鳩が豆鉄砲を食ったよう
鳩が豆鉄砲を食ったよう、とは
鳩が豆鉄砲で撃たれ、驚いて目を丸くしている様子を表し、思いがけない出来事に驚いて、きょとんとしているという意味……
怯える青いスライムに優しく呼びかけ続けて数十分…ようやく安心したのか、ゆっくりとスライムは草むらから出てきた。
すると……スライムが見る見るうちに、青く半透明なゼリー状の肌をした幼い少女の姿に変身していった。
「…………ホント……おこっ、ない?」
「うん、怒ってないよ。」
オドオドしながら、少女姿のスライムはたどたどしい口調で謝り始めた。
「…………その、サカナ……たべ……ゴメ……なさい」
「別に魚のことはいいよ。でも生で食べて平気なの? どこか気持ち悪い所とか無い?」
「へーき、いつも……ナマ……たべた。」
「そ、それなら別に良いんだけど、どうして俺の魚を食べたんだい? そんなにお腹が空いていたの?」
「ちがう……みたことない、サカナ……いた……たべた。」
その後、暫く少女と話しをしてOYAZIは大体の事情を理解した。
(つまり……いつものように散歩していたら、村の人ではない見たことの無い人間がいたので気になって近づいてみると、脇に置いてあったバケツに自分が今までに見たことも食べたことも無い魚がいたので、好奇心に駆られて思わず食べてしまったっという事か。)
(まぁ外見どおり子供がした事だし、食べられた魚は食いたいと思えるのいなかったから別に問題ないしな、しかし何でこの子ここにいるんだろう?村では見たこと無いけど、この子は俺のことを村人以外で始めて見る人って言ったってことは、この近くに前から住んでいたって事だよなぁ? う~ん……)
少女とのつたない会話でなんとなくの事情を把握できたOYAZIだったが、まだ分からない事が多くて悩んでいると、不意に少女がOYAZIの服の裾をグイグイと引っ張った。
「…………たべた…サカナ……かえす…………くる」
「? えっと、お詫びに別の魚をくれるってこと?」
「ちがう……くだもの…むら……くる」
「えーと……魚を食べてべてしまったお返しに果物をくれるから、村について来いって事?」
「そう……こっち…………」
そう言いながら少女は、森の方へとOYAZIを引っ張った。
(ん? 森の方へ行くって事は、こっちにこの子の村があるって事だよな? ロイさんの話しでも、ネット情報にもこの村の近くには何も無いって書かれていたし、これはアップデートでスライムの村が追加されたって事かな? まぁ、行ってみれば分かるか……)
「こっち……」っと言いながらグイグイ引っ張る少女の後をついて行きながら、OYAZIは念のためにアイテムBOXから斧を取り出し、もしもの時に備えた。
それから1時間程経った。2人は特にモンスターに襲われる事も無く、少女の案内で森の中をOYAZIは進んでいた。
(しかしこの子…言葉は凄くつたないのに、こっちの話は理解できるんだよなぁ……という事は別に言葉が理解できないとかじゃなくて、単に話し下手かスライムがそういった種族なのかな? まぁ、スライムは話しべた以前の問題でスライムの体には、会話するための口も舌も無いし、そもそも臓器が無いから本来声なんて出ないはずだもんなぁ、しかしそう考えるとこの子どうやって声を出しているんだろう? う~む……ファンタジー故に全て魔法って事で理屈が通ってしまうのだろうか?)
リアルであれば『事案発生!』っと叫ばれるであろう、シチュエーションの最中OYAZIはそんなどうでもいい事を考えながら只管森の中を歩いていると、急に視界が開けた。
するとそこには、高い木の塀で囲まれた村が見えてきたのだった。
そして少女はいつの間にか繋いでいたOYAZIの手を離し、門らしき場所に佇む人影に向って駆け出していった。
OYAZIは、ちょっと離れた所で少女と門の前にいる人物を眺めていた。
(よく見れば門にいる人もスライムか、あの子とは違う色をしているけど、皮膚は同じように半透明だな……しかも軽装だが鎧を着て武器も、持っているようだ。)
少女と恐らく門番であろう人物は暫くの間、手を繋ぎ互いに見詰め合っていた。そして突然、再び少女が走り出しこちらに近づいてきた。
「きて………」っと言いながら少女はOYAZIの手を取り、グイグイと引っ張り門の所まで連れて行くと、門番の青年が話しかけてきた。
「初めまして僕はこの村の門番をやっているタイムと言います。その……すまなかった。どうやらアニスが迷惑を掛けたようで、この村の者として謝罪させてくれ、本当に申し訳ない!」
そう謝まりながら茶色い色をしたスライムのタイムと名乗る青年は深々と頭を下げ、彼の横で少女も同じように頭を下げていた。
「いやいや、気になさらないでください。食べられた魚も大したのはいませんでしたし、何より子供がした事ですので本当に気にしないでください、彼女も最初に謝ってくれましたから」
「…………そう言ってもらえると助かる。アニスは他の子供より好奇心が強くて、何度注意しても、出て行かないように警戒していてもいつの間にか村の外に出てしまって……今回の事すまないと思っている。」
「ははっ、子供とは皆そういうモノですよ。気にしないでください。……そう言えばまだ自己紹介していませんでしたね、俺は一応冒険者をしているOYAZIと言います。」
OYAZIは自己紹介を済ませると、気になっていた事をタイムに聞いてみることにした。
「しかしこの森にスライムの村が在ったとは存じませんでした。」
「あぁ、それはそうでしょう……我々は最近この森に越して来たばかりなんですよ。」
「そうなんですか?」
「えぇ、前はここより東に行ったジャネイロって言う町のさらに東の森の奥で住んでいたんですがね、丁度1ヵ月半前くらいに村の近くにダンジョンができてしまったんですよ。そのせいで周辺のモンスターは軒並み凶暴になり、さらにダンジョン目当ての冒険者が山のように押し寄せてきて……とてもじゃありませんが住んでいられない状況だったので、ジャネイロの町長がここなら構わないと勧めてくれたので引っ越して来たという訳です」
(なるほどぉ……1ヶ月半前って言えば、リアルの時間で計算すると丁度アップデートの時だな、でもあの森のスライムの村があったなんて話しは聞いた事も無いから、これもアップデートで追加されたイベント……なのかな? この手の話だと普通に考えれば、ダンジョンをクリアーさせてしまえばダンジョンは消えるから、そうすればこの人達も元の村に帰れるってイベントだろうか?)
そんな事を考えつつも、OYAZIはさらに別の気になっていた事もこのさいだと思い聞いてみる事にした……。
「そう言えば、あの……その…………タイムさんは普通に喋れていますよね? 彼女……アニスはもっとたどたどしい口調だったので、てっきり俺はスライム族は皆は、話すのが苦手なのだとばかり思っていました。」
「はははは、それはさすがに無いですよアニスはまだ幼いので上手く人の姿に成れないので、どうしても言葉はたどたどしくなってしまうんですよ。本来スライム族は同じ種族同士で直接触れ合うことで思念を伝える事ができるので、幼いうちは思念で会話することが多くて言葉で上手く伝えるのが難しいんですよ。」
「なるほど、そういった理由だったんですか……その、失礼な事言ってすみませんでした。」
「いえいえ、気にしないでください。実際大人になっても言葉をしっかり話せない者もおります故、そう思われてもしかたがないのですよ。」
失礼な事を言ってしまったのでOYAZIは直ぐに頭を下げ謝ったのだが、タイムは笑顔で『気にしないでくださいと』言ってくれた。
そんな会話をしていると、横にいたアニスがタイムの手をグイグイ引っ張ると再び2人は無言で見つめ合った。
(あっ、会話しているのか! しかし思念で会話ってどんな感じなんだろう? あれかな『こっ、こいつ……脳に直接!?』って感じに頭に言葉が響く感じなんだろうか? そういえばスキルでそういったのって無いのかな? まぁ、あっても使い道が無さそうだが……)
そんな事を考えながら数分が経った。どうやらアニスとの会話が終わったらしく、タイムは再びOYAZIの方へ振り向き話し始めた。
「すみません、お待たせしました。今、村の者達に話しを通しましたので村の中へどうぞ、道案内はアニスがしてくれますので」
「えっ? 話しを通したって……あれ? 思念での会話って直接触れ合わないとできないんじゃないんですか?」
「その……僕は"感応"のスキルを持っているので、それを使ってアニスと僕の思念を村の皆に伝えたんですよ」
「へー、そんなスキルがあるんですねぇ」
「まぁ、あまり意味の無いスキルなんですけどね……一方的にしか伝えられませんし、伝えられる範囲もそれほど広くないので、そこまで使い道がないんですよねこのスキル」
タイム曰く、どうやら"感応"というスキルは特定の人間に指定して発動する事はできず、効果範囲内の全ての者に思念を飛ばすスキルなので緊急時とか以外はそれほど使い道が無いスキルのようだ。
しかも、感応の反応するのは"思念会話"のスキルを持った者にしか効果が無いため、スキルを持たない人には何の意味も無いスキルなので、スライム族同士での緊急時に複数の仲間に危険などを知らせれるためだけのスキルと認識されているようだ。
彼が門番をやっているのも、この"感応"を持っているため半ば強制的に門番をやらされているんだとか、タイム自身は『僕は腕っ節も弱くて、攻撃スキルも大した物を持っていないので本来は門番なんかやりたくはないんですけれどね』と苦笑いしていた。
因みにこの世界の住人であるNPCは、スキルをプレイヤーの様に任意に取得することはできず、先天的に覚えていたり日々の努力により備わる物らしい、なのでこの世界の人が冒険者になる人はそれ程多くはないみたいだ。
けど冒険者を夢見る人は多いらしく、若い時に村を飛び出して結局冒険者としては大成することができず村に出戻ってくるんだとか。
そんな話をしていると、アニスが待ちくたびれたのか『はや……くる……』とグイグイとOYAZIを引っ張っていた。タイムはその光景を見て、苦笑しつつ門を開けてくれた。
OYAZIはタイムにお礼を言いつつアニスに連れられ村の中へと入って行くと、突然大勢のスライムが飛び跳ねて近づき一斉に幼い子供の姿になり2人を取り囲んだ。
「アニス……また…した……」
「どこ……いった…?」
「こんど…ボク……そと…いきたぃ……」
「ズル……アニス…そと……でる…………」
(どうやらアニスと同世代の子供達の様だな、しかし皆、色が違うんだなぁ……赤に紫に黄色に黄緑、黒に白色とバリエーション豊富なんだな、やっぱり色によって何か違いがあるんだろうか?)
そんな事を考えていると、奥から若くて美しくスタイル抜群な女性姿のスライムが近づいて来た。
「こら! あんた達、お客さんの前で見っとも無いよ! 人型に成るときは服を着るっていつも言っているでしょう!」
そう彼女が怒ると、子供たちは蜘蛛の子を散らすように『にげ…………』『わぁぁ……』『キャァ……』っと言いながら逃げていった。
「すみません。お見苦しい所を見せまして……私がアニスの母親セリと申します。その……今回は娘が失礼をしました。本当に申し訳ありません。」
「いっ、いや頭を上げてください。本当に気にしていませんから」
「いいえ、たとえそれが本当に些細な事であったとしてもこの子が人様の物を盗んだことには変わりません。ですからここは謝らせてください! 本当に申し訳ありませんでした。」
そう何度も何度も彼女は頭を下げ謝り続け、OYAZIは謝り続けられた事で逆に申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまっていた。
結局、彼女の横で謝り続けるやり取りに飽きてしまったアニスが止めるまでセリの謝りは続いた。
(いや~、しかし何度もセリさんが頭を下げるとその胸元の物が大きく揺れて……一瞬モンスター娘イイかも……って思ってしまった。いかんいかん……危うく道を外れるところだった。ふぅ、危ない危ない……)
そんな理性と性欲との激しいバトルを脳内で繰り広げながら、OYAZIは『お詫びの品を受け取ってほしい』とセリに言われ、そのまま彼女達の後をついて行く事となった。
「お詫びの品は果物ってアニスから聞きましたが、こちらの村では果樹園を営んでいるんですか?」
「えぇ、そうです。我々スライム族は基本的に果物と水だけを主に食べて生活しているので、村の中で果樹園を作って暮らしているんです。」
「へ~……しかし『基本的に』ってことは……」
「はい、スライム族は本来どんな物でも食べる事はできます。たとえそれが土であろうが金属だろうが魔法だろうが、です。」
「では何故、果物を?」
「それは美味しいからです。結局のところ……本来食べ物でない物を食べても美味しくないですし、他の種族の様に加工したり調理した物は我々にはそこまで美味しいと感じられないのです。だから我々スライム族は果物を主に食べているのです。」
「なるほどぉ……それじゃあアニスの行為はどいう事なんですか? 単純に子供の興味本意って事ですか?」
「いえ、そういう訳ではないのです。」
セリさんの話しだと、どうやらスライムは生まれてきた瞬間から自分の得意な属性スキルを目に見えて分かる状態で生まれてくるらしい、それは……彼らの体の色だ。
白なら聖か光、黒なら闇か重力、茶色なら大地や土など見た目の色で自分の属性が何かわかるのだ。なので幼いうちから得意な属性を成長しやすくするためや、属性スキルのレベル上げの為にそれぞれの属性に関係する物を食べるみたいだ。
つまりアニスが俺の魚を食べたのは、スキル上げの為ってことだったらしい……アニスの体の色は青、つまり水か氷の属性スキルを持っているって事となる。
本来ならまだ幼いうちは大人から自分にあった属性スキルに関係する物を採って来てもらうのが普通みたいだ。
村の外は普通にモンスターが存在するので、普通は幼い子が1人で村の外に出ることはできない。
けれどアニスはそんな事お構いなしに、勝手に外に出てしまい毎日のように川に行っては魚や川の水を食べたり飲んだりしてスキル上げをするのが日課らしい。
そして今日は、子供ならではの発想で未探索であるこの森を探検しつつ、いままで食べた事の無い物を求め川を下ってみようと考えたらしい、それでどんどん川を下っていたら下流で俺に出会ったみたいだ。
そもそもアニスには釣りがなんなのか分からないため、俺が不思議な行動をしているので、とても気になり近づいたって事だ。
そしたら、俺の隣に置いてあるバケツには彼女かまだ食べた事の無い魚がいっぱい泳いでいる。そりゃもう食べる以外の選択肢が出てくる訳がない、まぁ結局は子供ならではの良いのか悪いのか分からずその場の勢いでやってしまったって事だ。
っで、俺に発見され、怒られたと思い何とかしようと彼女なりに考えた結果、村に連れて行って果物を魚の代わりにあげれば良いという考えに至ったってことらしい。
「本来ならばお金を差し出すのが普通なのでしょうけれど、生憎村には今それほど蓄えがないもので……」
「気にしないでください。たった数十匹の魚でそこまで謝れると、こちらの方が申し訳なってしまいます。」
そうこうしていると、どうやら果樹園に着いたようで果物の甘ーい香りが漂ってきた。そして果樹園の中に入るとそこには、OYAZIが想像だにしない光景か広がっていた。
「なななな……何ですか!? これ!」
「何って"果実の木"ですよ?」
「くだもの……キィー…………」
「"果実の木"?」
「ご存知ないのですか? あぁ、もしかして"渡り人"の方でしたか。それなら知らないのも納得です。」
"渡り人"とは、このイルザォン・ヘッヂオンライン の世界でのプレイヤーの事を指す。どうやらこの世界の住人は、プレイヤーを別の世界から行き来している不思議な種族という位置づけにしている様だ。
この世界に存在する様々な種族の人間・エルフ・ドワーフ・魔族等とは別の新種族って事らしい。
だから死んでも復活するし、不思議な単語を使ったりこの世界の常識を知らないって思われているようだ。というか、そういう設定なのだ。
さて、話を戻すとしよう……。OYAZIが驚いた"果実の木"とは、たった1本の木に様々な種類の果実が無数に生っている木の事である。
リンゴ・サクランボ・柿・梨・ブドウ・みかん・ネーブル・キウイ・アケビ・スイカ、ete……既に果実で無い物や蔓科の植物まで関係無しに、大雑把に果物って分類されるありとあらゆる物が1本の木に生っているのだ。
普通の人が見れば驚く事はまず間違いがないだろう……OYAZIはそんな現実ではありえない光景を見て、ただ呆然とした。
この場を借りまして補足させていただくのですが、今回スライム族の人たちがスキルを取得するのを"持つ"と書かせてもらいました。
これはプレイヤーとNPCを区別させるための表現だと思ってください、プレイヤーは任意にスキルを取得できるので"取る"でNPCは自らが努力したり、生まれつきで持っていたりするので"持つ"という表現にしてみました。
話しは変わりますが、何と!ブックマーク数が2200件を超えました!本当に皆さんありがとうございます。まさかここまで伸びるとは自分でも予期していませんでした。
今後ともご愛読していただければ嬉しいかぎりです。




