重き馬荷に上荷打つ
重き馬荷に上荷打つ とは?
大きな負担に、さらに負担を重ねるという意味……
馬を乗せた重い荷物の上に、さらに荷物を積み重ねるということから。
『万葉集』の山上憶良の歌に「痛き瘡には 辛塩を 灌ぐちふ如く ますますも 重き馬荷に 表荷打つと いふことの如」とある。
「そもそもグランド・ダッシャーは、ドワーフの中でも一部の達人にしか使えぬ奥義なのじゃ……余も父上や騎士団長などが使ったのを数回、見た事があるだけなだけなのじゃ。」
そう真剣な表情でスピネルは、語り始めた。
ドワーフは基本的に誰もが、職人への道を歩む事となる。しかしどんな職人になるにしても基礎を知り、様々な職業を経験し、自らが目指す職種を選択するのじゃ……
じゃからドワーフは、幼い頃より様々な仕事や技術を学ぶ。木工、錬金術、土木、建築、鍛冶、染色、機織、農耕、皮加工……と、あらゆる職人技術の基礎を学び、その学んだ中から将来の職業を選んでいくのじゃ、もちろん狩りの仕方や武器の使い方などの武術も学ぶのじゃかな。
そうして学んでいるうちに、一部の優秀な者だけがとあるスキルを覚える……それは"アースウェイブ・スマッシュ"という……
この技はかなり強力なスキルなので、狙って覚えようとしても覚えられるものではないのじゃ……じゃからアースウェイブ・スマッシュを覚えたものは、将来を嘱望される。
何故ならば、そのスキルを覚えた者は例外無く皆、優秀で何をやらせても上手くこなしてしまうのじゃ……そしてその覚えた者の中で、さらに一部の者だけが奥義であるグランド・ダッシャーを覚えるのじゃ……
だから余はお主に会いに来たのじゃ! 人の身でドワーフの中でも限られた者しか使えぬ奥義を、使ったという者を!
その者から教えを乞えば、余も覚える事ができるのではないかと……失望させてしまった父上や母上……余を見下していた兄上達を見返せるのではないかと思うての……
じゃから! 余を、余を……どうか弟子にしてはくれぬか……? 頼む……余にはもう頼る者が居ないのじゃ……
そう言いながら、目じりに涙をいっぱいに溜めた表情でスピネルは俺のズボンの裾をギュッと摘み、見上げてきたのだ。
その顔を見た時、俺の頭の中では可愛いチワワがおっさんを見つめる古い金融会社のCMの歌が、ヘビーリピートしていた。
(やっ、ヤベー! 何この可愛い生き物! メッチャ抱きしめたい。ギュッてしたい! そしてそのままお持ち帰りしたい!!)
と、再びロリコンに目覚めそうになりながらも、その気持ちをグッと堪えて俺は冷静を装いながら答えた。
「話は理解できた。だが分からない事が多い……」
「……何がじゃ?」
「まず何故俺なんだ? 勿論グランド・ダッシャーの事は分かったが、納得できない。そもそもごく一部の者といってもドワーフで使える人は居るのだろ? だったら俺に頼むより、同じ種族のドワーフ同士のほうがいいんじゃないか? そのほうが教えなれているだろうし、何より俺より腕が立つはずだが?」
「それは……」
「その事については私が、説明いたしますぅ。えっとですね、姫様はこのような物言いなので今まで散々、弟子入りをお願いして回ったんですがぁ……その……」
「もう既に断られ続けて、本当に俺くらいしかいないってことか……」
「はい……人族以外の職人にもお願いはした事があるのですがぁ、剣1つ作るのにも様々な工程がありますのでぇ……単純に鍛冶師だけとか、木工師だけに弟子入りするわけにもいかず……」
「なるほど……様々な事をいっぺんに教えられる職人が、限られるのか」
「そういう事ですぅ。ですから……」
アルトまでもが懇願する表情でジッとこちらを見つめてきて、俺は少し考えながらも答えを出した。
「…………分かった。弟子にしよう。」
「「!?」」
「本当か!?」「本当でございますかぁ!?」
「あぁ、男に二言は無い。流石にここまで聞いて、拒否するほど俺は人で無しじゃあ無いからな」
「ホントのホントじゃな!? 嘘では無いのじゃな!?」
「どんだけ信じてないんだよ。たく……本当だよ。夢でも嘘でもねぇよ。」
「……フ……フフッ……フフフ……フアッハハハハ! よくぞ言った下民よ褒めてつかわす! このスピネル・ド・アマルガムを、弟子にすることができた事をありがたく思えっ! イタッ!? 何をするのじゃ!?」
先程のしおらしさと、可愛らしさは何処へやら……高らかに笑いながら話すスピネルの頭に無言でチョップを叩き込んだ。
「イタッ! 止めよ! 余に向かって何という……イテッ! 止めよというに……このっ! フギャッ!? ヤメ……ウッ! コラ! ヤメ……ピギッ! ヤメテ……もう……ウグッ! うぅ……ごめ……ごめんなさい……だからもうヤメテ…………」
「よし、ようやく言ったな」
「ふぇ?」
「まず、その尊大な物言いを何とかするんだ。一応、師弟の関係になるのだからな、目上の者や年上の人にそういった言い方をしてはダメだ。それと何か間違えたら、必ず謝ること! 失敗するなとは言わない。だけど嘘を吐いたり、人にせいにするな! 泣きたい時は泣けばいいし、人に頼ってもいい。だけど必ず自分の力で解決するんだ。そうすれば自ずと成長できる。」
「お主……」
「それじゃ改めて自己紹介する。俺は冒険者のOYAZI……渡り人だ。だから常に一緒に居られないし、見てもやれない。それでも俺の弟子になりたいか?」
「……なりたい…………いや、弟子にしてくれ!」
「うん、よく言った! 今日から俺の事は師匠と呼ぶように!」
「うむ! 分かったぞ師匠!」
「…………ま、まぁ……話し方は強制はしなくていいか」
「?」
「いや、なんでもない…………それじゃあとりあえず俺の家に行くか、今後の事も話さないといけないしな」
「うむ!」
こうして俺は、スピネルを弟子にした……。
「ここが師匠の工房か……意外と広いのぉ」
「工房っていってもまだ炉は無いし、俺自身の腕前が中級程度だからな……それほど良い設備ではないからなぁ、殆ど作業場兼、自宅って感じだ。」
「うむ! 問題ないぞ、これなら寝泊りの場所には問題があるまい。して余の寝室は何処じゃ?」
「!? ここに泊り込むつもりか!?」
「当たり前じゃろ? 師弟となったのじゃ……入門生とは違い、内弟子じゃぞ? ここで暮らすのも当たり前ではないか?」
「いや……俺は泊り込むとかじゃなくて、通いみたいな……」
「因みに言うておくが、余は既に路銀が殆ど無いのでな! ここに泊まれないのであれば、小遣いを……」
「分かった。分かった……ここに泊まって構わない……てか、王女なのに金を持っていないのか?」
「ウグッ……それはだな……そのぉ…………」
「姫様は旅の道中ぅ、散々観光やら名物やらに王より頂いた金子をぉ使ってしまって、もう殆ど残ってないのですよぉ」
「バカ! ばらすでないアルト!」
「ほほぅ……じゃあ金が無いのは自業自得なんだな? だったらここに泊まらせる必要は……」
「まっ、待つのじゃ師匠! 師匠は先程言うたではないか、男に二言は無いと! 既に師匠が『泊まって構わない……』と言ったのを余はしかと聞いたぞ!? あれをなかった事にはしないであろう!?」
「うっ……それを言われると……」
「では泊まって良いのじゃな!? あぁ、それとアルトも一緒に泊まるのでな!」
「そっちは、了承してないぞ!?」
「姫様のメイド兼、護衛としては常に一緒にいなくてはぁ……」
「いや、でも……」
「それに姫様は、本当に何もできないですよぉ? 料理も、身の回りの事も……OYAZI様がいない間にぃ、家が消失……なんて事になるやも……」
「分かった! 是非、泊まっていってください。なんなら常に監視して下手な事をしないように監督してください!」
「わぁ♪ ありがとうございますぅ。これで久しぶりにベッドで眠れますねぇ姫様ぁ~♪」
「悲しい事を言うではない! バカ者!」
「えっ? 久しぶりのベッド?」
「そうなんですよぉ、OYAZI様を追いかけていたこの数日、町中の人目につかない所で寝ていたりしたんですよぉ。」
「嘘じゃ! 余がそんな浮浪者みたいな事をするはずも無かろう!? 余はこの町で1番高級な宿屋のスイートルームで寝泊りしておったのじゃ! ホントじゃぞ!!」
「あ、だったらここに泊まる必要は無いよね? それじゃ……」
「ゴメンなのじゃ! 見栄を張っただけなのじゃ! 後生じゃからここに住まわせてくれ! お願いじゃぁ~」
「……ふぅ……仕方がないな、住まわせてやるからさっさと風呂へ入ってこい。奥に脱衣所と浴室があるから」
「さすが師匠じゃ! 話が分かるな!! 余に続くのじゃアルト! お風呂♪ お風呂♪ 久しぶりのお風呂じゃあ♪」
俺の脚にしがみ付いて、住まわせてくれと懇願していたスピネルはお風呂と聞くや否や、スキップをしながら俺が指差した方へと向っていった。
「まったく、お調子者というか……扱いやすいというか……」
「あれでも姫様は根はお優しい方なんですよぉ、お金を使っちゃたのも散財した言いましたが、その内の8割くらいは病気の子供を治すためとか、一宿一飯の恩義の為とか言って、大金をお渡しになってしまったんですよぉ」
「ハッハ……その光景が目に浮かぶよ。しかし、不安だな……」
「何がですかぁ?」
「あれだけ信じ安いと、誰かに騙されたりしないか?」
「あぁ……それはしょっちゅうですよぉ」
「やっぱりか……それでよく、旅なんてできたな……」
「その為の私ですからぁ」
「…………やっぱり本業は暗殺者……?」
「……あらぁ~♪ 分かってらしたんですかぁ」
「勘みたいなものだけどね……それにスピネルが必ず俺の居場所を突き止められたのも、アルトさんが教えたり上手く誘導したんでしょ? 俺も含めて……」
「…………意外と洞察力がお有りなんですねぇ、OYAZI様はぁ」
(まぁ……護衛役としては定番な設定だし、何よりこの数日……町でもフィールドでも一瞬だけだが、危険察知のスキルに反応が移動する都度あったからな、今思えば誘導されていたんだよなぁ……だからあんな天然系なスピネルに追い詰められたんだ。そう考えなきゃ納得できないもんな……もしスピネル単独で俺を追い詰められるのだったら、普通に成人の儀式とやらクリアーできているだろうからな)
そんな風に話していると脱衣所に向かったスピネルが『アルトー何をしておるかー、早くお主も入ってきて余の体を洗わぬかぁー』という声が聞こえてきた。
その声にアルトは『直ぐに参りますぅ』と返事をして、ゆっくりと脱衣所に向かったが……俺とすれ違う一瞬『今のお話は姫様には内緒ですよぉ?』と、全身の毛が逆立つような殺気を放ち言うと何事も無かったように、脱衣所へと消えて行った。
(ふはぁー、怖かった……あのポヤポヤ感は演技なのか? まぁ、彼女の事はこれ以上深く詮索するのは止そう……俺の命が危ない。てか、爆乳童顔メイドの暗殺者ってまるで一昔前のエロゲーのキャラだな……)
未だに鳥肌が立ったままの肌を擦りながら俺は、彼女たちに風呂上り用の飲み物を用意し始めた。
「こっ……コレは!?」
「風呂上りにと思ってな、好きな方を飲んで構わないぞ」
風呂から上がったばかりで、体から湯気を立ち上らせているスピネルとアルトに俺は、フルーツ牛乳? EXとコーヒー牛乳? EXを取り出した。
「ののの、飲んでも良いのか!?」
「あぁ、俺が作ったのだしな、遠慮せずに飲んでいいぞ」
「ふぉぉぉ~♪ キンキンに冷えておる……ウグッ、ウグッ、ウグッ……プハー! 涙が出るぞぉ、犯罪的じゃぁ。美味すぎるぅぅ……風呂上りのほてった体に染み込んできおるわ! グッ……溶けそうじゃぁ~」
どこぞの鼻の長くて、顎が尖った古い賭博漫画の地下に落ちた主人公のような事を言いながら、スピネルは美味しそうにフルーツ牛乳? EXを飲み干した。
「そんなに感動する物ではないだろう? 同じようなのは他の人がもう出しているし、村……アグアス・テルマィスで売っている物だぞ?」
「いや、コレは別格じゃぞ? この町に着いたばかりの時に偶然、飲んだのじゃがその味が忘れられんでのう。ずっと探しておったのじゃ、類似品も多く飲んだがコレ程美味い物はありはせんかった。まさかお主……師匠が作っておったとは……」
「奇妙な縁だな……しかし、いつ飲んだんだ? 最近は作っていなかったが……」
「うむ、町に着いた時にのう。師匠の情報を求めてアルトと手分けして聞き込みをしておったんじゃが、渡り人だと思うがのう……変な喋り方の冒険者に貰ったのじゃよ。」
「変な喋り方?」
「うむ……最初、名前を聞かれたので名乗ったんじゃが『王女様系言葉の幼女キター!!』とか『スピネルたそハスハス!』や『兄ぃにって呼んでくれないか?』等と変な事を言っておったのじゃ」
(思いっきり危ない人がいたー!? お巡りさん事案発生でーす!)
俺は心の中でそう叫びながらも、話を続けた。
「それで何かされなかったか? 変な所に連れ込まれたりとか……」
「ん? 特に無いぞ? 『コレをあげる代わりに、ちょっと宿屋に行こうか?』と宿の手配までしてくれようとした心優しい男じゃった。」
(アウトー!! 完全にギルティだよ! ゲーム世界で何やってんだそのプレイヤーは!?)
俺がかなり慌て始めた時、横でコーヒー牛乳? EXを美味しそうに飲み干したアルトが、不意に『大丈夫でございますぅ。』と言ってきた。
「へ? …………大丈夫って……?」
「ですからぁその男は私がちょ~とお話したので、もう姫様の前に現れる事は無いですよぉ。だから安心してくださぃ」
そのお話の部分が凄く気になるが、ここはひとまず置いておこう……しかし本当にスピネルは純粋というか、無垢というか……まるで幼い子供のようだが19歳でここまで子供っぽいと、ちょっと不安だな……
それともドワーフはこのくらいの年の子は、皆こんな感じなのか? いや流石にそれはないか……まぁ何れにせよ。頑張って教えるのには変わらないものな……はぁ、リアルで胃潰瘍になりそう……
本当に胃が痛くなる思いで、OYAZIはため息交じりに今後の事に思いを馳せていた。
遅くなって申し訳ない。
リアルで少し忙しかったので投稿が遅れました。次回からは普通に週一ペースに戻ると思います。
まぁ、年末辺りがどうなるか分かりませんが……
さて、そんなこんなで今回は少し短めで、会話が多目となっています。できればもう少し長く書きたいのですが、できるだけ週一ペースを維持したいのでこんな短くなってしまいました。
それとブックマーク数がなんと2700件を越えました! 本当に皆様ありがとうございます。
今後ともゆっくりペースですが投稿を続けていきたいと思います。




