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二章 救出



目が覚めるとそこは見慣れた天井...... ではなかった。


灰色の石造りの質素な部屋で自分は寝ていた。


窓際から除く光は月の光のように暗い。


今は夜だろう。


こんな所で自分は寝ていなかったはずだ。


そう思い何度も目を開け閉めするが、何度見ても石造りの質素な部屋だ。


なぜ自分がこんな石造りの質素な部屋に閉じこもっているのか。 疑問に思った明は


体を動かそうとすると、また手足が動かない事に気づく。


体を動かそうとすればするほど手足に痛みが走るのだ。


「何がどうなっているんだ?」


明は呟いた。


その後、何度も体を動かそうと試みるが結局動けないままだった。



十分後。



動けないのでずっと寝たきりだった明に救いの手が差し伸べられる。


誰かが部屋の中に入ってきたのだ。 その人は真っ白な服を着たクリーム色ロングヘアーの美人。


真っ白な服がクリーム色の髪と合わさってまるで天使のようだ。


「やっと起きたのね!」


美人さんは明を見ると笑顔になった。


「道でオーガに襲われていた時なんかどうなっていたのかと思ったわ!」


その言葉を聞いたとき、明は思い出した。


ゴブリンの進化系、オーガに襲われて気絶したのを。


そうか、体が動かなかったのは骨が折れていたせいか。 この人は俺を助けてくれたのか。


明は恐怖を感じた。 だが、助かったという事で心の底から湧き上がる嬉しさのほうが恐怖より上だった。 感謝の念しかない。


「ありがとうございます!」


「そうね、どういたしまして! あっ、動いちゃだめよ、どうせ動けないだろうけどね......」


「オーガはどうなったのですか?」


そこで、美人さんは黙った。


「あの、何が起きたんですか?」


「ちょっと長くなるけど、聞いてくれる?」


「はい」


美人さんは苦しそうに口を開いた。




ーーー


ーーーーー




美人、改めミラは彼女の友達のルーと共にゴブリン退治をしに森にやってきていた。


「ルー。 なんで私たちがコボルドなんかを退治しに行かなきゃいけないのよー」


ミラはめんどくさそうに言った。


「しょうがないじゃない。 私達じゃ他の魔物、例えばオーガとかを退治するには実力が足りないのよ。 だから、弱いコボルドを沢山狩ってお金を儲けるしかないのよ。 それに、コボルドの肉は美味しいよ?」


この世界ではゴブリンやオーガ、コボルドは勿論、他にはオーク、レイス、ゾンビ等の魔物がそこら中にはびこっている。 魔物の脅威におびえた人間は魔物を狩ればお金をもうけられるシステムを社会に作り、人間を魔物と戦わせることで魔物と言う脅威をしのぐことにした。 その中でもコボルドと言う魔物はゴブリンに並ぶ最弱の魔物として知られており、コボルドの肉は安価で手に入れられる美食として名を馳せている。 それで、彼女達はコボルドを狩りに行こうとしていたのだ。


「ルー! あれを見て!」


突然、ミラが声を上げた。


「ん?...... なにこれ......」


そこで、ミラ達が見たのは、オーガに血だらけになりながらも打たれている明だった。


正義の味方ぶっていたのかもしれない。


まだあまり冒険をしたことのない彼女達はオーガならいけるかもしれないと思ったり、


「助けよう!」


「うん」


ザッザッザッザと土をむしる音を鳴り響かせながらミラ達は走り出した。


「作戦は!?」


「オーガが隙を作ったらエクスプロージョンで棍棒をふっとばして! そしたら私が時間稼ぎをするからあなたはその間に彼にヒールなりなんなり応急処置を!」


「わかった!」


ミラはオーガに隙が出来るのを待った。 そして、その時が来た。


オーガがこれで終わりだとばかりに明を打とうと棍棒を振り上げる。


「風と炎の精霊よ力を...『エクスプロージョン』!」


ミラが手を天に掲げて呪文を言うと、魔方陣が彼女の手に浮かび上がってきた。


そして、その手をオーガの棍棒に向けてキーワードを叫ぶと、オーガの棍棒より少し上に小規模な爆発が起きた。


「グオォォォォォォオ!」


「今よ!」


爆発でオーガが怯んだ隙にルーがオーガに切りかかり、ミラは明を抱き上げる。


「癒しの精霊よ力を...『ヒール』...... よし、治った」


治った明を見ると、上出来だとばかりに微笑み、そしてルーの方を見た。


彼女はこれで逃げれば万事休すかと思ったのだが、やはり現実、そう簡単に行くものではないのだ。


「ルー!?」


狂っているとしか思えない。 魔物とはそういう物なのか? 彼女は思った。


振り向いた彼女が見たのは死んでいるとしか思えない姿に変わってしまったルーと、死んでもなおルーを打ち続けるオーガだった。


「あっ.......あぁぁぁっ......」


彼女が唖然とすると、こちらに気が付いたのか、オーガはこちらを振り向き、そして、歩んできた。


「あぅ......」


恐怖のあまりに声が出ない。 だが、ここで死んだらルーと私が守ったこの男の人は死ぬし、ルーの努力が無駄になる。 そう思った彼女は腰が抜けていながらも、手を使い懸命に逃げた。


普通なら数秒で追いつける程度のスピードだろう。 だが、オーガは調子に乗っていた。


わざわざゆっくりと歩いてミラ達を追い詰めようと思ったのだ。


だが、その行動はオーガが後々後悔することになる。


「ぁっ...... じ、時空の精霊よ.......ち、力を! 『テレポート』!」


この一方的な戦闘は、一方的に痛めつけられたミラが勝った。


ミラは逃げている間、時間をかけながらも瞬間転移の魔法を使ったのだ。


逃げた後、とりあえず自分の家に寝かせて、明を看病して、今に至る。




ーーーーー


ーーー




「そして、今に至るわ」


「そうか...... ごめんなさい......」


いつの間にか、二人とも泣いていた。


明が泣いている理由は同情、そしてもらい泣きだ。


「貴方が、謝る必要はないわ」


強がっている。 他人に自分の弱い所を見せたくない。


そんな一心でミラが涙をこらえているのが丸分かりだった。


こんな時なら、そっと抱きしめてあげるのが一番だろう。


それは仲間の死という事を分けられる人が必要な彼女にとって救いになるのだから。


明はできなかった。 単に臆病だったのかもしれない。


見ず知らずの女性にそれをやるのはいけないし、こんな重い事を彼女のために背負ってあげることが怖かったのだ。


「今日はもう遅いし、私はもう寝るわ。 貴方はこの部屋で寝てて頂戴。 明日、医者が来るから、それまでの辛抱よ」


「......おやすみなさい」


「おやすみなさい」


ミラはガチャン、とドアを優しく、それでいて荒立たしい様に閉めて部屋を出ていった。




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