好きこそ物の上手(じょうず)なれ
好きこそ物の上手なれ
何事によらず、好きならばそれを熱心にやるからこそ、上達するという意味…
「やっぱりあんまり売れてない……これじゃあダメなのかなぁ? 効果は他で売ってるのより良いと思うんだけど、やっぱり場所がいけないか?」
始まりの町"ジャネイロ"の路地裏でOYAZIは商品を手に取り悩んでいた。昨日2日ある休みのうち1日をフルに使って新しいポーションを作ったが、まったくと言うほど売れなかったのだ。
「でもなぁ、たかだか露店の場所の為に商人のスキルを取るってのもなぁ、どうしたもんか……」
このイルザォン・ヘッヂオンライン では誰でも露店を無料で出す事ができ、登録した商品を店員が居なくとも設定すれば自動で販売できるのだが……
スキルで商人を取得していると優先的に大通りに面した場所を提供してもらえ、高レベルならば町にお金を払うことで特定の場所を一定期間使用できたりするのだ。
無論、商人のスキルは露店の優先権だけでは無く、NPC・プレイヤー関係無しに設定上限以上の物の購入ができたり、転売や交通機関の割引・倉庫利用料金の割引等々かなりの料金割引が効くスキルなのだ。
けれど戦闘系の技等は覚えないので、そこまで人気の高いスキルでも無いので誰かギルドメンバーで1~3人くらい持ってれば良いなくらいの補助スキルでしかなかったりする。
しかし現在このジャネイロには多くのギルドが集まっているので、まだ始めたばかりのOYAZIはこんな路地裏でしか露店を出すことができないでいた。
「とりあえず価格をもう少し下げて、セット物を作って単品で買うより割引価格にするくらしか思いつかないなぁ……」
OYAZIは露店の価格調整をしつつ設定をいじっていると、不意に後ろから声を掛けられた。
「あれ~? OYAZIさんじゃん! やっほー♪」
「ん ?……あっ、このあいだはどうも!」
声を掛けて来たのは、森で知り合いになったエイサであった。
「こんな所で何してるの? ……って、露店かぁ、ここじゃぁあんまり売れないでしょ」
「えぇ、それで価格をいじっていたんですよ」
「ふーん……あれ? もしかしてOYAZIさんアプデの情報の奴、読んでないの?」
そう言いながらエイサは繁々と露店を覗き込み、値段を見ながら不思議そうに声を掛けてきた。
「ん? ギルドの特典とか、新しいダンジョンは知ってるよ?」
「それもそうだけど、消耗品の価格変更のは読んでないの?」
「えっ!? 価格変わるの!!?」
「そうだよ、次のアプデで特にポーション系の価格と購入上限が変わるんだよ」
「マジか! ちょっと確認する!」
OYAZIは慌てて、イルザォン・ヘッヂオンラインの公式ページをチェックし始めた。すると……しっかり価格変更の情報が載っていたのである。
変更点はこうなっていた。
:ポーション類のNPC価格を低級の物を400クートに変更、級があがることに値段は倍になります
:商人のスキルを持っていなくとも、購入上限が10個から25個に変更
:商人の技の"転売"を売り側が任意で設定可能に変更
:購入上限は売り手側が設定可能に変更、商人スキルを持っていても買占めや設定以上は販売を制限可能に
っと、主に商人のスキルと売買に関しての変更が多いようだ。
「ホントだ。しかし、1500クートから一気に400クートまで下がるって……」
「まぁ、初期の頃からポーションの値段は問題になっていたから、公式は本当なら職人が増えて全体価格が徐々に下がっていくって、つもりだったみたいだけれどねぇ……」
「でも、まだ価格は下がってはないんじゃないか? 今日も他の露店の値段も確認したけど、特に変わって無い様だったけれど?」
「個人販売はね、ギルド同士での売買なんかは既に1000クート前後だよ?」
「そういうことか……」
つまりは、大抵の人はギルドに所属しているので、ギルドを通して低価格で購入して、現状は足りない分を露店などで購入している程度に止まっているわけだ。アプデまでは……という事だ。
「しかしそうすると、価格をさらに下げて売るしかないのかぁ」
「ご愁傷様、始めたばかりに大変な目に合っちゃたね……最初は元手を取り戻すのに大変なのにね」
エイサは苦笑しつつOYAZIを慰めていると、遠くからエイサを呼ぶ声が聞こえてきた。
「ェ……ェィ…ェィサー……エイサ! ようやく見つけた!! 11時に西門前って約束なのに何してたのよ!」
「えっ! あっ!? もうこんな時間、ごめ~んフレンドの人と話してて時間見てなかったわ」
「……ふぅ、たく……っで? この人がエイサのフレンド?」
「そっ! 最近フレ登録したOYAZIさん、フリーの生産系の人」
「あっ、初めましてOYAZIです。」
「ふーん、よろしく……へぇ、薬剤師なんだ。……新規の人?」
「えぇ、まぁ……」
「でね、アプデの情報しっかり読んでなかったらしくて、教えていたのよ」
「あぁ、彼方もポーションで稼いでからって考えていたクチなんだ。タイミング悪かったわね」
「ホントそうですね、効果はけっこう良いのできたんですがねぇ」
「へぇ、評価はいくつ?」
「普通のが8で他のが9ですね」
「あら!? 意外と高いのね、ちょっと商品見せてくれる?」
「良いですよ、はい」
「どれどれぇ…………!!!!!? これって!?」
ポーションを受け取った女性はワナワナと震えながら、効果の項目をまじまじと読んだ。
「どうしたの? ただの初級ポーションでしょ?」
「そう思うなら、見てみなさい…」
「…………!!!? えっ!? コレどいう事ぉ~!?」
2人がその効果に驚いたポーションがこれだ!
初級ポーションEX!(アップル味) 評価:8
回復率:21 渇水回復率(中) Agl上昇(中) HP毎時回復:2(10分間)
(連続服用による効果低下無し、アップル風味で飲みやすくほんのり爽やかなミントの香り)
「ね、効果はけっこういいでしょ? やっぱり立地が悪いのかなぁ」
「ここここここ……」
「? ……こここ? 鶏ですか?」
「こっコレ! あるだけ頂戴!! いえ、その前に私のギルド入らない!!?」
「ズルイ! ヤエちゃん! OYAZIさん私にコレ売って!」
「エイサ……ここは引いてちょうだい、これからはエイサのギルドに卸すアイテム2割引きにするから……ね?」
「そんな事で騙されないわよ! OYAZIさんは私のフレンドよ!」
「そんなん関係無いわよ!」
終に2人は『ぎゃーぎゃー』と口論をし始め、事情が今一飲み込めないOYAZIはただただ見ている事しかできないでした。
それからどれくらいの時間が経ったであろう……。ようやく2人は納得できる妥協点を見つけ、とりあえずの決着をみた。
「とゆう訳で、OYAZIさん私達に半分ずつコレ売ってくれない?」
「どうゆう訳か知りませんが、買ってもらえるなら別に構いませんよ。2人は商人のスキル持っているんですか?」
「私は持っているから、私が全部買い取って後でエイサのギルドに売るようにするから」
「分かりました。じゃあ、アップル味だけでイイんですか?」
「「えっ!?」」
「他に種類あるの!?」
「見せて! 見せて!」
「はぁ、良いですけど……?」
そう言われて取り出したのがコレだ。
初級ポーションEX!(パイン味) 評価:8
回復率:21 渇水回復率(中) Atk上昇(中) 怯み防止(中)(10分間)
(連続服用による効果低下無し、パイン風味で飲みやすく常夏の南国の香り)
初級ポーションEX!(ミックスベリー味) 評価:8
回復率:21 渇水回復率(中) Int上昇(中) MP毎時回復:2(10分間)
(連続服用による効果低下無し、複数のベリーが交じり合った味で飲みやすく爽やかな青春の香り)
初級ポーションEX!(バナナ味) 評価:8
回復率:15 渇水回復率(低) Atk・Agl・Def・Int上昇(低) 異常状態無効(低)(10分間)
(連続服用による効果低下無し、バナナ風味で飲みやすく微かにミルクの香り)
初級ポーションEX!(濃縮還元) 評価:9
回復率:50 HP毎分回復:5(12分間)
(連続服用による効果低下(微)、物凄く苦く不味いが絶対に効果があると思える味)
「ねぇ……聞いて良い?」
「何んです?」
「それぞれ在庫、どれくらいある?」
「そんな多くないよ、えっと…………うん、だいたい30本づつだね」
「…………買ったぁ!! とりあえず全部頂戴! いえ、他の失敗した奴もいい値で買うわ!」
「ホントか!? そりゃあありがたい♪」
「しっかし、コレどうやって作ったの? マジでありえないわ……」
全てのポーションを1本5千クートで買ってもらえ、引渡し終えてひと段落した時ぽつりとヤエが呟いた。
「それは、言えないですよ」
「そりゃそうよね……」
「でも、俺はこうゆうコツコツ何かを作ってるのが好きなので楽しいですけどね」
「コツコツって、レベルじゃ作れ無い気がするけどまぁいいわ……」
イルザォン・ヘッヂオンラインの生産系では武器・防具・アイテムに関わらずレシピの公開は殆ど誰もしていない、そもそも正解にたどり着くルートはほぼ無限に存在するし
他人からレシピを教えてもらい、同じ手順・同じ素材で作っても同じ評価で効果の物が作れず最初の頃問題になったらしいのだ。
その際、運営からの返答でどのスキルにも熟練度は存在し自ら手探りで覚えないと本物を作ることはできないという発表があり、レシピの公開は自然と無くなっていったという訳だ。
「しかし、そんなに凄い?」
「凄いも何も、ポーションでここまで効果が在るのも初めてだし、それが初級だっていうのが信じられないのよ」
「ホントホント、中級で回復量は35~60前後なのにコレなんかは50も回復してさらに毎分回復の効果があるなんて……」
「上級じゃ普通なんじゃないの?」
「そりゃ……1個か2個効果が付いているのはあるけど、たいがいが効果が"低"や"微"だったりして、無いよりマシってのがほとんど」
「それに、連続服用時の効果低下もあるし下手したらランダムでバットステータスが付くのもあるから、態々それを買うよりも」
「アクセサリー装備を買うか、個別に別の効果のポーションを使うのが普通なのよ。」
「それが、効果がほとんど"中"で連続服用による効果低下少なくて、渇水まで回復できるんだもん、そりゃこっちの方が凄いよ!」
もちろん、他のプレイヤーが作ったポーションには渇水を回復させるのや、Def等を上げる効果が付いた物はもちろん存在する。
しかし、OYAZIの作ったポーションほど多彩な効果が付いたのは珍しく、連続服用による効果低下を防ぐ物は少ないのだ。
だからこそ、エイサとヤエはこんなにも驚いているのだ。
このイルザォン・ヘッヂオンラインには、空腹と渇水が存在しだいたい3~4回の戦闘ごとに何か食べたり飲んだりするのだ。
もし空腹や渇水状態に陥ると、技の発動ができなくなったりHPが徐々に減っていったり、盲目や混乱・沈黙などの状態以上が起こるので、わりと料理人のスキルは重要だったりする
けれど貴重なスキルに料理人を入れるより、生産系メインの料理人の人が作った食料を買い持って行くのが普通なのだそうだ。
「できれば、真剣に私のギルドに入って欲しいんだけどねぇ」
「えっと、ヤエさん……だったけ? もしかしてギルマスなの?」
「えっ? あぁ……そういえば自己紹介がまだだったわね、私は生産系ギルドの"付喪神"でギルマスをやっているヤエよ。よろしく」
「あぁ、よろしく」
「ヤエちゃんのギルド凄いんだよぉ~、このイルザォン・ヘッヂの中で大手の生産系ギルドなんだから!」
「へぇ~」
「大手って言っても、他より人数が多いだけだよ……。まっ、そんな事は置いておいてフレ登録はしましょOYAZIさん」
「はい、良いですよ」
ヤエとフレンド登録を交わし、上位素材を採取に行くとゆう彼女達を見送るとOYAZIはマイハウスに戻り、とりあえずポーションの追加を作りそれが終わると、木工技師のレベル上げの為にマイハウス用の家具を作り始めたのであった。
ブックマークが徐々に増えて嬉しい限りです。今後ともご愛読していただければ幸いです。
誤字脱字や文章についてメールをいただいたので、一部文字・文章を修正しました。
ご指摘してくださった方ありがとうございました。今後も頑張って書いていきたいと思います。