怪我の功名
怪我の功名 とは
過失と思われたこと、なにげなしにやった事が、意外によい結果になるこいう意味……
あれからリアルの時間で、2週間の時間が経過した。
アグアス・テルマィスが経営する喫茶店で働き始めたスピネルだったが、最初の10日程は皿を割ったり、注文を間違えたり、客に高圧的な態度をとりその結果、店の中での大立ち回りを演じて師匠である俺も何度も役所に呼ばれ只管、謝る事となり、スピネルの起こした負債額がどんどん膨れ上がっていった。
それでも監督役をお願いしたローズマリーさんが、かなり頑張ってくれたお蔭でなんとか仕事こなせるようになってきていた。
正直、店の人たちには申し訳ない気持ちでいっぱいで、何種類かフルーツを使ったカクテルの造り方と道具の作り方を教える事になったのだが、今後使うことの無い系統のレシピなので問題は無いだろう。
そもそもお酒類に関してはここは全年齢対象のゲームなので、プレイヤーにはあまり関係の無いというか、人気の無い物なのでそれで喜んでくれるのならばと、レジピを教えたのだ。
俺自身がゲーム内で味見をできないので、味は分からないが出来上がった物の評価や補足文を見る限り大丈夫そうだったし、店の皆も美味しいと言って飲んでくれたので問題は無いと思う。
そしてそんな事がありつつの現在なのだが……
「スピネルちゃーん!」
「キャー、カワイイ!!」
「こっち向いてぇ!」
「あぁマジ可愛いぃ……」
等々……今やスピネルはアイドルばりの人気になっていた。ロリッ子の王様口調で、ドジっ子という属性の魔力と可愛らしい容姿……そして誰に吹き込まれたのか、エクステでツインテールにしているために、多くのプレイヤーの心を鷲掴みしてしまったのだ。
その為、現在お店は大繁盛のお祭り騒ぎで売り上げは右肩上がり、最初のスピネルの負債はあっという間に解消されて、訓練を開始するための資金は順調に貯まり道具などの準備ができたので、最近では店での仕事を終えて帰ってきた彼女に、日替わりで簡単で訓練をしてもらっている。
例えば薬草を鑑定するだけとか、皮をハサミで切るとか、木にヤスリ掛けをするとか、そんな風にちょっとした事をしてもらってスキルのレベルアップをさせているのだ。
けれどそれは単調な作業であり、集中力の低いスピネルは毎日のように愚痴をこぼしながら作業をしていた。
「師匠……」
「何だ……?」
「地味じゃ……」
「そうか……」
「「…………」」
「飽きたのじゃが……」
「頑張れ……」
「「…………」」
「……もう、ゴールしても良いじゃろ?」
「!? あかん! ゴールしたらあかんのや! …………って、何処で覚えたそのセリフ」
「ふふ~ん。店の常連の者に疲れた時に、必ず言わなければならない言葉と聞いたぞ!」
「…………間違いです。忘れなさい……。」
「では、パトラッシュ……余はもう疲れたのじゃ…………かの?」
「……それもダメです。」
「何故じゃ!?」
「実は今のセリフは隠語で、とてもいやらしい意味になるので人前では絶対に言ってはいけません。」
「!? 何と! そうであったか……うぅ、余は何と恥ずかしい事を言ってしまったのじゃぁ……」
俺の嘘話を真に受け、赤面し顔を手で隠しながら恥らうスピネルの姿に苦笑しつつ俺は、作業が止まっている事を指摘し、続けるように指示した。
「反省し終わったのなら続ける! 今日のノルマは終わってないぞ」
「うぅ……師匠は厳しいのじゃ、余は仕事で疲れているというのに……」
「早く寝たかったら、手を動かす! そうしないと終わらんぞぉ」
「くそぉ~! 師匠の鬼! 悪魔! 善人!」
「何で最後に褒めたか分からんが、もう200個追加するか?」
「!? 全力でやるのじゃ! だから追加は待ってくれ! 神様、仏様、師匠様ぁ~」
「分かった。分かったから、服の裾を引っ張るな! 追加はしないから」
「うむ! 流石は師匠じゃ! 話が分かるのぉ」
「はぁ……まったく調子のいいやつめ…………まぁそんなに疲れているのなら、今日の分が終わったら"フルーツ牛乳 EX"を飲ませてやるぞ」
「!? 真か!?」
「あぁ、だから……」
「分かった! 直ぐに終わらせるぞ! うおおおぉぉぉー」
まったく現金なもので、ご褒美をチラつかせるとスピネルは物凄い集中力とスピードで今日の分の課題をこなし始めた。
最初からこれくらいできればいいのだが、ご褒美以外に彼女をやる気にさせる物を考えなくては……と、思うOYAZIであった。
さて、そんな作業をしている俺のマイハウスだが、実は以前より広くなっている。何故なら……課金をしたからだ! まぁ、課金といってもマイハウスを"銀の鍵"から"金の鍵"へ、アップグレードしただけなのだが、それでも広さは段違いだ。
このイルザォン・ヘッヂオンラインのマイハウスの課金は、マイハウスが重複することは無い。下位の鍵を購入したら、再課金する事でアップグレードができる方式になっている。
勿論、最初から最高級のマイハウスを購入できるが、俺は追々で構わないと思っていたので、手ごろな"銀の鍵"を購入したんだ。
だけどスピネルたちが来て部屋数が足りないし、彼女の訓練の為に毎度、町の工房を借りるのもメンドクサイのと、プレイヤーに彼女が人気が出すぎて作業ができないだろうと踏んで、マイハウスに炉を作ることにしたんだ。
費用に関しては借金で建てるつもりだったが、アルトが『姫様のために、建てていただくのですからぁ』と言い何処からか持ってきたお金で作ることとなった。
大方ドワーフの国からのお金だとは思うが、ここはありがたく頂戴することにした。何せ炉を建てるのには費用が掛かりすぎるので、正直この先1年くらいは借金生活かぁと思っていたので、とてもありがたかった。
さて、炉についてだがこれは自作もできる。土木建築系の職業スキルがあるのでそれを取得すれば作れるが、さすがに俺も今からレベルを上げて作るのは無理なので大手生産系ギルドのギルド長であるヤエに連絡を取り、腕のいい土木建築系ギルドを紹介してもらい建ててもらった。
ついでに、金や銀、ボーキサイト等を加工する湿式製錬式の装置も作ってもらい、他にも皮をなめす時に使う大き目の釜戸や、漬け込む用の水槽など様々な施設を建てた。
これでマイホームで殆どの加工が可能となり俺自身、早く色んな物を作りたくてウズウズしている状態だ。
さてそんなマイハウスだが形や配置を購入者が変更できるので、以前の形とはかなり変える事にした。1階はダイニングキッチンと木材加工場とポーション部屋を作った。
キッチン周りはかなりスペースを広く取ったが、ダイニングはさほど広くはない。それで木材加工とポーション部屋だがこれは、ダイニングキッチンと壁を挟んで作った。
木材加工場は削った粉が舞うので空気を入れ換えやすくするために大き目の窓を設置したが、日が入りにくい位置とした。木材の乾燥に直射日光はダメだからね……
そしてポーション部屋だがこれもキッチンと木材加工場と壁で区切られている。部屋の作りとしては裏庭に直ぐに出れるようにしたのと、キッチンと裏庭への扉を大きくしたくらいだろうか……
俺のポーションは煮たり蒸したり乾燥させたりするので、その作業をする場所への移動を楽にするために大き目の出入り口にしたんだ。
最初はポーション部屋にも釜戸を作ろうと思ったが、熱がこもりやすくなるのと、純粋にキッチンが近いのだから勿体無いと思ったのでこういった形にした。
居住スペースは2階で地下は3階まで作り、錬金とエンチャント用の部屋と皮加工部屋と鍛冶部屋とした。そして殆どのスペースを裏庭に使い、今後は畑でも作ろうかと思っている。
まぁ、まだセリさんから貰った"果実の木"の苗木があるだけだがな……
そういえば新しくなったマイハウスを見て、スピネルもアルトもかなり驚いていた。彼女たちはここがゲームの世界とは認識していないから、課金とか運営とか言っても意味が分からないので、知り合いに頼んで改築してもらったと言ったら『その者を紹介してはくれぬか! 余たちが店に行っている間にこれでけの物を建てられるのであれば、ぜひとも国に来てもらいたい!』とかなり興奮した様子だった。
まぁ……そりゃ、たった数時間でこれだけの家を建て替えられる人がいたら確かに引っ張り凧だよなぁ、と思いつつなんとか彼女たちには言い訳をして、無理だという事を伝えたが……時折、聞きだそうとする事があるので諦めてはいないようだ。
さて、そうこうしているとスピネルは言われた課題を終わらせ、ご褒美をくれと尻尾があったらブンブン振っていそうなくらいの喜びようで、俺にしがみついてきた。
「終わったぞ師匠! 早く! 早く! くれなのじゃ!」
「どんだけ好きなんだよ。そんなにがっつかなくてもやるから、ホラ」
「わはぁ~♪ 久しぶりじゃあ! あぁこの芳しい香り……この味! ウグ、ウグ、ウグ…………プハー♪ 最高じゃ!」
「美味そうに飲んでくれるのはありがたいが、店でも売っているだろ? 賄で飲んだりしていないのか?」
「ん? 飲んではおるぞ? ただ、こちらの方が美味しいのじゃ」
「え? 品質も使ってる素材もたいして変わらないはずだが……それにフルーツは店の方が種類も鮮度も良いはずだがなぁ?」
「単純に、腕ではないのか?」
「いや……それだったら専門に作っている村の人の方がスキルレベルは上だからな、とうの昔に俺より上手く作れるはずだぞ?」
「では、愛情の差じゃな」
「料理は愛情ってか? そこまでお前を愛しているつもりはないんだかなぁ……」
「ばっ、バカ者! そういう愛情ではない! その、手間とかそういった事を言っておるのじゃ」
そう顔を赤らめながら反論するスピネルに苦笑しつつ、俺は話を続けた。
「フッフ……しかし手間といっても手順は変わらないぞ? レジピは同じなんだから」
「余は店で作っているのを何度も見ておるが、師匠の方が作り方が丁寧じゃぞ? 牛乳を丁寧にかき混ぜたり、フルーツを刻む時とか皮を剥く時とか、凄く丁重にしていおるしな」
「しかし評価は変わらないし、補足文も同じだぞ? 気のせいでじゃないのか?」
「余には分かるのじゃ! 飲み比べれば差は歴然じゃぞ?」
「フッフ……なら、そういう事にしておこうか」
「ホントじゃぞ!? 世辞では無いからの!」
「はいはい」
「ホントのホントじゃ!」
そう頬を膨らませ、むくれながら言うスピネルの姿を見ると、まるで自分の娘がいたらこんな感じなのだろうか……と、少し思い。寂しいような嬉しいような感情で見ていた。
まぁ、とうの本人は『何じゃその目は! そんな子供を見る目で余を見るではない! 余は大人じゃぁぁ!!』とポカポカ殴る姿に思わず笑ってしまい。
よりいっそう怒る彼女を、愛おしそうに見ていた。
そして一頻り彼女と戯れていると、『いい加減になさりませぇ~』とアルトに釘を刺されたので、毎日恒例のスピネル弄りを止め、彼女が寝るのを確認すると俺は1人自分の作業へと戻った。
(さて……そろそろスピネルのスキルも見習いが取れて、普通のスキルになってきたし……明日からは作業を変更だなぁ、上手くいくと良いのだけれど……)
そう明日の予定を不安を抱きつつ、俺は作業に没頭していった……。
投稿が遅れてすみません。本当は結構前に書けていたのですが、投稿しようと読み直した時にあまりにもシリアスで重い話になっていたので、書き直していたら投稿が遅くなってしまいました。
あの文を書いてこれで良しと思った私の精神は、どうかしていたのでしょう……何であんな鬱話を書いていたのか自分でも分かりません。
もしかしたら、前回の予約投稿を失敗したのが尾を引いているのでしょうか? 実際、投稿時間間違えた時は失敗したぁ! と結構、落ち込みましたからねぇ……直ぐに気がつけば良かったのに、はぁ……
さて次回から、徐々に生産系の話になっていきます。たぶん…… では ノシ




