学問に王道なし
学問に王道なし とは
いずれかのことを知って知識を得るためには、基礎から一つずつ学び、積み重ねて 努力しなければならない。たとえそれが王様であっても、簡単に知識を得る方法などない。という意味……
古代ギリシャの数学者ユークリッドが、エジプト王トレミーに「もっと簡単に幾何学を学ぶ方法はないのか」と聞かれ、「幾何学に王道なし」と答えたという故事に基づく。
「…………よくこんなスキルだけで、旅ができたな……」
「ふふ~ん♪ 余は王女じゃからな! 旅くらい余裕じゃ!」
無い胸を張って鼻高々にドヤ顔で誇らしげに言うスピネルだが、俺は彼女のステータスを見ながらため息を吐くばかりだった。
家に彼女たちを招き入れた後、食事を済ませ軽く休憩を取った後に俺はスピネルのステータスを確認するためにパティーを組んだのだが、ステータスを確認した瞬間唖然とした。
何故なら……
名前:スピネル・ド・アマルガム
性別:女
年齢:19歳
称号:女王(威圧、傲慢、善行の効果上昇(高))
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スキル
樵見習い(2) 狩人見習い(1) 鉱夫見習い(1) 鍛冶師見習い(3) 斧(1) 木工師見習い(2) 薬剤師見習い(1) 家政婦見習い(1) 傲慢(8) お人好し(7) 無邪気(9) 怠け者(5) 善行(6)
という感じにスキルの殆どが《見習い》なのだ。
《見習い》とはプレイヤーには関係ないスキルなのだ。このスキルはNPC……こっちの世界の住人が取得できるスキルで、《見習い》の付いたスキルがレベル10を超えると普通のスキルとなる。
まぁ、リアルで考えるのであれば学生がインターシップ(職業体験)しているレベルだと思えば分かりやすいだろう。
就職したばかりの研修生とは違い最低限の当たり障りのない事しか教えてもらえず、でも雑用の仕事が多いからむちゃくちゃこき使われる感じのやつだ。
要するにお客さん扱いのアマチュアとプロの間くらいだと思えばいい。なので通常スキルよりも効果が薄くて、レベルが上がって技を覚えても上手く発動しなかったり、失敗したりでろくに使えないのがこの《見習い》が付いたスキルなのだ。
ただ《見習い》のスキルは普通のスキルよりもレベルが上がりやすく、それほど苦も無くカンストするはずなのだが、その足を引っ張っているのが《怠け者》のスキルだ。
怠け者
何事に措いてもやる気が起きず、いざ何かを始めても直ぐに飽きてしまう。あらゆる物に執着心が薄くなり、怠惰な日々を送りたがる。
(休息中でのHP、MPの回復率上昇(中)、不意の戦闘時に攻撃力の低下(中)、《集中》のスキル効果時間低下(低)、レベル上昇率を阻害(高))
※あらゆるエンチャント、補助魔法効果時間が低下(高)
これが彼女の成長を妨げている要因なのだが、完全な怠け者になっていないのは《傲慢》のスキルのお蔭だろう。
それで《傲慢》とかの他のスキル効果としてはこんな感じだ。
傲慢
年齢、立場、老若男女問わず全ての者を見下し、何事に措いても上から目線で、世界は自分中心で動いていると信じきっている。そして自身が気になったものをとことん追い求め、その為なら周りにどのような害が及ぼうとも気にすることがない。
(クリティカル発生確率上昇(中) 威圧(低) 嫌悪(中) バックアタック時に通常攻撃、魔法攻撃、クリティカルダメージが上昇(中))
お人好し
何事も簡単に信じ、鵜呑みにしてしまう。自分以外の者が嘘と分かっていたとしても、傷ついていたり許しを請うたりすると施しをしてしまう。
そして何度、騙されたとしてもその事を気にせず他者を憎んだりしない。
(回復系魔法の効果が上昇(中) 回復アイテムの効果上昇(低) 幻惑系攻撃耐性低下(低) 精神系攻撃耐性低下(中))
無邪気
どんな物にも直ぐに興味を示し、様々な物に気移りをする。どんなに注意されても、怒られた事でも好奇心が惹かれる物があると他の事を投げ出してまで邁進してしまう。
(精神耐性(中) クリティカル発生確率上昇(低) 運が上昇(中) エンチャント効果時間低下(低) 命中率低下(低))
善行
慈悲深きその心で、脆弱な者を慈しみ、守り、助ける聖者。
(回復系魔法の効果が上昇(高) 回復アイテムの効果上昇(中) 光系魔法効果上昇(低))
※自身のレベルより上の者よりの攻撃ダメージを一時的に低下する。(パーティーを組んでいた時のみ発動)
《傲慢》はパッシブスキルの一種で、威圧、覇気といった技を常時発動している。それに女王の称号で効果が上昇しているために、《傲慢》のスキル効果が強いために怠け者の効果があまり現れていないのだ。
まぁ、効果というか補足文の『何事に措いてもやる気が起きず、いざ何かを始めても直ぐに飽きてしまう。』というのが《傲慢》の補足文にある『何事に措いても上から目線で、世界は自分中心で動いていると信じきっている。そして自身が気になったものをとことん追い求め、その為なら周りにどのような害が及ぼうとも気にすることのない。』とい文面に打ち消されているのだ。
けれど《怠け者》のスキルは発動しているため《傲慢》の効果もよりマイルドになっているとい事だ。だから彼女は完全な《傲慢》な態度でもなく、《怠け者》でもないという事だ。
それと《お人好し》や《無邪気》のスキルで人の話を信じ易く、全てを鵜呑みにしてしまうのも相まってこんな残念系王女様になってしまったのだろう。
本来プレイヤーには、補足文の効果はあまり意味がなかったりする。勿論、『回復効果がありそうな味』なんて文面が書かれたのがあった場合、気持ちHPの回復速度が上昇したりするらしいが《怠け者》や《傲慢》といったその人の人格に影響するものについては効果が無い。
まぁ、当たり前の話である。ゲームの中で取得したスキルで自身の感情や思考が変わってしまったら、大問題だ。だからプレイヤーにはあまり関係のない事なのだが、この世界の人たちはそうではない。
この世界の人たちにとってスキルとは、俺たちがリアルで勉強したり練習することで覚える技能や知識がスキルという形で表現されているのだ。
だから物凄い善人の子が居たとして、その子が《傲慢》のスキルを持とうとして無理やり傲慢な態度をとっても、覚える事はできない。
それはその子自身の人格を変えるか、考え方が変わらない限り覚える事はありえないのだ。
だからこういったその人の感情や思考に影響を及ぼすスキルをどうにかしようとするには、その人自身を半ば洗脳に近い形で矯正するしかない。
そうすることにより覚えたスキルが消えたり、レベルが下がったりもする。勿論、技能や職業系スキルはそういった事で消えたりはできないが、こういった技スキルの中でも精神関連の物だけが、レベルダウンや消去が可能なのだ。
まぁ、それが1番大変なんだけどな……
OYAZIは深いため息を吐きながらスピネルの事を考え始めた。
詰まるところが、彼女……スピネルを立派な淑女というか大人へと成長させれば『あぁ……昔の私も結構ヤンチャしてたなぁ~……』なんて感じに、若気の至り感覚にするという事だ。
普通、こういったのは親や教師がやることなんだろうが……しかしこんなになるまで何故、他の人はスピネルを放っておいたのだろう?
いくら王女だからといって、最低限のルールや王族としてのマナー等は教えられるはずだ。なのに彼女からはそんな感じはしない。
本当に無知で箱入り娘な感じだ。これはどういう事だろう?
色々と考えていると、そんな疑問が浮かんできた。そもそも19歳という年齢がドワーフの中でまだまだ子供な年齢であったとしても、言葉を喋れて自我を形成したのが遅くても3歳以降だとしても、16年近い期間があったにも関わらずこんな残念娘になってしまったのは、そもそもの原因は親であるドワーフ王なのではないかと思い俺はアルトに質問した。
「聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「はい、なんですかぁ?」
「ドワーフの国では人間の国と違って教育方法が違うのか? その……」
「あぁ、姫様がこんな性格なのは別に教育方法が違うからでは無いのですよぉ~」
「!? 今、余の事を貶さなかったか!? のうアルト!?」
「じゃあ何で?」
「お主も無視するでない!」
「それはドワーフの国での男女の扱いが、他の国と違うからですぅ」
「イジメか!? イジメなのか!? 何故、お主ら余の事を無視するのじゃぁ~!」
ピョンピョンと跳ねてそう訴えるスピネルに、すかさずアイテムBOXから緊急時用食料として作った飴玉を取り出すと、彼女の口の中にヒョイと放り込んだ。
すると途端に彼女は黙り、コロコロと口の中で飴玉を転がし少し嬉しそうな表情をしたので、アルトと話の続きをし始めた。
「それで? 男女の扱いが違うというのは?」
「それは……OYAZI様はドワーフの出生比率をご存知ですかぁ?」
「出生比率……?」
(あっ、そういえば何かで読んだ事があるな、ドワーフの出生の比率は男が7割で女が3割だったか? もしかしこの世界も……?)
「もしかして、男女比がかなり違うという事ですか?」
「その通りですぅ。ドワーフの国では女性の出生率が極めて少なくて、男女比が7:3なんですよぉ」
「つまり、そのせいで彼女はもてはやされて……結果がこれ?」
「まぁ、概ねそんな感じですぅ。あっ、でもしっかりと陛下は姫様をまともにしようと頑張られたんですよぉ。でも……」
「失敗したと」
「はぃ……やはり無理やり教えようとしたのがいけなかったらしく、8歳の時にはもぅ……」
「あぁ……そんな頃から……」
「そうなんですぅ。最初はまだ幼いからぁ、で言い訳ができたんですけどぉ……」
「流石にこのままだと他国も自国にも示しつかないし、不平不満も上がっていたから?」
「はぃ……それで自国に居られなくなったという事なんですぅ。」
「なるどな……概ねの事情は理解できた。それとだな」
「まだ何かぁ?」
「試験のお題が剣と言っていたが、素材は何でもいいのか?」
「一応、必ず使わなくちゃいけない素材はあるんですぅ。えっと……鉱物、皮、骨、木ですねぇ」
「比率は関係なし?」
「はぃ、今言った素材が使われていれば、ボーンソードでも木剣でも構わないですよぉ」
「種類は?」
「特に無いですぅ。剣のカテゴリーに入ればぁ、大剣でも太刀でもショートソードでも何でも構いませ~ん。」
「審査基準は?」
「基本的には評価が5以上ならば合格ですが……それ以下でも、物によりけりですねぇ」
「ん? 具体的には?」
「たとえ評価が3の剣でも、形状がそれなりで品質以外で性能が出ていれば良いんですよぉ。例えばエンチャントされているとか、剣はダメでも鞘はしっかりしているとか、人には向き不向きがありますし、得意な物も違いますからぁ」
「なるほどな……鍛冶師が苦手でも木工や魔法が得意だったら、そっちの方で成果が出ていれば良いのか」
「そういう事ですぅ」
俺は大体の試験内容と審査基準を聞き終わると、椅子に座り暫く考え事をし始めた。
「さて、考えは纏まったかのう?」
俺が深いため息を吐き椅子から立ち上がると、スピネルがそう聞いてきた。
「あぁ、今からのスピネルの訓練方法は纏まった。」
「して、余は今から何をするのじゃ? 皮の加工か? それとも木材加工か? もしかして採取かえ?」
「それは……」
「そ、それは……?」
スピネルのゴクリと唾を飲む音が聞こえた。そしてOYAZIは少しの間を置き、クワッと目を開きながら訓練内容を発表した。
「それは! 筋トレだぁぁ!!!」
「…………は?」
「聞こえなかったか? 筋トレと言ったんだ。」
「いや、聞こえておるぞ!? しかし何故筋トレなぞ……」
「バカモノ!! 生産系の極意とは1に忍耐、2に体力! 3、4も体力で5に忍耐だ! だから基礎体力向上のために今から筋トレを開始する!」
「なんじゃとぉぉ!!!!?」
「貴様の今からの返事は全て、サーイエッサー! だ!! 分かったかこのウジ虫が!」
「はぁ!? 何を言っているのじゃお主!? いや師匠? サーイエッサー? 訳が分からぬぞ!?」
「私語を慎め! このゴミ虫が! 貴様に喋る権利など無い!! さぁ、今から腕立て100回! 腹筋100回! 背筋100回だ! 終わるまで眠れないと思え!」
「なっ!? 何故じゃあぁぁぁぁ~!!!!!!」
その日から、OYSZIのマイハウスからは『サーイエッサー』という悲鳴が聞こえてきたという……合掌。
補足としてステータスにAtkやDef等のステータスを表記しなかったのは、自分なの中で決まっていないからです。
本来ならプレイヤーのステータスなんかも考えるつもりでいるのですが、基準をどうしたらいいのか検討がつかず、結果書かないようにしています。
現状スキルステータス程度しか考え付いていないので、HPとかの身体ステータスは追々思いついていったら変更していくつもりなのでご了承ください。
さて、次回からはスピネルちゃんのスパルタ訓練編だよ。お楽しみに~




