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第九話「ひどい解決法を聞いた」


 予想通り謹慎処分となった――どうやら突っかかってきたアンドラもそうらしいが――ので、それを利用して私とアズはシーライト王国へやって来た。

 謹慎しなくて良いんですかとアズに聞かれたけれど、自分の部屋の転移魔法陣で移動しているので問題ない……という事にする。

 どうせ知り合いは誰もシーライト王国には来ないからね。


 そうしてシーライト王国へやって来た私たちが向かう先は、もちろん冒険者の酒場である。

 何だかんだでここが一番落ち着くんだ。

 冒険者たちの中にいると肩の力が抜けるというか――楽になれる。

 たぶん自分の家よりも居心地が良いと感じている。


「あっれ、ベリルにアズじゃん。今日は学院じゃねーの?」


 酒場に入ると直ぐにジャスパーが私たちに気付いて近づいてきた。

 服が少し汚れている所を見ると、どうやら冒険に出ていたらしい。

 いいなぁ私も学院がなければ一緒に冒険がしたかった。


「いやぁちょっと謹慎処分になってね」

「謹慎? えぇ……何したの?」

「お貴族様をぶっ飛ばしただけですわ」

「へぇー、そりゃまたアグレッシブですこと! つーか謹慎してなくね?」

「トルマリン王国内では外に出ていないのでね!」

「どんな裏ワザだってーの、ソレ!」


 ジャスパーはケラケラ笑うと、自分が座っていたテーブルに案内してくれる。

 そこにはアイドも座っていていて、私たちを見ると「おう」と手を上げてくれた。

 私とアズは椅子に座ると、ふう、と息を吐いた。


「何じゃ、疲れておるの?」

「うん、まーねぇ。……あー、やっぱりいいなぁこっちは。学院卒業したらホントこっち住もうかなぁ……」


 そんな事を言うと、近くの席に冒険者たちにも聞こえたようで、ひょいとこちらを覗き込んで来た。


「何なに? ベリルとアズ、うちの国に来るの?」

「んー、まだ未確定なんだけどねぇ。一応はライト陛下からお誘いは頂いてるんだ」

「あー、つまり親善系ってヤツ?」

「そうそう、親善系。ただ私、トルマリン王国での評判は暴落中なので、果たして親善的な意味でお役に立つかどうかがね」


 私の言葉にアイドが怪訝そうに片方の眉を上げた。


「暴落中? ベリルは何ぞ悪事でも働いたのか?」

「いや、最近、悪役やっててねぇ」

「は?」


 アイドとジャスパー、そして冒険者たちは揃って首を傾げた。

 そんな彼らにかくかくしかじかと、掻い摘んで説明をする。

 ズルタ陛下から「内密に!」という話もあるので、明かせない大事な部分は隠しての大まかな感じだけど。

 話し終えるとその場にいた大半は噴き出した。


「へー? つまり何か悪い奴が入り込んでいるってことか」

「それならば、あぶり出せば良いのではないか?」

「あぶり出し? 火でも使うの?」

「そうではなくてな。ほら、グランドメイズの仕掛けに真実の口ってあったじゃろう? 嘘をついていると腕が取れなくなる奴じゃ」


 あー、あれかぁ。

 アイドの話に、以前にグランドメイズ中に見つけた石像の事を思い出した。

 平たい円形の石像なんだけどね。

 石像には顔が掘られていて、口の部分に穴がぽっかりと空いているんだ。

 その中に次の階層に進むためのカギが入っているんだけど、実はその石像、嘘を吐くと穴が狭まって手が抜けなくなるという罠が仕掛けられていた。

 罠を回避するには嘘をつかなければ良いだけなんだけど、ご丁寧に謎かけが置いてあってね。

 その答えのために嘘をつかなければならないんだ。


「あったね、ジャスパーが半泣きになった奴」

「覚え方」


 ジャスパーが半眼になった。

 どうやら当事者にとっては苦い思い出らしい。

 でも確かに真実の口を使う事が出来れば便利だよね。

 グランドメイズから持ってくるというわけにはいかないので、似たようなものを探すか作るかしなければならないのが問題だけど。


「でもあれを用意するのは結構手間がかかるなぁ」

「ま、何もそのままやらなくても良いんじゃない。例えばさー、俺らダークエルフなら、まず土の精霊に頼んで地面に足を引っ付けてもらって動けなくさせる」

「ふむふむ」

「そこでこの質問に答えなければ一生このままだぜーって尋問する」

「尋問の答えが嘘か誠かはどこで判断するの?」

「その状態で幻覚効果のある茸の胞子で作った魔法薬をかけて話すように誘導する。解毒薬をセットにするとオススメ」

「ひどい解決法を聞いた」


 ニヤリと笑ってみせるジャスパー。

 確かに良い方法だなと思うんだけど、悪役令嬢っぽさが加速しそうだ。

 というかジャスパーは魔法は苦手だけど、そのくらいなら使えるのか。

 そんな話をしていると、さらに冒険者が集まってくる。


「何だ、嬢ちゃん困ってんのか? 何ならこっちで何か探らせてやろうか、金かかるけど」

「ていうか、貴族のボンボンにもゾンビみたいに腐ったのがいるのねー。性根が分からないだけゾンビの方がましじゃん。ねー」

「え、いや……うん……」

「やめろよ、あいつゾンビに求婚された事あるんだぞ」

「ゾンビって求婚するの?」

「理性が残ってるとするらしいぞ」

「マジか。ゾンビ倒せなくなる奴だぞそれ」

「お客様の中でターンアンデッド使える奴ー」

「いるわけねぇだろ酒場だぞ。聖職者は禁酒だろ?」

「はーい、いるわよぉ~……ヒック」

「おい破戒僧」


 酒が入っているのか、冒険者たちはやいのやいの言いながら笑い合っている。

 賑やかで、和やかで、眩しいその光景が私は好きだ。

 何だか楽しくなって彼らの話を聞いて笑っていると、ジャスパーにちょいちょいと肩をつつかれた。


「なぁベリル。あっちの暮らしってしんどいの?」

「しんどくはないけど、こっちの方がずっと楽しいよ」

「ふーん? なら、もしこっちに来る事になっても家の方は別に平気な方?」

「優秀な兄上や姉上がいるからねぇ。私一人こっち来ても問題はないと思うよ。今も、これこの通り自由だしね」

「…………そっか。まぁ、うん、何かあったら話は聞くぜ」


 そう言って、ジャスパーは優しい言葉をかけてくれた。


「どうしたのジャスパー、優しいね」

「俺は女の子には優しいの。惚れそう?」

「それがなければね」

「あっはっは」


 ジャスパーが楽しそうに笑った。アズも何となく微笑ましいものを見る様な目でこちらを見ている。

 周りの冒険者たちも何やらニヤニヤしているように見えるけれど……何だ?


「そう言えばさーこっちの国に来るって事は、ベリルって誰かと結婚するの?」

「あー、そうなるよねぇ、多分。一応お見合いの話は幾つか貰ってる」

「は?」


 ジャスパーが目を丸くした。

 何か驚くような事はあっただろうか。


「誰々? いけめん? ないすみどる?」

「割と。ただお見合いの行程とか色々が面倒で……」

「もうお嬢様! こちらに住むならお見合いも面倒くさがらずに!」

「え?」

「いやでもさぁ……まだ早くない?」

「むしろ遅い方だと思いますわよ。この間だってずぼらな所がバレて、向こうから打診があったのにお断りされたでしょう?」

「あれは向こうが悪い」

「お嬢様も悪いです」


 むう、と口を尖らせると、アズが肩をすくめた。

 その隣では、何故か青ざめているジャスパーの肩にアイドが手を置き、


「急がんと、終わるぞ」


 などと言っていた。

 何が終わるんだろうか。

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