは困っていたというのが理由の半分らしい。

 おかしいな、ズルタ陛下とモルガ王妃は恋愛結婚だったはずだけど、自分の息子は例外なんだろうか。

 ちなみにモルガ王妃がズルタ陛下に「悪役令嬢は王子の恋人に嫌がらせをするのが正しい作法」とも言ったらしい。

 そんな作法は古今東西聞いたことが無い。


 まぁ、そんなこんなでアルマさんへの嫌がらせが発生していた、というわけである。

 嫌がらせの内容については、アルマさんのドレスに紅茶をかけたとか、教科書を噴水に捨てたとか、花瓶の水をかけたとか……どういうわけか水関係が多かった。水難?

 そもそも紅茶の件も花瓶の件も、犯人が目の前にいるのだから私ではないと分かりそうなものなのだけど、恋は盲目という奴か。


 だが被害者であるアルマさんは、自分の目で見て分かる範囲のものには全て「ベリル様ではありません」と言ってくれていたそうだ。これにはアズの好感度も「ほほう」などと、ちょっと上がっていた。

 全部ではなくちゃんと自分で判断できるものに限って、というあたりが良いらしい。そこは私も同感だ。これは今度、何かお礼でもすべきだろうか。

 ちなみにダイヤ王子たちは「ベリル嬢を庇うなんて、君は優しいね」など、私が犯人である前提でアルマさんの話を解釈したため、アズの好感度がだだ下がりだったが。

 アズが「あいつら目が腐ってやがる……」と据わった目で言っていたのを良く覚えている。


「そんな事よりお嬢様! 明日は休みですよ!」

「そうだねアズ。いやぁ素晴らしいかな、三連休! 謹慎明け翌日から休みとは、何と言う幸運!」


 そう、謹慎が終わったばかりだけど、もう明日は休みなのだ。

 休みは良いね、大好きだ。また明日からシーライト王国での冒険が待っていると思うと胸が高鳴る。

 鼻歌でも歌いたい気分でいるとアズが、


「エピドート教授にアイテムの補充を頼まないとですね!」


 と言った。なるほど確かに、そこは大事な部分だとも。


「今回もなかなかのレアアイテムが手に入ったから、エピドート教授、喜んでくれるかな」

「喜んでくれるんじゃないですかねぇ」


 エピドート教授の喜ぶ顔を思い浮かべた、楽しくなってきた。

 自分の行動で喜んでくれる人がいるというのは良いものだ。悪役令嬢役なんて押し付けられた後だから、よりそう思う。

 さて、そんな事を話しながら、私達はエピドート教授の研究室を目指して歩き出した――――のだが。


「おい」


 数歩進んだところで不機嫌そうな声に呼びとめられた。

 何だと思って振り返ると、王子の取り巻きの一人のアンドラが立っていた。

 声と同じく顔も大変不機嫌そうである。 


「……貴様、この間は何をした」


 この間と言うと、思い当たる節は幾つかある。

 噂の件だったら申し訳ないのだが……。

 今の言葉だけでは、どれなのか判断がつかないので、ひとまず聞き返してみることにした。


「何を、とは?」

「俺を……した事だ!」

「聞き取れなかったので、もう一度お願いします」

「だ、だから! 俺を、た、た、倒した時の事だ!」


 アンドラは真っ赤になりながら早口でそう言った。

 はっきりと言葉にしたくないものだったようで、声が若干上ずっている。

 なるほど、そちらか。アズの事で腹が立ったので腹に拳を叩き込んだアレである。


「いや、何をと言われても特別な事は何も。……ああ、よもや、もう一度受けてみたいと?」

「そんなわけがあるか! そうではなく、ありえないだろう!? あの拳だ、拳! ひ弱そうな公爵令嬢が繰り出す威力ではなかったぞ、あれは! どんな魔法を使ったんだ!」


 どうやらアンドラの中で私は『ひ弱そう』な部類に入るらしい。

 そうか……ひ弱そうに見えるのか……。

 それならば私の演技も、まだまだ捨てたものではないのでは。ふっふっふ……。


「……お嬢様、顔がにやにやしていますよ」


 少し嬉しくなっていあらアズに小声でそう言われた。

 おっといかん。慌てて手で上がった口元を抑えると、スッと下へ引っ張って表情を戻す。


「あれは魔法ではありませんけれど」

「魔法でないならば、ありえないだろう!」


 先ほどからアンドラは「ありえない」とずっと繰り返しているが、倒された事を認めたくないのだろうか。

 うーん、面倒くさい。こういう手合いは認めても認めなくても厄介だ。

 ここは放置してさっさと帰るのが一番か。


「ありえないと仰られても、私が言えるのは魔法ではないという事だけです。ご不満でしたらご自分でお調べ下さいな。これ以上は不毛でしょうから、私はこれで。では」


 そう言って、私とアズはさっさとその場を後にした。

 アンドラはまだ言い足りないようでついて来たが、ダンジョンで鍛えた私たちの脚力を舐めないで頂きたい。

 角を曲がってアンドラから姿が見えなくなった一瞬で、私たちは猛ダッシュ。


「消えた!?」


 なんて言葉が聞こえて来たが、まぁ、放っておこうっと。

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