損して恥掻く
損して恥掻くとは
『損して恥をかく』とも言い
損をしたうえに恥までかくということで、さんざんな目に遭うという意味………
カーン、カーン、カーン
薄暗い洞窟の中、リズム良く鳴り響くつるはしの採掘音…あのポーション騒動から3日、OYAZIは始まりの町"ジャネイロ"近くの鉱山に来ていた。
「ふぃー、こんなもんかな?」
OYAZIは汗を拭いながら取れた鉱物をアイテムBOXにしまい、休息し始めた。
ポーション騒動はレシピ公開と、大手生産ギルドの付喪神が劣化版を販売しはじめ、かなりの数の効果付きのポーションが出回った事により自体は収束に向っていた。
さらに次の日には、レシピをヒントに他の生産系ギルドからも違う効果や、味の違うポーションが低級はもちろん、中級・上級と販売されたので目に付く様な混乱は無くなっていった。
なのでOYAZIも大量のポーション作りから解放され、こうやって別のスキルのレベル上げに来ているとゆう訳だ。
そして現在の装備とステータスはこんな感じだ。
名前:OYAZI
性別:男
称号:ポーションマスター?(ポーション類製作スピード上昇(低))
レベル:11
Exp:4
スキル
料理人(10)・錬金術師(12)・皮師(3)・木工技師(14)・盗賊(18)・薬剤師(23)・鍛冶師(3)・(5)工師(8)・樵(16)・軽装備(8)・身体能力上昇(12)・鉱夫(New)(4)・園芸師(New)
サブスキル
エンチャンター(New)(2)・被服師(2)
頭 :布のバンダナ
顔 :無し
上半身:始まりの軽装(上)
下半身:始まりの軽装(下)
腕 :皮の籠手
足 :皮のブーツ
インナー:普通の下着
武 器 :初心の両手斧
アクセサリー:精霊の三珠
:初級魔術師の指輪
見てのとおり、新しいスキルを覚えた。
まず"鉱夫"だがこれは採掘のスピード強化とドロップ率アップする鍛冶師の補助スキルになる、もちろん戦闘は可能だがつるはしかスコップ・ハンマー武器にするタンカー系スキルだ。
鍛冶師と合わせる事で耐久値が上がり壁役として重宝されている。
そしてサブに入れている"エンチャンター"が元々、欲しかったスキルだ。
なにせExpを15も消費して覚えたスキルだ。
このスキルは武器・防具・アイテム・素材に魔法を付与できる補助スキルになる、戦闘時はパーティーメンバーや自分に速度上昇や耐久値アップ等の効果を付与でき、効力は弱いが回復・解毒といった魔法も使える後方支援職のスキルだ。
このスキルがあれば、より強力な効果の付いた物を生産できるので今後を見込んで取得した。
"園芸師"は、植物系の採取スピードアップと採取品質アップのスキルで薬剤師の補助スキルになっている、これはこの間のポーション騒ぎの時に慌てて取った物だ。
一応このスキルがあればマイハウス内で植物の栽培が可能で、生産系ギルドでは"農夫"とセットで取得しギルドルーム内で薬草なんかを栽培しているらしい、OYAZIとしては追々取得するつもりだったのだが止む止まれず、と言ったところだ。
さて、それなりの量の鉱石を採掘できたOYAZIは採掘で減った渇水と空腹を回復するため休憩していると、他のプレイヤーが声をかけてきた
「おっ、そこ空いてる?」
「あぁすみません、今退きますから」
「いや、そのままで良いよ。横を掘らせてもらうから」
話しかけて来たプレイヤーは、盾有りの片手剣をメインにしたタンカーらしくて耐久アップのため鉱夫と鍛冶師を入れているんだとか、それで鉱夫のレベル上げのため採掘に来たらしい。
そのプレイヤーはこのゲームをは結構前からプレイしていたらしく色々な話をしてきた。そして『あくまで噂、程度だが』と前置きをしてとある話をし始めた。
「そういば、あんたは、新規の人?」
「えぇ、そうです。」
「なら、あの話……知ってるか?」
「あの話……ですか?」
「やっぱり知らないか? 実はこの採掘場さぁ、かなりの低確率だけどオリハルコンも一応出るんだわ」
「そうなんですか!? へぇー」
(オリハルコンかぁ、序盤からそんなの採掘できたら良いなぁ……まっ、ありえないだろうな宝くじ当てるより難しそうだもんな)
OYAZIは、内心苦笑しつつ男の話の続きを聞いた。
「それでな、鍛冶師や鉱夫のレベルが低いとドロップしても"???"で名前が分からないらしいんだよ。」
「あぁ、それで分からず加工して失敗しないようにと? 勿体無いからって事で」
「違う違う、逆だよ逆……ある程度何の鉱物か読めるようになるだろ? しかし、オリハルコンはレアな素材アイテムだから、鉄とか銅が判別できるようなレベルでもオリハルコンはまだ"???"状態のはずだから、それを見つけて無理やり製錬するって話さ」
「製錬って、レベルが足りないと製錬自体できないでしょ?」
「それがオリハルコンの鉱石は耐久が高いからロストしにくいんで、稀に評価1とか2で製錬できる事があるんだと」
「そんなまさかぁ」
「まぁ、あくまで噂だけどな! それでもし製錬ができると一気にレベルが上がるらしいんだ」
「それって都市伝説とかの域を出てないですよね? 眉唾も良いいところじゃないですか」
「はっはっはっ! 確かにな、まっでもオリハルコンが出るのは本当らしいからな、俺も出したって人はお目にかかった事は無いが、そう言われているしな」
そんな他愛も無い会ををしつつ、OYAZIは採掘場がある洞窟を後にした。
ジャネイロの町に帰ったOYAZIは、採掘した鉱石を製錬するためNPCの工房を訪れていた。
「おっ? お前さん、また来たのかい」
「はい、今回も炉を使わせてください」
「あいよ、何だったら家に弟子入りしないか? しっかり基礎を教えてやるぜ?」
「いえ、他にもやりたい事があるので今はまだ……。」
「そうかい、それじゃあ今回からは有料だからな! 利用料は500クートだ。」
「分かりました。はいどうぞ」
「……確かに、毎度あり! もし分からない事があったら気軽に声かけてくれよな!」
OYAZIは工房の使用料を払うと、空いている炉に採掘した鉱石を1つずつ投入し、鉱物が溶けて出てくるのを待ち、そして出てきた物を型に流し込み冷やして固める、といった作業を暫く繰り返していた。
「アチー……早く鉱石の名前が分からないと、作業効率が悪くてしょうがないな」
チリチリと炉の熱に焼かれHPを徐々に減らしながら作業するOYAZIの傍らには、製錬に失敗した物がどんどん積み上がっていた。
恐らく殆どが金・銀・白金の鉱石だろう……この鉱石をインゴットにするには湿式製錬と呼ばれる特殊な水溶液に漬けて、金等の鉱物だけを溶かし取り出す方法でインゴットにするため普通に炉で熱して溶かす乾式製錬では、インゴットにできないのだ。
なので、まだ鉱石の名前が判別できないOYAZIは延々と失敗と成功を繰り返しレベルを上げるしか方法が無いのだ。
「くそぉー、こんな所までリアルに作らなくてもイイじゃねぇか……この失敗作の山が金や銀、もしかしたら白金かもしれないと思うと、うぅ……もったいねぇ」
そして数時間後、悪戦苦闘の末ようやく鉱石の名前を判別できるレベル5まで上げる事ができた。
「ふぅ、ようやくかぁ……これでまともに製錬ができるな」
ため息混じりに、製錬に失敗した物を次々廃棄していった。そして同じ名前の鉱物をいっぺんに炉に入れ多くのインゴット作っていった。
結果、インゴットにできた鉱物は錫×9 銅×12 鉄×5となった。
「けっこうできたな、後残っているのは炉では製錬できない金・銀・ボーキサイトだが……これは後日でいいだろう、時間も丁度良いし」
大きく伸びをしポーションを飲み干しHPを回復させると、OYAZIは片付けをし始めた。
すると、足元にまだ鉱石が1つ落ちていたことに気がついた。
「ありゃ、1個忘れてたか? ん、これって……」
拾い上げた鉱石は名前が未だ"???"のままの物だった。
その時OYAZIの頭の中では、採掘時に聞かされたあの話が脳内を駆け巡っていた。
『それでな、鍛冶師や鉱夫のレベルが低いとドロップしても"???"で分からないらしいんだよ』
『それを無理やり製錬するのさ』
『稀に評価1とか2で製錬できる事があるんだと』
『もし製錬ができると一気にレベルが上がるらしいんだ』
「たっただの偶然だよな! もしかしたら今は持っていない白金かもしれないし、それにあれは、あくまでも噂だ。信じる方がどうかしている」
うん、そうだ! そうだとも! 噂だ、噂! コレはまたレベルが上がってから確認をすれば良いんだ。」
そんな風に強がって言ってみたものの、しかし頭の中では《でも》《もし》が繰り返し廻り、そして鼓動は異常なまでに早まっていた。
結局OYAZIは、好奇心に勝てず"???"の鉱石を炉の中に投入した。
(これでもしもオリハルコンだったら、どうしよう♪)
淡い期待を抱きつつオリハルコンだと思われる鉱石が溶けて出てくるのをワクワクして待っていたその時、製錬していた炉の表面にピシッと亀裂が走った。
「ん? 何だ?」
次第にその亀裂は炉全体に広がり終に、ドギャーンッというすさまじい爆音を立てながら炉が爆発したのだ。
「ぬおぉぉぉ!? 何だぁぁぁ!?」
身構えることもできずにそのすさまじい爆風に吹き飛ばされ、工房の壁に勢いよく叩きつけられた。
そして爆音を聞きつけた、他の炉で作業中だったプレイヤーやら野次馬が集まり現場は騒然となっていた。
すると工房の店主が人をかき分けながら大慌てで駆け込んできた。
「どけどけどけ~い、一体何があった!? こりゃ……」
店主の目の前に映った光景には吹き飛んでバラバラになった哀れな炉と、その場にへたり込んでいた1人のプレイヤーの姿だった。
そしてこめかみに青筋をたてて、にこやかな表情で店主はそのプレイヤーにそっと近づいた。
「ここを使っていたのはお前さんだな?」
「はっ、はい……」
「お前さん何をしたんだ? 俺は怒らんから言ってみぃ」
ブチ切れ寸前の引きつった笑顔で、店主は静かに問いかけた。
「おおおっ俺はただ、なっ名前が分からない鉱石を入れただけで……その、あの……」
「名前が分からない鉱石だぁ? てめぇ! そりゃオリハルコンじゃねぇのか!?」
「いえ、その……分からないです。ごめんなさい!」
「謝って済む問題かぁ! オリハルコンがこんな炉で加工できる訳がねぇだろ!!」
この場から逃れたい一心で言い訳を試みたものの結局、店主をブチ切れさせる結果となってしまい、その後こ一時間ほど鼓膜が破れるのではないか? と思われるほどの説教を受け、壊れた炉の片付けをさせられた。
もちろん投入した鉱石は見事にロストしていた。
「たく……俺も注意していなかったから今回は大目に見てやる。」
「ホントですか!?」
「オリハルコンなんて採掘できる可能性なんて無いと思っていたしな、実際これまでこの近くで採掘できたって噂は殆ど聞くことは無かったし、採掘した奴も大概がそれなりのレベルにたっしていたからか、ここでこんな事が起きるなんて思ってもみなかったからな」
「そっそれじゃあ!?」
「ただし! 弁償はしてもらう!!」
「うぅ、やっぱり……」
「いくら俺の注意不足があったと言えど、お前が炉を壊したのは事実だからな! 本来なら50万クートのところを、そうだな……12万クートで勘弁してやる!」
「12万!?」
「無いのなら分割でも構わねぇ」
「大丈夫です、お金はあります。…………どうぞ」
結局OYAZIは、ポーション騒ぎで儲けた分をまるまる失う事になった。
そして、弁償を済ませ意気消沈しログアウトした。
翌日、イルザォン・ヘッヂオンライン の掲示板のHot News! に上がっていた"鍛冶屋で炉を爆発させた大間抜け"の掲示板コメを読んでその夜、俺はログインせず一人枕を濡らしていた。
書いていてふと思ったんですが、オリハルコンってどうやって加工するんでしょう?炉で焼くのかなぁ?それとも特殊な水溶液に入れる?それとも別?
元の『ヘラクレスの盾』の詩に出てくるオレイカルコスは黄銅、銅と亜鉛の合金ポイけど……うーん、どうしよう……
そういえば話は変わりますが、なんと!デイリーランキングに載る事ができましたぁ!これは偏に皆様のおかげです。ブックマーク、コメント、評価まことにありがとうございます。
今後ともがんばって連載していきたいと思います。