枯れはてた泉
ファンタジック
とおい昔
ある村に深い森があった
森は木々が生い茂り、下草が繁茂し
人が通るのは難しかった
その森は、金持ちの女の持ち物だった
女は通りすがりの旅人と恋におち
男の子を授かった
子供が授かったのを知ると
通りすがりの旅人は何も言わず立ち去って行った
女は財力にものを言わせて
男の子を何不自由なく育てた
男の子は父を知らなかったが
女の深い愛情を受けて育った
しかし、その女の愛情はすこし
歪んでいたため
男の子はこらえ性のないわがままな男に育ち
仕事もせずにぶらぶらと酒をのみ
気に入った女を見つけると
力ずくでものにした
村での男の評判は確かに良くなかった
やがて金持ちの女ははやり病にかかり
あっけなく死んでしまった
母親がなくなると
男の財産はたちまちのうちに少なくなり
そのうち食べるものにも事欠くようになった
お金が無くなるといやいや男の城にいた
おんなたちは次々を立ち去って行った
男は一人になった
一人になると、自分で食事も作れず
なにも食べられなくなり
次第におとこは弱っていった
あるひ男が目覚めるすこしまえ
男は不思議な夢をみた
亡くなった母親そっくりの女神が
男の枕元に立ち
こういったのだ
人気のない森に行きなさい
そして井戸をほりなさい
男は面相臭いと思ったが、特にやることもなく
暇だったので女神のいうとおりに
自分の土地である森に行き
つるはしで地面を掘り始めた
ほどなくして
地面から水が湧き出てきた
その水は初めこそ泥水で汚れていたが
勢いよく吹き出し続けるうち見事なまでに透き通り
深い泉に変わった
男はしばらくそのヒスイ色の水に見とれた
なれない力仕事をしてのどが渇いた男は
その水を両手ですくって、一口飲んだ
するとたちまち体は生き返り、気持ちも楽になった
ほっとして休んでいる男は眠たくなって
森の中で昏々と眠った
眠っているうちに夢を見た
母親にそっくりの女神がこういった
この水をビンに詰めて、村で売りなさい
命の水という名前で、一口飲めばどんな病人も蘇生すると
歌いながら売るのです
男は女神のいうとおり、たくさん水をビンに詰め
歌いながら村で水を売った
水はたちまち評判になり
男はまた財産を再び増やした
増えたお金で人を雇い、水をビンに詰めさせ
村に売りに行かせた
水はどんどん売れた
村中の病人がぞの水を飲んで元気になった
おとこは村人に感謝されたが
感謝という気持ちを持ったことのない人間だったので
なにか居心地の悪い思いがした
やがて男が雇った人間は、今まで以上の給金を要求するようになった
たくさん売れているのだから、自分にも分け前を増やせと
おとこはにべもなく断った
あの森はうちの土地だうちの土地に湧水がでたが
そもそもそれを掘ったのは自分だ
おまえはただ言われたとおりに水を瓶詰にして
売っただけではないか
俺はお前の給金を上げるつもりはないよ
雇い人はケチな男に嫌気がさしてこういった
それじゃ、またあんた一人で水を汲み瓶詰して
村に売りにいくといい。
そう言って雇い人は男の前を去っていった
おとこは怒りを覚えながら水を瓶詰してたくさんのビンを
肩に背負いながら村にいき、歌いながら水を売った
命の水、女神が教え居てくれた
命の水、一口飲めば
命の水、つけれ知らず、重い病気も
たちまちよみがえる
命の水、買っとくれ
たちまち人だかりができた
そこでおとこはこういった
水はとても貴重なもので
だんだん泉が枯れ始めたから
今日から倍に値上げするよ
村人は驚いた顔をしたが
命の水の効き目はそうとうなものだとわかっていたので
文句をいうこともなく
倍の値段で買い取っていった
おとこは来る日も来る日も思いビンを肩に背負って
一人で水を売り歩いた
ある日
一人の村人が男にこういった
この水はただの水だ
飲んでもちっとも効かなくなった
そんなはずはない、でたらめ言うとうってやらないぞ
でたらめではない
お前、つかれているんだろう?試しにお前の売っている水を飲んでみるといい
おとこは怒りを伯母得ながらも確かに疲れを感じていたので
いわれるまま水を一口のんでみた
以前に飲んだすがすがしく、力が湧いてくるようなあのよみがえる感じが
まったくしない、ほんとうにただの、水だった
しかし男は頑としてそれを認めず
命の水だ、そういって歌いながら水を売り切った
いつまでも売れると思わないほうがいいぞ
お前のやっていることは偽りだからな
村人は男を指さしながらそう言って立ち去った
そんなはずはない
男は自分の森の中にある
泉に向かって言った
泉はあった
しかし、水はかつてのヒスイ色とは程遠い、ただの沼地のような泥水にかわっていた
しかも水面はだいぶん干上がっている
おとこは疲れと驚きですぐに眠くなり、その場に頽れた
夢のなかに母親ににた女神が出てきた
水はうれましたか?
うれました
何本うれましたか?
何本も何本も飛ぶように売れました
お金はもうかりましたか?
以前のように贅沢なくらしができるようになりました
なにかいう事はありませんか?
女神はほほ笑んで男にこういった
いいえ、何もいうことはありません
そうですか
女神はまたほほ笑んだ
しかしそのほほえみは質問の前の笑顔とは明らかに違って
なにか謎めいた色を浮かべていた
なにか間違ったことをしたかな
おとこは少し怖くなった
だが、深く考えることが苦手なおとこは再び眠くなり
うとうとと眠りに落ちて
そして二度と目覚めることはなかった
深い森はなおも下草が生い茂り今では誰も立ち入れるものはいない。
教訓を見出しても見出さなくてもよし