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門前の小僧、習わぬ経を読む

 門前の小僧、習わぬ経を読む とは

  どんな人でも長い間、過ごしている環境で知らず知らずに、自身に強い影響を与えてしまい、 習わなくてもその環境のことを身につけてしまうという意味……

 「……それで? 言い訳はございますかぁ?」

 「いや……そんな微笑ながら言われると怖いんだが…………」

 「勿論、私が怒っているからですよぉ? なんだったら本当に怒ったほうがよろしいですかぁ?」

 「すまんかった。正直《お人好し》の補足文に書かれた効果を甘く見たいた……。」


 ニコニコと笑いながら物凄い殺気を纏ったアルトに詰め寄られていた。そんなOYAZIの前には、表情が無く瞳からも光が消えて、綺麗な直立不動で立っているスピネルの姿たがあった。

 アルトにびくつきながらも、OYAZIはスピネルに話しかけるが……


 「な、なぁ……スピネル……その、もう姿勢を崩してもいいから……その、ね?」

 「サーイエッサー!」

 「うん。その喋りもいいから……元の喋り方に戻していいから……だからね?」

 「サーイエッサー!!」

 「お~い……人の話聞いている? だから……」

 「サーイエッサー!!!」

 「あの……」

 「サーイエッサー!!!!」

 「………………」

 「……ダメでした。」

 「ダメでしたではないでしょうがっ! どうするんですか!? 姫様もう『サーイエッサー』でしか返事を、しなくなっちゃたじゃないですか!?」


 何を言っても変化の無いスピネルの現状を確認して俺はアルトにそう報告すると、彼女はあのポワポワした喋り方は何処へやら……

 一気に俺の側へと近づくと襟首を掴み、物凄い形相で怒鳴り散らし始めた。


 「ウグッ……えっと……何でも言う事を聞くようにはなったから、結果オーライ……みたいな?」

 「何にも良くないですよ!? どうするんですか!? 私はどう国王陛下に報告すればいいんですか!?」

 「そ、そりゃ……『サーイエッサー』としか返事しないけど、言われた事は何でもこなすいい子になったと……」

 「できるわけないでしょ!? ふざけているんですか!? これじゃ人形と変わらないじゃないですか! どう責任をとるおつもりなんですか!?」

 「い、いや……責任って言われても……とりあえず《傲慢》と《怠け者》のスキルは無くなったから、このまま技術を教えれば直ぐに剣が作れて成人の儀式終了! 俺はさよなら~……じゃ、ダメ?」


 予期せぬ事態に困惑しつつも、冗談半分でアルトにそう言うと彼女はより憤慨してOYAZIの頭を揺さぶり、当り散らした。


 「ふざけているのですか!? ダメに決まってるじゃないですか! 早く姫様を元に戻してくださいよ! これじゃ我侭わがままうんぬんの前に、王女として……いや、それ以前に人としてダメじゃないですか!」

 「ですよねぇ……でも、い……一部のコアなファン層にはうけるかと……」

 「何処に、そんなファンが居るんじゃボケェェ~!!!」


 ぽろりとこぼした冗談が、さらに火に油を注ぐ結果となり怒りながらもなんとか丁寧な言葉つかいだったアルトは、完全に怒りに我を忘れ俺の首をさらに締め上げるとグイグイと、俺の体ごと振り回し怒鳴り散らし始めた。


 「じ、じぬ……ゴメ、冗談……いき……やめ」

 「謝るくらいなら初めからするんじゃねぇ! どうするんだよ!? あ゛ぁ?」

 「たっ、んま……方法、まだ……ウッ……あ……る…………だから」

 「あ゛ん? 方法だと? どうするんだ。言ってみろ」


 スピネルを治す手段があると俺が言うと、アルトは首から手をスッと放した。そして手を放された俺はそのまま床に崩れ落ち咳き込みながらも、なんとか体勢を立て直して立ち上がり自信満々にアイテムBOXからとある物を取り出した。


 「チャララ♪ チャッチャラ~♪ フルーツ牛乳? EX~♪」(青たぬき風だみ声で)

 「はぁ?」

 「いや、だからフルーツ牛乳? EXだよ。」

 「それは聞こえていました。で? それが何?」

 「ひっ! そんなに睨まないでよ。ほら、スピネルこれが好きだったろ? だから飲めば治るかなぁ~て……」

 「……本当に?」

 「…………多分?」

 「言っている貴方自身が、疑問系じゃないですか!」

 「ほら……物は試し的な……? ダメ?」

 「もし治らなかったら、貴方を殺します……。蘇生してきてもまた殺します。分かりましたね?」


 (うわっ……目が笑ってない。本気だ……。本気で殺す目をしてる。ヤベェ……確証はないがコレに頼るしか俺には手段が無い。てか、恐るべし鬼軍曹訓練方式……ここまで効き目があるとは……)


 OYAZIは、古いベトナム戦争時代のアメリカ海軍訓練学校を主に描いたシーンが有名な映画での訓練方法の効き目の凄さを改めて痛感すると共に、映画と同じく教官の自分が殺されるのか思うと妙な親近感を覚えつつも、心臓は爆発するんじゃないかと思うほど激しく脈打っていた。


 (えーい。ままよ……。頼む! 効いてくれぇ……)


 俺は覚悟を決めると直立不動のまま待機しているスピネルに"フルーツ牛乳? EX"を飲むように指示をした。そして指示されたとおりスピネルはゴクゴクと"フルーツ牛乳? EX"を飲み始めた。

 すると…………


 「………………ん? ここは……ん? お主ら、どうしたのじゃ? そんな変な表情をして?」

 「イヤッタァァァ!!! 俺は運命に勝ったぁぁぁ!!」


 OYAZIは本気で涙を流しながらガッツポーズをして喜んだが、スピネルに『なんでもないですよぉ』と言いながら彼の横を通り過ぎるさいに、アルトは『良かったですねぇ……命拾いしてぇ』と呟いた。

 そんなアルトのセリフに冷や汗をかきつつも、スピネルが正常? に戻った事に安堵し、とりあえずの命の危険が無くなった事を心の底から喜んだ。


 さて妙に喜ぶOYAZIと、何か不穏なオーラを漂わせているアルトの2人の様子を奇妙に思いながらも、残りの"フルーツ牛乳? EX"に舌鼓を打ちながらニコニコと微笑むスピネルであった。




 はてさて、そんな事がありはしたがスピネルが正常になった事で、改めて彼女の訓練を開始しようと、俺は準備のために一度ジャネイロの町へと出かけた。

 あぁ、それとスピネルの事なんだが、どうやら俺が鬼軍曹式訓練をしている最中の記憶を覚えてないらしく、急に日付が進んでいる事に驚いていた。

 けれど俺がわざと鬼軍曹口調で怒ったり、命令すると途端に直立不動になり『サーイエッサー』と返事をするので、どうやら記憶は忘れたのではなく、心の奥底へ封じ込めたというのが正しいだろう。


 しかし体は覚えているので、スピネル自身も何故そんな返事をして直立不動になるのか理解できない様子だった。そんな彼女の行動が面白くてつい遊んでいると、アルトから釘を刺されたので(物理的に)訓練の準備という名の逃亡をしてきたというわけだ。


 (しかし、ホントどうするかなぁ……理想だとある程度、素直になったスピネルにそのままの流れで技術や戦いを覚えさせるつもりでいたが、う~ん。…………ん? 何だアレ?)


 スピネルの訓練方法に悩んで町を徘徊していると、ふと前方に何やら人だかりが見えた。俺は少し興味を引かれ、その人だかりをかき分けて覗いて見ると、そのには……


 「喫茶店……?」


 そこにあったのは"新装開店"と書かれた喫茶店らしき店だった。そして興味しんしんで覗いていると、不意に店の横から出てきた人に声をかけられた。


 「あら? OYAZI様ではありませんか」

 「ん? あ、ローズマリーさん。お久しぶりです。」


 声をかけてきたのは、水上貿易路やベーコンを作っていた時に村でセリさんが秘書というか、部下というのか、まぁそんな役割をしてくれていたスライム族の人だ。

 なんでも一度見せたり教えたりすれば、そつなくこなす人だったが彼女いわく『ただの器用貧乏ですわ、満遍なくできるけれど本職の人には敵わない……最初は優秀ともてはやされて、後には凡人といわれるタイプですわ』と苦笑まじりに話していたのをよく覚えている。


 (そんな彼女がここに居るという事は、この店は村のアンテナショップのような物だろうか? まぁ、聞いてみれば分かるか……)


 そんな事を考えながら俺は、何故ローズマリーさんが居るのか聞いてみる事にした。


 「OYAZI様も、お変わりないようで」

 「えぇ、元気にやっています。ローズマリーさんも相変わらずお綺麗で……

 「まっ、お上手ですこと……ウフフフ」

 「しかしローズマリーさんがここに居るって事は、もしかして、ここって村……じゃなかった。アグアス・テルマィスの?」

 「はい。村限定の"フルーツ牛乳?"とかベーコン等の販売と、それらを使った料理を出しているんです。」

 「へぇ~……それじゃあローズマリーさんも、ここで働いて?」

 「いいえ、今日の私は視察しているんです。立場としては最高責任者になっているんですけれど、村でも色々と仕事がありますので、名目上という事です。」

 「それじゃあ代理の方が経営を?」

 「はい。村でセリさんや私が教えた子達が働いています。店長……というかコック長がこの店の事実上の代表ですね」

 「その人はスライムの?」

 「いえ、人族の方ですが村に居た人なのでOYAZI様も面識は、おありだと思いますよ。」

 「ふ~ん…………」


 そんな事をローズマリーと話しているとOYAZIは何やら考えだすと、暫くして何かを閃き彼女にとある話を持ちかけた。


 「ローズマリーさん。今、人手って足りていますか?」

 「人手ですか? 一応は、ですが……やぱり新装開店という事もあってかお客様が多くて、少し大変ではありますね」

 「ほほぅ…………」


 人手が少し足りていないと聞くとOYAZIはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、ある提案を彼女に持ちかけた。





 「という訳で、2人にはこのお店で働いてもらいます!」

 「どういう訳じゃ!? 全然、意味が分からぬのじゃが!?」

 「簡単な話だよ。働かざるもの食うべからず。ってね、スピネル用の工具とか道具とか準備するのに時間が掛かるし、金も無い。その間に適当な作業をやらせてスキルを伸ばしても良いのだけれど、スピネルは単純作業嫌いだろ?」


 「べっ、別に嫌いでは無いぞ! ただ、その……面白く無いだけじゃ」

 「似たようなもんだ。けど生産系の内容は基本トライアンドエラーだ。挑戦しては失敗して、何がダメだったか考えて再び挑戦って感じで、常に試行錯誤の繰り返しだ。でも、最初からそれをやれと言ってできる奴は少ない。俺だって苦痛に思うし、絶望したくなるし、飽きるからな……けどスピネルの場合は再び《怠け者》のスキルが再発する要因にもなりかねない。だから、この店で働くんだ。」


 「いや、全然説明になっておらぬぞ?」

 「分からないか? この店は喫茶店ではあるが、軽食を出している場所だ。つまりは料理を作っているて事だ。一応スピネルには見習いだが《家政婦》のスキルがある。だから大失敗はしないと思うし、スキルも上がるだろう。まぁ、基本はホールでの接客がメインの仕事ではあるが、料理も教えてくれるようには頼んでおいた。」


 「いや……余が作りたいのは料理では無くて、剣なのじゃが……」

 「チチチ……甘いなスピネル、お前が成人の儀式をクリアーできたとしてその後の事を考えているのか?」

 「それは、国に帰り父上が決めた者と結婚をして……それから……」

 「それは幸せか?」

 「!?」

 「それはお前にとって幸せなのか? 恐らく結婚できても、今までのお前の評価のままだろう。そうなると見えてくるのは、かごの鳥だ。アルトからおおよその事は聞いた。ドワーフの国での女性の出生率は3割だと、だから女性はうやまわれ、丁重な扱いを受ける……。」


 「…………そうじゃ、じゃから余も……」

 「でもそれは昔の事だろ? 今では多くの仕事が女性にその門戸が開かれて、今のドワーフの国の宰相は女性なんだろ? それなのにお前はそれで良いのかって聞いているんだ。」

 「それは……じゃが!」

 「俺は弟子にしたからには、お前を一人前にしてやりたい。胸をはって前を向いてもらいたい。だから色々な事に挑戦してほしいんだ。お前は言ったろ? 『失望させてしまった父上や母上……余を見下していた兄上達を見返したい。』とだから俺がそれを手伝ってやるよ。」


 「…………うぅ……お主……」

 「お前は俺の1番弟子だからな、半端には育てない。だからっ!」

 「うむ! 分かったぞ師匠! 余はやるぞ! どんな困難でも乗り越えて、必ず見返して見せる!」

 「よし! その意気だ!」


 スピネルに活を入れてその気にさせると、俺はローズマリーさんにスピネルを預けた。すると横に控えていたスッと近づいてきて、小声でアルトは話しかけてきた。


 「それでぇ? 本心はぁ?」

 「…………ごめんなさい。訓練方法が思いつかなくて、知り合いに丸投げしました。」

 「……はぁ、そんなことだろうと思ったですぅ。しかし、本当に口先だけは達者ですねぇ」

 「ははは……長年プレンゼンをしていれば口先で煙に巻くのはお茶の子さいさいだからね、まぁそれに実際、お金は無いし材料も足らないしな……」


 「はぁ、そんな自慢げに言う事では無いですよ。まぁお金が無いのは分かっていますけどぉ、でも何で私も働くのですかぁ? 護衛なら屋根裏とかでもできますし……」

 「んー……保険かな?」

 「保険?」

 「いや、スピネルだけだと絶対失敗するから、そのフォロー要員というか……スピネルの負債を贖うための処置というか……やっぱり使える人がいないと、悪いしね……」

 「私は尻拭いの為にですか……」

 「ん? 違うぞ?」

 「え?」

 「スピネルはここで大いに間違えてほしいんだ。そして怒られてもらう。働くって事がいかに大変か、お金を稼ぐのにどれほどの労力と時間が必要なのか、身に沁みてほしいからだ。ローズマリーさんは教えるの上手いし、ここのコック長は人を叱るのが上手い人だからどうにかなると思ったんだ。」


 「一応、考えていられるのですねぇ……」

 「当たり前だ。俺はそこまで物分りは悪く無いつもりだし、人でなしでもないからな」

 「でも、バカではありますねぇ」

 「うっ……」

 「まぁ、いいでしょう……姫様の事は私がしっかりと見ておきますのでぇ、貴方はしっかりとプランをお考えになっていてくださぃ」

 「あぁ、頼む……」


 一礼して去っていくアルトを見送りながら俺は今後の準備の為に動き始めた。


 (まずは薬草を鑑定せずに大量に採ってこないとなぁ、後は木と骨と鉱物か……スピネル用の薬剤師セットと、道具一式もだから……はぁ、俺の金が無くなっていく……リアルでは結構あるのに、ゲームの中では貧乏って普通の真逆だよなぁ)


 大きなため息を吐きつつOYAZIは支度を整えて、フィールドへと出て行った。

 ども、最近めっきり冷えてきて暖房器具をいつ出そうか悩んでいる今日このごろです。

 そういえば、最近続々とビックタイトルの新作アニメ情報が出始めましたね、ジョジョにフルメタ……しかし私が1番待ち遠しいのは! 天地無用です。

 まさかのシンシリーズですねぇ……同人誌のほうでは天地のお話はこれまで、って書かれていましたが、今度は異世界の聖騎士系なのか、ぱられルンルンなのか……なんにせよ、待ち遠しいですねぇ


 また聖地巡礼行きたいなぁ……でも、岡山は遠いなぁ……

 

 さて、喫茶店で働き始めたスピネルたん。いったい次回はどうなってしまうのか、書いてる自分にも分からない! 

 まて、次回!

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