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プロローグ


 トルマリン王立学院の講堂では、現在進行形でとある対立が起きている。

 片方はトルマリン王国の第二王子ダイヤと彼の恋人であるアルマ、そしてその友人一同。

 もう片方はトルマリン王国の公爵令嬢であるベリルと彼女の側仕えであるアズだ。


「――――今、何て言ったかな?」


 大勢の学生達が見守る中で、ダイヤは王子らしい紳士的な態度を崩さずにベリルに尋ねる。笑顔こそ浮かべているものの、その目は一切笑っていない。彼の斜め後ろに立つ取り巻き達など嫌悪の表情を隠しもせずにベリルを睨んでいる。

 だがベリルは怯みもせずに、気だるげな笑顔を浮かべてダイヤの質問に、


「ですから、アルマ様は殿下には相応しくない、と申し上げているのですわ」


 と、酷い棒読み(、、、)で答えた。表情や動作こそはお嬢様然としているのだが、口から出てくるのはこれ(、、)である。あまりのチグハグさと不自然さに、ダイヤは怪訝そうに目を細めながら言う。


「……彼女は私が選んだ相手だ。相応しい、相応しくないは私が決めるよ」

「まぁ、本当に殿下は誰かれ問わずお優しいこと」


 ホホホ、とベリルは上品に笑うと、ダイヤの笑顔が固まった。受け取りようによっては「このチャラ男が」とでも聞こえたのかもしれない。相変わらずの棒読みだが、ダイヤが嫌う言葉を的確に突いて行くベリルに、見守る学生達も嫌悪感を募らせ始める。

 だが、その時だ。


「ですが――――ですが……ですが?」


 さらに何かを言いかけたベリルが、不意に真顔になって首を傾げた。すると後ろで控えていたアズがベリルに向かってスッと一冊の分厚い本を差し出す。ベリルはそれを受け取るとパラパラとページをめくった後、何事もなかったかのように笑顔を作った。


「ですが殿下はご自分の振る舞いをよくお考えになるべきですわ。……ねぇ、そちらのあなた」


 相変わらずの棒読みでベリルは今度はダイヤの隣に立つアルマにエメラルドの目を向ける。急に話を振られたアルマは目を瞬いた。


「殿下の優しさは有限ですわ。せいぜい存分に今を楽しんでおくことね」


 感情の読めない眼差しに貫かれ、アルマはびくりと体を強張らせる。それを見てダイヤがアルマを庇うように前に出る。ベリルはそれを一瞥すると、アズを連れて講堂を出て行った。

 ベリルの靴音が遠ざかり、完全に聞こえなくなると、行動は少しずつ賑やかになって行く。

 遠巻きに見ていた学生達がわらわらとダイヤに近づき、口々に「大丈夫ですか?」と声を掛けている。ダイヤはアルマを気遣いながら、笑顔でそれに応えていた。

 そんな中で、対立には関係ないただの学生の一人は呟いた。


「…………何で棒読みなんだ?」


 誰もが思った疑問である。だがしかし、誰から答えが返ってくるわけでもなく、その声は賑やかな声にかき消された。


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