急がば回れ
急がば回れ とは
急ぐからといって慣れない近道を通れば、道に迷うなどして、かえって遅くなるもの。
それよりも、多少の手間や時間がかかる回り道であっても本道を行くほうが、結局は早く目的地に着くという意味……
「喰らえ! バックスマッシュ!!」
ロイのバックスマッシュが決まり、3匹のサウンドフロッグが吹き飛ばされながら光りの粒子となって消えていった。その直後、残りのサウンドフロッグ数匹がロイ目掛けて飛び掛る……。
「ロイさん! 5時の方向、来ます!」
「ふっ、甘い! ハッ!! てりゃっー!」
飛び掛かって来たサウンドフロッグを倒し終わると、周囲にモンスターはいなくなっていた。
「……ふぅ、一通り片付いたか」
「きりも良いですし、ロイさん休憩にしませんか? そろそろMPが危ないんで」
「了解~、それじゃ休憩にするか」
星と微かな村の明かりだけが見え、カエルの鳴き声だけが響き渡る闇夜……村からさほど離れていない街道上で、OYAZIとロイの2人はサウンドフロッグを只管狩り続けていた。
数時間掛けて2人はようやく周辺のサウンドフロッグを狩り尽くすと、MPと渇水や空腹を回復するため休憩を取る事にした。
周囲を入念に警戒し、モンスターがいない事を確認して一息吐くとロイは自らのアイテムBOXを開き、大人2人くらいが座れる茣蓙を取り出し、脇にランプを置いて休憩し始めた。
「さっ、座ってくれ」
「はい……あの~、もしかしてこの茣蓙って……」
「おう"簡易セイフティーゾーン"だ。」
「いいんですか? こんな所で使って、コレ結構高いですよね?」
「大丈夫、大丈夫♪ コレ家のギルドで作ってるやつだから気にしなくていいよ。」
わりと高いアイテムを気にもせず使用するロイを見て、OYAZIは少し驚いた。しかし、そんな驚くOYAZIの姿を見てロイはクスリと笑うと、理由を話し始めた。
「へっ? ロイさんのギルドって、コスプレ用に軽装備系を主に作るギルドじゃあないんですか!?」
「さすがにそれだけじゃ売り上げが少なすぎるからね、"織り師"のスキルがあれば茣蓙とか絨毯は作れるからね、それに素材を足してエンチャントすれば簡易セイフティーゾーンを作るのは、それほど苦じゃ無いさ」
"織り師"とは、生産系スキルの1つで、綿花等から糸を紡ぐことができたり、麻や竹等から籠や畳、茣蓙などを編んで作ったり糸から反物や布生地を作ることができるスキルである。
戦闘能力は皆無ではあるが、作ることができる反物や布生地は安定してプレイヤーやNPCに売れるので、防具を作る生産系プレイヤーが取っている事の多いスキルの1つだ。
そしてロイが取り出した"簡易セイフティーゾーン"とは"織り師"で作れる絨毯に、モンスター避けの素材やエンチャントすることにより作ることができる設置系のアイテムで、周囲にアクティブモンスターがいない状況のみ設置できるアイテムだ。
コレを設置すると一定範囲にアクティブモンスターが沸かないくなり、こちらから攻撃しない限り敵から狙われることないアイテムである。
無論、永久にセイフティーゾーンとして機能する訳では無い、アイテムによりけりだが平均10分~20分くらいの間だけ使用できる使い捨てアイテムだ。
効果時間が過ぎると自動的にアイテムは消失する、ただしダンジョンやイベント時のフィールドでは使用できないようになっているので、万能ってわけでも無い。
いくらセイフティーゾーンだからと言えど、近くでPTメンバー以外の誰かがノンアクティブモンスターモンスターを攻撃しても、効果は切れるので暗黙のルールとして狩場の近くでは使用しない決まりである。
「しかし何で茣蓙なんです? 絨毯やカーペットの方が、効果の長いのができますよね?」
「まぁね、これには理由があるんだ。」
「理由……ですか?」
OYAZIのそんな疑問にロイは、笑いながら答えていった。
「茣蓙は絨毯とかに比べて軽いだろ? だから初心者とか中堅どこのプレイヤーでも、安いアイテムBOXを持っているプレイヤーが多いんだ。しかしそうなるとアイテムBOX入る量は限られてくる。だから手持ちしても、できるだけ軽くて嵩張らない方が好まれるのさ」
「なるほど、そういうことですか……」
「食事をするだけなら最低10分あればどうにかなるし、茣蓙でも良い物なら20分効果が続く物もあるからね」
そんな話しをしながらOYAZIとロイは10分と短いながらも休憩を取り、MPや水分等を十分回復したことを確認すると、2人は装備の点検をし再びサウンドフロッグを狩り始めた。
そして夜が明けるまで狩り続け、完全に日が昇るのを確認すると2人は村へと帰ることにした。
「んー、どうするかなぁ~」
村にある貸家に戻り今回の狩りで取れた素材を確認していると、ロイが何やら悩んでいる様子だった。
「どうしました? 何か問題でも?」
「ん? いや、問題って訳でもないんだけれど、この調子だと予想より早く素材が集まりそうだなって思ってね」
「それは良い事じゃないんですか?」
「そりゃあ、そうなんだけれど……うん、OYAZIさんが良ければなんだけどさ」
「はい、何ですか?」
「素材集め終わったら、この家をOYAZIさんが使ってくれないか?」
「えっ? それって……」
「実は、この村に人が来ないと思っていたから結構な期間この家を借りたんだ、だから……」
「それは嬉しいですけど、俺、今はお金が……」
「お金はイイよ。もう払ってしまっているしね、それに余った期間を誰も使っていないのは勿体無いだろ?」
「そりゃあ、そうですが……」
どうやらロイはこの貸家を4ヶ月もの間、借りる契約をしているようだ。無論ゲーム内で4ヶ月だが……
「僕はシールダーという超近距離戦闘方法の故に、サウンドフロッグを狩るのは実に難しかった。いくら低レベルと言えど、数が揃えば厄介極まりない……。だから毎回4~7匹ずつくらいを狩ったら、休息してまた狩るを繰り返していたから、どうしても効率が悪かったんだ。」
「しかも僕は戦闘特化ではないからね、ポーション等のアイテムの消費も激しいし何度もジャネイロに戻って補給しなければならなかったから、もしもの事を考えて4ヶ月もの長期間この家を借りたんだ。もちろん試作品を完成させれば、後は本番用に素材を集めたらマイハウスに戻って仕上げるつもりなんだけどね」
「ここで作らないんですか?」
「そりゃ素材は手に入りやすいけど、その他の道具やらアイテムは町の方が楽だし、ここだと倉庫が使えないのが痛いからなぁ」
(考えてみればそうだよなぁ、町だったり王都の方が作業は楽だろうな、それにギルドハウスとかがある場所のなら尚更作りやすいもんなぁ、素材なら多めに集めれば良いんだし)
「で、どうだい? 変わりにこの家を使ってくれるかい?」
「そういう事なら喜んでなんですが、何か俺だけ得しているようで心苦しいですよ。」
「そんな事は無いよ。だって4ヶ月分の時間が短縮されたんだから僕のほうが感謝してもしきれないよ。それに僕だって新しい迷宮とか行ってみたかったからね、このままのペースなら作るの込みで10日掛からないと思うから、僕にとってはOYAZIさん様様だよ」
そう言いながらロイは屈託無く笑った。
それから数日間は夜にサウンドフロッグやノイズフロッガーを狩り朝はロイの指導の下、皮の小物や雑巾を作る作業を繰り返す日々だった。
そんなある日、被服師と皮師のレベルが5を超えた事を確認するとロイは新し物を作り始めると言い出した。
「さて、この数日は皮を使って簡単な小物を作るか皮を鞣すのをやってもらいましたが、今日からは装備品を作っていきます!」
「はい! よろしくお願いしますロイ先生」
「ふむ、では今回から作るのは……皮のエプロンだ。」
「えっ、エプロンですか?」
「む? 不服かね?」
「えっ!? いや~、その……皮の鎧とか、盾とか作るのかなぁ~って……」
「甘い、甘いよ! OYAZIさん。確かに鎧や盾の方が需要もあるし、高く売れる! けれどその2つは皮だけでは作れないのだよ。分かるかね?」
「あっ、はい。鎧なら少なからず金属が必要で、盾は木材が必要です。」
「ふむ、正解だ……。しかし! それ以外にもっと素材が必要になる! いいかね? もし鎧を作るとしてこのVRの世界でもっとも考えなくてはならない事がある。それは……着心地だ!」
「着心地? 効果や耐久じゃなくて?」
「そうだ。このリアルと変わらない感覚があるこの世界では、効果よりも着心地が優先される! 何故なら着心地が良くなければ、作った物の評価が低く効果自体も低くなるからだ!」
何処から持ってきたのか、ロイは黒板を背に教師風の口ぶりで熱くそして激しくOYAZIに説明していった。
「現実に考えてみたまえ、ただ鞣した皮を直接着たらどうなるか……」
「えっと……擦れて痛い? 動きにくい……かな?」
「その通り! だから鎧の内側にはクッションになる素材を入れ、そして布を貼るのが一般的だ。さらに肩や腰、首の部分にはよりクッションになる物を入れて、動いた時に皮そのものが食い込まないようにするんだ。」
「でも、テレビとか博物館とかで見る鎧とか甲冑には、そこまでしているの見たことありませが?」
「確かに現実の鎧や甲冑はできるだけ軽く作るために、何か衣服を着た上に装着する物だけど、この世界では現実世界に無いスキルによる技や魔法が存在するし、プレイヤーはかなりの筋力を持っている。だから、多少重量が加算されてもできるだけ動きやすい物の方が良いのさ」
どうやらこのイルザォン・ヘッヂオンラインの世界では、装備品にクッション材等を入れて攻撃時や回避時に動きやすくするのが一般的のようだ。
無論、動きやすさや皮自体が擦れて痛みを感じないようにするだけでは無く、クッション材を入れることによりさらに効果が付く事が狙いみたいだ。
「クッション材になるのは、羽毛や綿花等だがこれらを入れる事により冷気耐性が付いたり、使っている素材の効果が付いたりするのでより品質の良い物が出来るんだ。」
「でも、それだと重量が上がりますよね? そうすると皮装備だとしても軽装備扱いにならない事があるんじゃないですか?」
「そりゃ、重量は上がるけれどそこまで重くならないよ。確かにクッションを入れていない方が軽さはでるけれど、それより遥かにクッションを入れた方が効果も動きやすさも段違いだからね」
そう言ってロイは、確認用としてまだ内張りが施されていない皮鎧と、クッション材を入れた完成品を取り出し、試着してみるようにと勧めてきた。
「…………確かに、クッション材を入れた方が断然動きやすいですね、重さもさほど気にならないし」
「だろ? 普通に歩いたり、作業したりだと皮だけのやつでもそこまで気にならないが、いざ戦闘になってみるとその差は歴然だ。」
「なるほどぉ……」
ロイの説明に関心しながらOYAZIは皮のエプロンを作り始めた。
しかし何故皮のエプロンを作るのかは至極簡単な事だった。皮のエプロンはプレイヤーで欲しがる人は少ないが、この世界の住人…NPCにはよく売れるのだ。
しかし何故プレイヤーには人気が無いのか? それはプレイヤーがそこまで汚れたりはしないからだ。
プレイヤーはたとえずっと風呂に入らなくとも、異臭を放つ事も無いし見た目が汚れる事も無い。装備品も傷が付いたりはするが汚れが付く事は無いし、装備品は修理すればほぼ新品同様になるので生産系の人間でもエプロンを身に着ける人は少ない。
一応、何かしら作業をしていれば装備の耐久は減るのだが、その減る量は戦闘時に比べれば微々たるもの、なので中にはその僅かに耐久が減るのを嫌ってエプロンを装備する人もいるのだが、大抵の人は装備しない。では何故NPCには売れるのか?
それは、NPCにとってこのイルザォン・ヘッヂオンラインが現実なので動けば汗が出るし、汚れもする…なので皮のエプロンは町や村の主婦から肉や魚を店で売る商人、もちろん職人の人も買う物なので良く売れるのだ。
しかも布製より皮の方が耐久に優れ汚れにくいということもあり、皮のエプロンは結構儲かる商品なのだ。
それに、皮エプロンは服や鎧を作るとき必須の型紙等も無くても作ることの出来る物なので、初心者には打って付けの装備でもあるのだ。
そう説明され、OYAZIは納得すると黙々と皮のエプロンを作っていった。
だいぶ間が空いてすいません……けっしてガンオンのアップデートではしゃいで、『ガーカス先輩最高やで!』ってやっていた訳ではありません(白目
今回はかなり短かくなってしまい、すみませんでした。この先どういう展開にもっていこうか悩んでいたので、今回の投稿が遅れた理由でもあります。
次回投稿も同じくらいか、早ければ3~4日間隔で投稿できればと思っています。




