創業は易(やす)く守成(しゅせい)は難(かた)し
創業は易く守成は難し とは
新しく事業を始めることよりも、その事業を受け継いで守り続けていくことの方が難しいとい意味……
リアルでの仕事を終えログインしたOYAZIは、急いでセリのもとを訪れようと走っていた。
そしてスライムの村に到着すると、門番のタイムと挨拶を交わしつつ村に入れてもらい、セリさんを探して村を歩いていたら直ぐにセリと会うことができた。
「お待たせしました。セリさん」
「ナイスタイミングよ! 準備は出来ているわOYAZIさん。向こうの村の村長さんとは既に話しを通してあるから」
「それじゃあ、今直ぐ向っても?」
「えぇ、大丈夫よ。」
準備万端と言わんばかりに身嗜みを整えたセリを伴い、2人は村長のもとへと赴いた。
「さて……セリさんから大まかな事情は聞きましたが、詳しく教えてもらえぬでしょうか? 冒険者どの……」
重苦しい空気が漂う村の一室…数人の村の顔役である老人と村長は、真剣な眼差しでOYAZIを見据えそう話しかけてきた……。
(さあ、ここからが正念場だ! 久しぶりの大仕事…絶対に失敗は許されない……冷静にそして確実に、頑張れ俺!!)
OYAZIはゴクリと唾を飲みこみ、緊張により滲み出てきた汗を拭うと軽く深呼吸をし心を落ち着かせすと、村長たちに今回の案の詳細を話し始めた。
「既にお聞きかと思いますが、俺が提案するのは川を使った貿易路の整備案です。」
「ふむ、それは聞いておる……。じゃがそれが出来たとして我々の村に何か恩恵があるのかのぅ? 交通の便が良くなるのは十分に理解しておるが……じゃが貴方が言う川の貿易路で得をするのは、そちらのセリさんの村ではないのかの? これと言って産業も特産品も無いこの村に、何の得があると言うのだね?」
「それは……」
そう、それこそがOYAZIが一番頭を悩ませた事だった。
実際に果樹園をやっているセリさんの村にとってはとてもありがたい事ではあるが、現在この村は果実を輸送する事で利益を得ているので川の貿易路が完成すればセリさんたちが自分たちで輸送することとなり、この村の利益が無くなってしまうという問題が発生するのだ。
だからと言ってこの村の人たちが代わりに輸送役をやったとしても、余計に人件費や手間を取られてしまうので、セリさんたちにとっては実に迷惑な話しとなってしまう。
それに川はこの村の横を通っているのだから、もし無理やり貿易路を作ってジャネイロと取引を開始しても、怒った村人が川を塞いだりしてしまえばどうにもならなくなってしまうのだ。
なのでこの村にも十分利益ができなくては、村長も村人も納得はしないだろう……
そこでOYAZIは考えた。この村が発展するためには、新たに特産品か産業を起こし村が貿易で儲けれるようになるか、この村に人が多く来るように観光地化するかのどちらかである。
ではまず特産品で考えてみよう! ここは村を囲むように深い森があり、森と村との堺にはそれなりの広さの草原が存在するが、畜産や農業を行っているのは村周辺の一部のみである。
これはモンスターが村に出現しないように村の中心に結界みたいな装置があり、それにより村周辺にモンスターが出現したりしないようになっている。
これは街道に設置されている物と同じ物で、その効果は遥かに村の方が優れてはいる。だがその装置の設置には莫大な費用を要し国に申請しなければいけないので、いくら周囲に肥沃な大地あったとしても簡単に開墾したりできないのだ。
だから新たな産業などを起こしたりとかは難しいので、現状で出来ることから考えてみた。
まず周囲には動物系モンスターが多くどれもノンアクティブモンスターなので、村人でも十分に対応できるレベルではあるが、それ故採れる素材も大した物は無い。
主に取れる物は、ウサギ・カエル・トリ・ヘビ系のモンスターの肉と皮や羽、それと魔石である。
魔石はわりと高確率でドロップする物で、レベルが低いモンスターの物だと大した価値は無く精々ランプ代わりの明かりや、飲み水代わりにしかならず売っても二束三文でしかない。
この世界では魔石を利用した技術は多く存在している。調理器具から町の外灯や家庭の明かりまで魔石で補っている。けれど今でも従来の油や蝋燭のランプやカンテラは多く使用されており、魔石技術は広く普及してはいるが、田舎に行けば行くほど使ってる人が少なくなっている感じだ。
そしてそれら魔石には属性があり、火を起こすなら火属性の魔石が必要で、明かりなら光属性の物が必要なる。
しかし自分の住んでいる周辺でそういった色々な種類の魔石が取れるなら問題ないが、取れない地域なのであれば魔石を購入するしかない。
そうすると輸送費と合わせて、本来なら最低品質の魔石でも地域によっては高額な物へとなってしまう。
なので未だに薪で煮炊きをしたり、蝋燭の明かりで過ごしている人は多いのだ。かといってこの地域の魔石を大量に不足している地域に運んだとしても、それは一時的には儲けはでるかもしれないが、川の貿易が今後発展して真似をする所が出てくれば、あっと言う間に価値の無い物へと逆戻りになってしまう。
それにこの村周辺で取れる魔石は水・草・土の属性の物ばかりで、あまり需要のある属性の魔石は取れないので、これは特産品にはなりえない。
ならば何が残るのか……
そう考え抜いた結果OYAZIが見出したのは、肉だった。
皮や羽は前にロイが言っていたように『この村周辺のモンスターは弱すぎて素材としては駆け出しの者になら需要はあるかもしれないが、あまり売れないと思うよ』と言う言葉から分かるように、大した価値は無い。
そうなると残るは肉って事になる………。そう考えてOYAZIはここで取れる肉を使った何か料理か商品が出来ないかと考えたのだ。
そしてOYAZIが着目したのが"保存食"である……このイルザォン・ヘッヂオンライン では料理人はわりと重要なスキルの1つである、何故なら作った料理は時間の経過と共にその効果が低下してしまうのだ。
けれど渇水や空腹はしっかり回復できる、では何が低下するのか? それは"付属効果"である。
"付属効果"とは作った際に付く特殊効果のことである。例えばカレーライスを作ったとしてその内容が……
カレーライス(中辛) 評価:5
老若男女誰にでも好まれる無難な味わい、スパイスが香り食欲がそそられる一品
空腹値を50回復 耐熱効果(低)Atk上昇(低) (完食後一定時間、渇水値が減少していく)
と、こんな感じな物だったとしよう。このカレーライスだと空腹値の回復は時間が経っても変化が無いが、それ以外の耐熱効果やAtk上昇なんかの効果は時間と共に低下していしまうのだ。
なのでどんな食べ物でも、出来立て作り立てが好まれるのでサポート系スキルで固めている人は、よく料理人のスキルを取っている人は多い。けれど皆が皆そういう訳ではない、そこで出てくるのが"保存食"なのだ。
一口に"保存食"と言っても現実にある本当の保存食である乾パンやレトルトパウチ食品を作るわけでは無い、ようは効果が持続する料理を作ることだ。
例えばオニギリやサンドイッチといった持ち歩けて、リアルでも1日くらいだったら日持ちする食品を作るということだ。ステーキやラーメン等、時間の経過と共に味が落ちたり、変わったりするものが基本的には効果も同様に低下すると考えればいい。
なので、冷めていても美味しく食べれる物か元々冷めている食品ならば基本的は大丈夫なのだ。
まぁ、あくまで常温の状態で味に変化が無い物って事だ。
そこでOYAZIが考え付いた物が"燻製肉"だ。所謂ベーコンやハムといった長期保存のできる加工肉が、この世界でもできないかと考えたわけだ。
ベーコンやハムならばそのままでも十分食べれるし、具材としても確実に売れる品物となるだろう。だからこの村の特産品として十分に機能すると考えたのだった。
そしてあの日、川の貿易路を考えついた夜のことだ……。
OYAZIはこの"保存食"を考え付き大雑把ではあるが森に生えている木を調べてみた。
すると森にはスモークチップとして有効な楓の木や楢の木など様々な木が生えていることが確認ができた。
そして即席で拙いながらもなんとか食べられる程度の評価を得たベーコンを作る事ができたので、そのベーコンをアイテムBOXから取り出すと、村長たちの前へとドンッと置いて見せた。
「これは?」
「ベーコンという、肉で出来た保存食です」
「べぇこん? 初めて聞く食べ物じゃの……」
そう、この世界には加工肉自体がほとんど存在していないのだ。干し肉や干物も存在してはいない、基本的には肉も野菜も果実も魚もどれも生の状態で売られている。無論チーズやパンといった発酵食品は存在するのだが、あまり保存食自体が存在していないのだ。
無論、保存食自体が完全に存在しない訳ではない。黒パンやクッキーの様なクラッカーの様な物もあるし、オイル漬けのようなものは存在する。けれどピクルスや漬物みたいなものは存在しないのだ。
ピクルス、ザワークラフト、たくあん、ぬか漬けみたいな発酵食品関係の物は現段階では殆ど存在していない。
しかし醗酵を利用して作られる調味料等は存在している。
味噌・醤油・魚醤・ナップラー・ケチャップ・チリソース等々……それと一応ではあるが調味料として日本酒・味醂・焼酎・赤ワイン・白ワイン・ブランデー・ウィスキー・コニャック・ウォッカ等の酒類もありはするが、未成年もプレイしているこのゲーム内では飲酒はできない仕様になっている。
しかしNPCに限っては飲酒できるようで、普通に店先で誰でも購入できるがプレイヤーが購入して飲もうとすると警告メッセージが表示され、飲んでもただの水の味しかせず酔うことはない。けれど調味料として使う分には、香りや風味といった物は残るようだ。
さて……話しがそれたので話しを元に戻すとしよう。俺は村長たちにベーコンを切り分けると試食するように促した。
「ふむ……確かに美味しいのぅ」
「何か変わった匂いがするが、悪くないな…」
「わしには少し硬いが、確かに美味いのぅ……」
モグモグと村長たちは美味しそうにベーコンを試食し終えた。
「さて、皆様……食べられての感想はいかがですか?」
「……美味かった」
「癖になる味じゃった。」
「少し硬いのが気になるが、悪くわ無い。」
(ふむ……つかみとしては上々のようだな、まだ評価は3程度だがこれなら十分に売り物になる! けど料理人のスキルレベルが低いせいなのか、リアルでのレシピと同じように作ったのに評価が3なんてなぁ……まっ今後、改良していけば良いのだからとりあえず今は、この案が受けいれられるようにもう一押しだな……)
村長たちの反応を見てOYAZIは、かなりの好印象を得たことを確かめると本題を話し始めた。
「さて……今、皆さんが食べたベーコンはこの村の周辺にいるハニーラビットの肉になります。」
「なんと!? あの村の側にいっぱ居る弱いウサギのモンスターの肉なのか!?」
普通リアルならばウサギの肉は脂肪分が少ないが柔らかい肉であり、ベーコンにはならないのだが……ここはゲーム故なのか、このハニーラビットの特徴なのか分からないが、この肉はわりと脂肪分が多かったのでベーコンに仕上げてみたのだ。
それに今後はベーコンだけに留まらず、ジャーキーやハム等も作っていくつもりなので他のモンスターの肉も使い道は十分にあるとOYAZIは考えていた。
「はい。それとこれはあくまで試作段階でこの味なので、もっと改良していけばさらに美味しい物ができると思います。」
「なるほどのぅ……確かにこの味で保存もきくとなれば、売り物になるじゃろうて……しかし、それは一時の事にすぎぬのではないのかの?」
「っと言うと?」
「このベーコンは貴方しか作れぬ……そうなるとわしらは貴方からこのベーコンを買って輸送し売ることになるのじゃろ? となれば、永遠にこの村に貴方が居るわけではないじゃろ? そうなれば……」
「それは違います! 俺はこのベーコンが完成したら、そのレシピを村の人だけに公開するつもりです。」
「!? ……なんと、それは実か?」
「はい。そうでなくてはこの村の特産品にはならないでしょ? ハニーラビットなら村の人でも狩ることはできますしね」
「そこまで考えておられたとは…………冒険者どの……いや、OYAZIどの! 川の貿易路建設、わしたちも力を貸すことをお約束しよう!」
そう言って村長たちとOYAZIは熱く握手を交わし、ここに新貿易路計画が動き始めた。
次回から、作業場面が多めになりそうです。ベーコン作ったり船作ったり、護岸工事したりとOYAZI大忙しです。
さて話しは変わりますが、旧ドラえもんのジャイアン役の『たてかべ 和也』さんがお亡くなりになってしまいましたね……子供の頃良く見ていたのでとても残念な思いです。
今年に入って大塚周夫さんや小川真司さんなども亡くなってしまい、聞き覚えのある人たちがいなくなってしまい寂しいかぎりです。
たてかべ 和也さん、大塚周夫さん、小川真司さんご冥福お祈りいたします。いままでお疲れ様でした。




