男子の一言(いちごん)金鉄(きんてつ)の如し
男子の一言金鉄の如し とは
男がいったん口に出した言葉や約束は、絶対に守らなければならないという意味……
さて、新貿易路建設計画が村長に認められ本格的に動き始めたのは良いのだが、やらなければいけない事が山のようにありOYAZIは、それぞれの村人たちに仕事を振り分ける作業で大忙しだった。
なにせ村人達にも本来の仕事があり、その中で空いた時間を利用しつつ計画を進めていかなくてはいけず、仕事の割り振りとスケジュール管理でてんやわんや状態だ。
普通ならこれだけ大規模な事をするのだから、まずはジャネイロに人を送ってこの計画を進めるためにお金と人を集めるべきなのだろうが……
俺はこの新貿易路計画をある程度の事を自分達の手で完成させた状態で、ジャネイロと交渉したいと考えている。
何故ならこの村が主導権を持ったまま、この計画を軌道に乗せたいからだ。もし最初からジャネイロに話しを持っていけば、相手が偏屈な未来を描けない者だった場合は一笑に付されるだろう。
逆に利権や金に汚い者ならば金と権力に物をいわせて、自分達が主導権を奪い取り好き勝手にこの計画を進めることになる。
けれどセリさんや村長の話しでは、ジャネイロを仕切る市長はしっかりしており誠実な人だという事だが、出来るだけ使える手札を多く持っておきたいと俺は考えているのだ。
どの道、最終的にジャネイロが主体でこの計画は進められるのは自明の理だ。金も人も国とのつながりも、ジャネイロには勝てないしこんなに大きな計画をこの村の人たちで全て行う事など到底無理だ。
それにいくら特産品があったからといって、この村が大きく発展するかと言われれば、それは正直難しいと言わざるを得ない……。
無論、村長に言った事は嘘ではないし、この村の収益は今より増えるだろうがな……
だって当然だ。そもそも今までこの世界に無い物を売り始め、しかもそれは消耗品であり受容性のある物だから、売れないはずがない。
けれどベーコンやハムといった燻製や熟成した物は、リアルの世界に存在する物だ。それがこの世界に出回れば、プレイヤーがそれを再現しようと奮起する人は多いだろう。
そうなると、何処かの大手の料理系生産ギルドが製作に乗り出せばポーションの時のように、あっという間に生産体制が整ってしまう可能性がある。
無論ポーションの時とは違ってレシピの公開をするつもりも無いし、この村に教えを請いに来たとしても教えないように村人には伝えるが、それでも自力で生み出す人はいるだろう。
何せリアルには作り方は存在するものだ。ネットや本で調べて、その手順どうりにすれば俺同様にそれなりの物は作れてしまう。
となれば、最初のうちは評価が低い物になるとは思うが同じ商品が大量に出回る事はまず確定的と考えていいだろう。そうなるとこの村の必要性が失われる可能性は十分にある。
えっ? だったらこっちの方が高品質なんだから高級路線で売ればいいじゃないかって? それだとしても、一時しのぎにしかならない。
何故なら、スキルレベルが高い人が作れば高品質でこの村と同じくらいの評価の物を作るのは、それほど難しくは無いからだ。
例えば鉄の剣を鍛冶師の上位スキルである上位鍛冶師が作った事がないとしよう。そしてまだ鍛冶師を取って間もないルーキーが同時に同じ品質の鉄のインゴットを使い、同じ道具で同じ炉を使って作ったとしたら、完成する時間も品質も断然に上位スキルの人が勝つのは当たり前だ。
だってそうだろう? プロの売れっ子漫画家が、アマチュアの絵を習い始めた中高生と全て同じ環境で題材も同じで、まったく一緒の道具を使ったとしても結果は明白だろ?
だから現実に存在するものならば、最低限の作り方さえ分かればレシピを公開しようがしまいがプレイヤーにとっては、あまり関係の無いことだったりする訳だ。
どんなにゲーム内でレシピを公開しないようにしても、個人がリアルで作り方を調べて自力で作るのを止める事など誰にも出来ないのだから……
だからこそ俺はこの川の貿易路計画を進めるにあたって、できるだけこの村が優位な条件でジャネイロと話し合いが出来るようにしたいと考えているのだ。
例えばこの計画をジャネイロ主体でするようにするから、今後は村から送られる貿易物資をできるだけ高値でジャネイロが買うとか、工事の際の人員や経費は全額とは言わないができるだけジャネイロが負担するとか、何かしら今後も含めこの村に有益になるようにしなくてはならない。
(だから最低でも2隻くらいは船を作っておきたいし、直ぐにでも貿易を始められるようにどちらの村もしっかりと整備しておきたいのだがなぁ、そのやらねばいけない事が多いこと多いこと……)
まずは川の護岸工事である。それなりの規模の船を横付けできる桟橋をスライムの村と、人間の村のそれぞれに建設しなければいけない。
しかしその前に本当にジャネイロに着くまで川の深さが船が通れるほどあるのか全領域の深さの確認をしなければならない。
さらには運搬用の船の建設に特産品としてベーコンの製作等々やらなくてはいけない事が多すぎて、目の回る忙しさだった。
しかしそんな四苦八苦した俺の姿を見かねてか、セリさんと村長から俺のサポート役としてそれぞれの村から1人ずつ若い女性がOYAZIのもとを訪れていた。
「本日より冒険者様のお手伝いをさせていただく為に参りました。ローズマリーと申します。気軽にマリーとお呼びください」
「わっわだすわ、村長に言われて来たんだぁ。そんの……よろしくしてけんさい! 名前はヒナゲシっていうだ。」
「セリさんと村長から話しは窺っています。俺のことはOYAZIと呼んでくれて構わないので、その……色々とご迷惑おかけすると思いますがどうぞよろしくお願いします。」
2人の女性はその日から精力的に働いてくれた。
ローズマリーさんはお淑やかで、物腰が柔らかくすっごく丁寧な言葉使いをする清楚な感じの大人な美しい女性スライムだ。
そしてヒナゲシさんはパッと見は10代に見える感じのそばかすが残る可愛い女の子だが、彼女曰くただたんに童顔なだけで実は28歳で子持ちだと言うので、随分と驚ろかされた。
(しかし、ヒナゲシさんの言葉使い……色々な東北弁が混じってるなぁ、製作側に方言を知っている人がいないのか、それともあえてなのか分からんな……まぁ方言女子って結構萌えるけど、せめて統一してほしかったなぁ)
そんな事を考えながら仕事をこなしていくOYAZIだった……。
それから数日、目まぐるしく時間が流れたが徐々にだが俺の仕事量は減少し今はベーコン製作にせいを出していた。
実はローズマリーとヒナゲシが思いのほか優秀だったので、たった数日で彼女達はやるべき事を把握し、今では最終チェックかどうしても分からない時以外は彼女達で解決できてしまっている。
(実際もうベーコンの作り方以外、俺の出る幕がないよなぁ……マリーさんは記憶力が抜群に良くて、一度言えばキッチリ覚えてくれてスモークチップに有効な木や造船に使える木の種類の見分け方や、品質も見極められるし……)
本来プレイヤーは採取できるアイテムは採取系のスキルを持っているか、加工系のスキルを取っていないと名前など判別できないようになっている。
例えば木を判別するには樵か木工技師のスキルを取っていないと……
木
何処にでも生えている木
って、感じにまったく種類も名前も分からないのだ。けれどこの世界に住むNPCはリアルで自分たちが何か覚えるのと同じでスキルが無くても経験で判断できるし見分けられるのだ。
無論、プレイヤーと同様にスキル自体は覚えられるみたいだがステータス画面とかExpを貯めて新しいスキルを取得なんて事は出来ないので、普通に色々な経験を積み重ねてスキルを覚えていくみたいだ。
だからNPCから手ほどきを受けたり、レシピを教えてもらってもプレイヤーが同じ方法で作っても完成品の評価が下がったりはしないらしい。
同様にプレイヤーからNPCへレシピ公開したり、手ほどきをしても劣化版にはならずに済むみたいなんだけれど、NPCはプレイヤーと比べて人によりけりではあるがスキルを覚えるのに時間が掛かったりレベルを上げるのに時間がかかる。
誰だってリアルで経験も無しで『君は今日から建築家だ! とりあえず3日以内に自力で材料集めて一軒家建ててくれる?』なんて言われて、出来る奴なんているわけがない……。
まぁ、NPCにとってこの世界がリアルなのだからそう考えれば魔法みたいに一度作った物ならばスキルレベルと材料が在れば、簡単に短時間で作れるようになるものを時間も掛けずに覚えられるはずがない。
どれくらい前だったか、とある生産系のプレイヤー同士で品質を落とさずレシピを教える方法を考えついた奴がいたみたいだ。
そいつはプレイヤーから仲のいいNPCにいったんレシピを教えてから、そのNPCから別のプレイヤーにレシピを教えようとしたらしいのだが……
数ヶ月間NPCに付きっ切りで手ほどきし、教えたにも関わらず一向にスキルレベルが上がる事が無くて、結局は地道に自分で試行錯誤して作った方が断然早かった。
まぁどんな事でも近道は無いってことだ。ゲームでもリアルでも同じで、さて……そんな事があったおかげで、今では多くのプレイヤーはNPCにレシピを教えたり、スキル上げを手伝うなんて事は殆ど無くなったみたいだ。
(まぁ、わりと仲良くなったNPCの冒険者とパーティーを組んでいる人は見かけるけど、NPCの為に一緒にレベル上げに付き合うって人はそうそういないみたいだけどな……NPC視点で考えれば、俺達プレイヤーの方が異常に見えるんだろうなぁ、たった数日で木工技師をしていた人が鍛冶師もやれるようになったりできるって、リアルで考えればありえないもんなぁ……)
そんな事を考えつつもOYAZIはローズマリーとヒナゲシの2人を森まで連れてきた事を思い出していた。
その時は今後1番必要になる木材の事を教えるべく、とりあえずの説明をしにきたのだが……
「えーと、これが造船に使える杉科の木だ。品質としてはそこまで良くないが、森の奥に行けばもっと品質のいい物が手に入るはずだ。そしてこっちに生えているのが、スモークチップに使える種類の木の1つで楓の木になる。それじゃあ、とりあえずやったほうが早いと思うから伐採しながらスキルの取得を目指して……」
「大丈夫ですわOYAZI様、もう判別できます。」
「へっ?」
「こちらの……ブナの木……ですわね? これもスモークチップとして有効なのですよね? あら、あっちの楓の方がこちらより品質が良いみたいですわね……」
そう言われて驚きつつも慌てて確認すると、ローズマリーの言ったとおりだった。試しに他にも色々な木を見せて判別できるか確認したが、一切間違えることなく言い当てた。
しかも時間が経つにつれ今の俺より細かい補足文まで分かるようになっていき、スキルレベルは俺以上なのは明らかだった。
(アッレレー? オッカシイゾー? ……って古いボケをしている場合ではない! えっ!? スキルそんなに簡単に覚えられるの? さっき確認した時はマリーさん樵も、木工技師もスキル持ってないって言っていたのに……どういうこと?)
驚きながらもローズマリーに話を聞くと『昔から物覚えは良い方でしたので……』と答えたが、物覚えどうこうのレベルを超えているように俺には思えた。
試しに薬草や毒草なども見せたら、いとも簡単に薬剤師のスキルを取得してしまったのだ。
そしてさらに詳しく話を聞けばどうやらスキル取得は直ぐ出来るのだが、レベルが一定以上になるとそれより上にはなかなか上がらなくなるのだとか、大体10~20レベル前後まで一気に上がるがそれ以上にするには、他の人より倍以上努力し研鑽を積まないとレベルが上がらないらしい……。
まぁ器用貧乏? ってことなんだと思う。
(というかそう思わないと俺の心が耐えられない、このままいくとマリーさんに俺の株を全部取られてしまう気がする……。天才ってこういう人? のことを言うんだろうなぁ~…………はぁ)
若干、自信を失いつつもなんとか悟られないように心を持ち直し、少しばかり引きつった笑みを浮べつつローズマリーに必要なスキルを覚えていってもらった。
まだ最初のうちは俺も色々と指示をしたり、一緒に村人と船用の木材の切り出しや加工をしていたが、今ではローズマリーが全ての村の作業の陣頭指揮を執っており、既に俺の出る幕は無くなっていた。
さて、そんな凄い能力を持ったローズマリーにたいしてヒナゲシの方はと言うと、ローズマリーみたいに直ぐにスキルを覚えたりと言う事はないが、こちらはこちらで凄い才能を持っていた。
どうやら設計やスケジュール管理にあらゆる計算がずば抜けてできるのだ。なので工事の見積もりや、ジャネイロに出す企画のまとめ作業をヒナゲシがいってに引き受けており、裏方の雑務をヒナゲシが担当し現場の指示や作業をローズマリーが担当する事で予想以上に作業が捗っているのだ。
(もぅ、この2人がいれば俺がいなくても今後もこの村は安泰じゃね? というか俺、必要かなぁ……?)
っと、かなり精神がグロッキー状態にされ打ちのめされうな垂れていると……
『おっOYAZI様がいらっしゃるからこそ、私どもは安心して仕事が出来るのですわ! そっそうよねヒナゲシさん!?』
『えぇ!? わだすに振るんですか!? えっ…えっと…………そんのホラ! まだベーコン? ってのがあるでねぇですか、それはOYAZIさんにしかできん事だから……その、頑張ってけんさい!』
などと若干声を裏返しながら何とかフォローを試みる2人ではあったが、その気遣いがOYZIの心にグサグサと突き刺さる……。
(うぐっ!? そっ、その気遣いが余計に心に刺さるよ……。しかしまぁ、2人のおかげで計画は順調に進んでいるし、ここは気持ちを切り替えてベーコン作りに集中するとするか……)
多大なる精神的ダメージを受けたOYAZIではあったが、なんとか気力を奮い立たせてベーコンを作るため作業を開始した。
さて、ローズマリーとヒナゲシの働きによって滞っていた作業も順調に軌道に乗り始めたので俺は特産品となるベーコンの改良すべく、頭を捻っていた。
とりあえず今はリアルで調べたベーコンの作り方どうりに正確に作っているものの、その評価は5で止まっておりそれ以上の高評価にはならないでいた。
(うーん……どうしたもんか、やっぱり何か普通とは違うやり方をした方が良いのだろうか? 時間をかけ料理人のスキルが上がるまでやるわけにはいかないからなぁ、村の人に作り方を教えるためにも早めに完成させなくてはならないよなぁ……あんなに優秀なマリーさんとヒナゲシさんを俺の所によこしたってことは、それだけセリさんも村長もこの計画に力を入れている証拠なんだし、俺もその期待に応えないといけないからなぁ……男たるもの自分の言った事は最後まで貫き通さなければな!)
と、決意を新たにOYAZIはベーコン作りに没頭していった。
うぅ……ゴティックメードをもう一度みたいよー……何でBD発売してくれへんねん……そりゃ原作者の永野さんの映画は映画館で見るものだって意見は分かるし、4Kで作ってあるからディスク化すると劣化しちゃうのは分かるけれど、田舎に住んでいると気軽に東京とか再上映していても行けないんだよぉーうわぁぁーん
地方でも再上映してくれよー




