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結の巻 なぬっ、闇の軍勢だと……勇者様お願いしまーす! 後編


「おいショータ、足下に気を付けろよ。ここで転んだら笑い話にもならないぞ」


 カイルが偉そうに言ってくる。

 それはこっちの台詞だっつうの。大体、まだ十歳にもならない子供が、大人に言うことかよ。逆だろ逆……ったく。



 俺達は神授所の女神像の下から現れた、地下へと続く階段を降りている。

 カイルが「探検だー!」と、喜び勇んで降りて行こうとするのを止めるが、目を離したら勝手に行きそうなので、仕方なく一緒に行くことにした。

 まったく、こんな時に何を考えてんだか。こういう所は、生意気なようでまたまだ子供なんだよな。

 取り敢えず、ケイミさんに避難してきた人達の面倒をちょっとの間だけ頼んだ。

 まあ、俺も少し興味があったからね。

 探検、あーそれは男のロマン。子供時代、ただの空き家や廃墟を幽霊屋敷だと言っては、友達と探検しに行ったものだ。

 探検、その響きは何故これほど、男の冒険心をくすぐる響きなのか。

 というわけで、俺もちょっとワクワクとした気分だった。


 だが、そんなワクワク気分もすぐに後悔へと変わる。

 直径十メートルほどある立て坑は何処までも、奈落の底まで続いていくようで不気味に感じるものだった。

 しかも、手に持つ松明の明かりで照される階段の幅は50センチほどだ。

 手すりもない階段は一歩間違えれば、奈落の底に落ちていきそうだった。これって、周りが暗いからまだしも、明るかったら足がすくんで動けないところだよ。


「それにしても、この階段は狭いねえ。ホントに気を付けないと、穴の底に落ちてしまいそうだよ」


 そして何故か、王都のゴッドマザーことサキさんまで一緒についてきていた。それにサキさんの護衛の二人も。

 ひとりは鬼人の血が混じるまむしのサンジ。もうひとりは虎人のムササビのタツゾウ。

 これは彼らの本名ではない。ファミリー内でのニックネームだ。サキさんの亡くなった旦那さんが名付たらしい。彼らのまるでマフィアような格好も、旦那さんの趣味だったようだ。

 因みに彼らのファミリー名はタナカファミリー。……田中さんなにやってんの。

 きっと日本人だったのだろう。何だかぐっと親近感がわいてくる。出来れば生きてる時に出会いたかったよ。

 でも、田中さんはどうして死んでしまったのだろう。


 そんなことを考えながらしばらく降り続けるが、一向に底に着く気配がない。上に残してきたケイミさんも心配だ。一応、サキさんのところの男衆が、また変なやつらが来ないように警護にあたっているが、やっぱり不安だ。エルクさんに頼まれた責任もあるしな。


「もうそろそろ戻ったほうが良くないですか」


「そうさねえ。思ったより深いからね。ここはもう少し装備を整えてから出直したほうが良さそうだね」


 えっ、もう一回降りるつもりですか。サキさんも男勝りなだけあって、探検とかが好きなんですかね。


「さっき話した女神様の話は眉唾まゆつばとしても、もしかすると避難できる場所ぐらいは、下にあるかも知れないからねえ」


 あっ、そういうことですか。この下にシェルターみたいな場所があるかもと。なるほど、俺はそんな事を考えていなかったよ。

 さすがは、荒くれ達を率いるだけはありますね。


 そうなると確かに、魔獣の中には空を飛ぶようなものもいたし、やはり隠れ潜むシェルターのような場所があるほうがいいのか。


 俺達が一度出直そうかと考えていると、カイルの喜びの声があがった。


「ここが、この穴の底。そして俺が一番乗りだ!」


 カイルが最後の段を飛び降りるようにして、穴の底に着地した。


 ふぅ、ようやく着いたか。上を見上げるとほんの少し、かすかに明かりが見える。

 うわぁ、大分降りてきてるな。帰りの事を思うと、ちょっとうんざりする。


 俺が上を見上げてる間、すでに皆は辺りを調べていた。

 しかし、調べるまでもなく、目の前には巨大な横穴が開いている。


「……これは凄いな……」


 その横穴は、壁床天井の四方を、四角い石で隙間なく敷き詰められている。しかも、その四角い石のひとつひとつが微かな燐光を発して、ほのかに横穴を照らしていた。


「こいつは……魔石を加工して積み上げてるようだね。しかもこの大きさの魔石を、これほどの数を揃えるとなると途方もないよ」


 サキさんが横穴の壁を、ペタペタと手のひらで触っている。

 さっきまでの立て坑といい、この通路もあきらかに自然の物ではない。

 これってマジでやばい領域に足を踏み入れてないか。


「……あの人が寝物語に話してた事は、本当の話かもしれないねぇ。そうなると……あの人の死因も……」


「えっ」


「何でもないよ。さぁ、この先をもう少し探索しようじゃないか」


 そう言うと、通路の先に向かってズンズン進んで行く。護衛の二人もその後を慌てて追い掛けていった。


 何か今、サキさんが変な事を言ったような。


「おい、ショウタ。俺達も早く行こうぜ」


 カイルに促され、俺とカイルも後を追い掛ける。

 うーん、しかしこういう遺跡みたいな通路を見ると、昔見た映画とか思い出すよな。まさか、後ろから大きな岩が転がってきたりしないよな。

 後ろを気にしながら歩くが、現実にはそんな事があるはずもない。今度の通路はさほど歩くでもなく、数十メートルも歩くと出口に到達した。


 そして通路の出口では、驚いたように立ち尽くすサキさん達がいる。


「何かありますか」


 一声かけて出口の先を覗くと、俺も「あっ」と声をあげ言葉に詰まってしまった。カイルも目の前の光景に目を奪われている。


「地底湖……」


 街の下にこんなものが広がっているとは……。

 通路の先は広大な空間に繋がり、そこには満々と水を湛えた湖があった。


「こいつはただの水じゃないよ。よく見てごらん」


 言われてよく見ると確かに、最初は辺りが暗いからと思ったが水そのものが真っ黒な、まるでコールタールようなものだった。

 しかも、薄暗闇の中、目を凝らして見てみると、その湖の真ん中には小島があり、小さな祠が立っている。


 まさかあれって、本当に闇の神殿とかなのか。

 これって本当にヤバくないか。


「こっちにあの島へ続く道があるぜ」


 この馬鹿!

 カイルが嬉しそうに、その小道に走り出そうとするのを捕まえる。

 右横にある小道は、小島に渡るための橋へと繋がっていた。


「これは怪しすぎる。あれが本当に大昔に建てられた闇の神殿なら、ここは一旦戻って誰かに知らせたほうが……」


 俺は一旦、帰ろうとサキさんに言うが、サキさんは小島にある祠を睨みつけたまま動かない。


「あんたらは帰りな。サンジにタツゾウあんたらも、ここから先は無理してついて来なくてもいいよ。あたしにはどうしても確かめなきゃいけないことがあるからね」


「あ、あねさん……」


 サンジとタツゾウが顔を見合せている。


「サキさん、そんな無茶ですよ」


 サキさんがしばらく小島をじっと眺めた後、ぼつぼつと話し出した。


「あたしの旦那が逝く数日前から、あの人は夢の中に闇の信徒を名乗る者が現れ、我らに協力しろとしつこく迫ってくると言ってた。このままだと、まずいかもとも言ってたね。あたしは夢の話だろと相手にしなかった。いつもあの人はあたしを驚かそうと、詰まらないことばかり言ってたからね。ふふ」


 そこまで言うと、何かを思い出したのか上を見上げて微笑を浮かべた。

 それはいつもの妖艶な微笑ではなく、どこか優しげな微笑みだった。


「……あの日も……あの人が、俺にもしもの事があったらとか、詰まらないことを言うものだから、少し喧嘩をね。だからあの日は、寝所を別にしちまったのさ。そして次の日の朝、あの人は冷たくなっていた。あの日あたしが傍にいてやれたらあるいは……」


「姐さん、あっしらそんな話は聞いてませんぜ」


 サンジとタツゾウが顔を見合せ驚いていた。


「そらそうさ。あの時は大騒ぎになったからね。呪術師から神官まで呼んだけど、誰かが進入した形跡も無し、魔力の痕跡も無く病死と診断されたのに、ただでさえファミリーが混乱してる時に、夢に現れた闇の信徒にらされましたなんて馬鹿げた話を、言えるわけないだろう。あたしも半信半疑だったからね」


 サキさんは小島の祠をまた睨みつける。


「さっき上で話したあの光と闇の女神の話はねえ。あの人が夢で見た話なのさ。そしてあの人の夢の通り、あたしらの街の下にはこんなものがあった。それまで元気だったあの人が突然死んだのは……だから……」


「それなら尚更、応援を呼んでから」


「……あたしは奴隷市場に売られそうになった所を、あの人に救ってもらった。だから、あの人が残したもの……ファミリーを守るため肩肘張って必死に生きてきた。だけど、あの人という重しがとれて、ガストンみたいな連中が出てきたり、もう今のファミリーはあの人が生きてた頃とは大分違ってしまったのさ。あたしはもう疲れてしまったよ。そろそろあの人の所に逝っても良い頃合いさね…………ふっ、あんたからあの人と同じような匂いがするから、このサキさんともあろう人がつい、弱音をはいちまったよ」


 サキさんがどこか寂しそうな顔を見せる。


「そんな……サキさんはまだまだこれからも」


「ふんっ、もう決めた事だよ。だけどその前に……」


 サキさんがまた小島の祠を睨み付ける。


「何が出るか知らないけれど、ケジメだけはつけさせてもらうよ」


「姐さん、そういうことならあっしらも地獄の底までお供しやすぜ」


 サンジさんとタツゾウさんが、サキさんにニヤリと笑いかける。


「いいのかい。相手は闇の信徒……あるいは、その後ろにいる闇の女神が相手だよ」


「闇の女神が相手ならどこに逃げても一緒ですぜ」

「それに、あっしらもボスに拾ってもらわなければ、どこかで野垂れ死んでた身でさあ」


「姐さんひとりを行かしたら、あの世でボスに合わせる顔がありやせんぜ」


 サンジさんとタツゾウさんが、顔を綻ばせたまま、最後は声を揃えて言う。

 サキさんは二人を交互に睨むが、すぐに視線をそらした。


「……好きにおし」


 サキさんはそれだけ言うと、いつもの妖艶な笑顔を浮かべると、懐から長煙管を取り出す。

 そしてジロリと祠を眺め、プカリと一服すると、煙りを吐き出した。


「行くよ!」


 サキさん達三人が小島に向かって歩いて行く。

 俺は死をも覚悟した三人に、かける言葉も無かった。それも当然だ。平和な日本で暮らしてきた俺は、三人に圧倒されていたからだ。


「俺も行くよ!」


 カイルがまた走り出そうとする。これだから子供は……すぐに感化されてやがる。


「カイル待て! 上に知らせに行くんだ」


「俺は前にエイミと一緒に助けてもらった恩があるから、見捨てられないよ」


 いや、その時は俺も一緒にいたけど。


「ショウタは何も、武器すらもってないじゃないか。ショウタが来ても何の役にもたたないぜ。上に知らせに行くのはショウタが行けよ。ついでにエイミをよろしく頼む」


 そう言うと、カイルは俺の腕を振り切って駆け出して行った。

 頼むぜって、ガキのくせに何を格好つけてやがる。くそっ、俺だけ戻れるわけないだろう。

 ……仕方ない。俺も行こう。俺にはダイスのスキルがある。大丈夫だよな……ペロ、頼むぞ。ちゃんと仕事してくれよな。

 俺も後を追い掛け走り出した。


   ◆


 その頃、王都の城壁の外では、エルクがその身を騎乗した馬諸とも光輝かせて、闇の軍勢を切り裂いていた。

 エルクの持つ聖剣はその刀身を白光させ数倍の長さに伸ばすと、周りに群がる魔獣を薙ぎ払う。

 そのエルクの後ろには、聖光騎士団の騎乗した騎士達が続く。エルクを頂点にした三角形に形成した陣形は、紙の如く闇の軍勢を切り裂いて進む。

 しかし、無数に群がる魔獣は徐々に外側から騎士を削り、進むにつれその陣形は小さくなっていく。


「皆、目指す敵は後少しだ。死力を振り絞れ!」


「応!」


 エルクの叱咤に、騎士達が気力を奮い立たせる。彼らの目標、地の魔王ダークサイクロプスまで後もう少しだった。

 だが……。


「エルンスト様! 王都が!」


 騎士の叫び声に、エルクがチラリと振り返る。


 王都にもすでに、多数の魔獣が群がっていたが、光の障壁が輝き、辛うじて魔獣を押し返しているように見える。しかし、空から巨大な黒い影が舞い降りてくる。


「くっ、あれは空の魔王ダークドラゴン。まさか、ドワーフの国、山岳都市は滅びたのか……」


 がく然とするエルクや騎士達の目の前で、ダークドラゴンがブレスを吐き出す。

 しばらく光の障壁とブレスは拮抗していたが、パリンと光の障壁が砕け散った。

 とたんに王都の外壁に魔獣が群がる。空からも、ダークハルピュイアやガーゴイルなどといった空を舞う闇の軍勢が王都に降下して行く。

 そして障壁を壊したダークドラゴンは、悠々と上空を舞いながら後方からエルク達に迫ってくる。


 それに前方にも、ダークサイクロプスが「ゴァ!」と叫ぶと、四匹のアースドラゴンがエルク達の進路を阻むように現れた。


「くっ、我が刃では皆を救うことは叶わぬのか……いや、まだだ。我が命にかけて」


 エルクは「ハァ」と気合いを入れると、自分の生命力をも聖剣に流し込む。


「……ショウタさん、子供達を……皆を頼みましたよ」


 エルクはそう呟くと、更に巨大化した聖剣を掲げて、目の前のアースドラゴンに斬り込んだ。


   ◆


 俺達が小島に辿り着くと、その祠は思ってたものより小さな物だった。

 しかしその祠は、直径五メートルほどの小さな池の上に浮いている。そしてその池も湖の水と同じく、真っ黒でボコボコと時々泡立つ。

 確かに怪しい光景だが、それ以外に何もない。

 何とも、覚悟を決めてきたというのに……。


 後を追ってきた俺やカイルを見ても、サキさんは何も言わず、ただニヤリと笑っただけだった。


 そんな皆は、カイルもサンジさんやタツゾウさんも、辺りをキョロキョロと見渡している。


「サキさん、何もないですね。ちょっと拍子抜けしますよ」


「シッ、静かに……」


 サキさんは目を閉じ、長い耳をピクピクと動かしていた。


「どうやら囲まれたようだよ。サンジ、タツゾウ、戦いの用意をしな」


 へっ、囲まれたって、どういうこと?

 俺には何も見えないけど。


 サンジさんが背中に背負ってた大剣を抜き放ち、タツゾウさんが両手にショートソードを持ち構える。

 カイルもショートソードを両手で持ち構える。


 俺だけ何も持ってない。だって俺は剣とか持ったことないからな。今まで、包丁すらまともに扱ったことすらない。そんな俺が、にわか仕込みで剣を振ってもと思っていたが、さすがに今は心もとないな。

 今の俺にはダイスのスキルに頼るしかない。


「来るよ! 皆、気を付け……」


 サキさんの警告の声に被せるように、辺りに老人を思わせるしわがれた声が響き渡る。


「ほぅ、さすがに兎人は気配察知に優れているな」


 俺達を囲むように、地面から数十の黒い人影が浮かび上がってくる。


「ダークエルフ……あんた達が闇の信徒だね。亭主の仇、とらせてもらうよ」


 サキさんがダークエルフと呼んだ俺達を囲む人影は、確かにエルクさんと同じように整った顔立ちに耳も尖っていたが、その肌は墨を垂らしたように漆黒の色をしていた。それは、まるで闇そのものが、人を形作ってるように見える。

 そして全員が、クロスボーを手に持ち俺達に向け構えていた。


「亭主の仇? はっはは、もしかすると、あの異界人の身内か。あの男は協力せねば仲間を全て殺すと脅したが、逆に我らに敵対しようとしたのでな。始末するのに少々骨がおれたわい」


 いつの間にか祠の上に立っていたダークエルフの男が、しわがれた声で答えた。


「何だって!」


 サキさんが柳眉を逆立てて男を睨み付ける。


「お前達、心醜き者はちょうどよい所にきた。闇の女神カマラ様はまだ目覚めが浅い。お前達を贄として差し出せば、覚醒されることだろう」


 闇の女神はまだ目覚めていないのか。それなら王都の上空に現れたあれは何だったのだろう。どっちにしろ今がチャンスということなのか。


「闇の女神が目覚めていないというのはどういうこと……それにあんたは一体何者だい」


 サキさんが男を見据えたまま、眉を潜めて首を傾げる。


「ハッハハ、私は原初のエルフにして新しき世界の神となる男だ」


 原初のエルフって何だよ。最初に生まれたエルフってことか。またとんでもないのが出てきたな。


「あんた狂ってるのかい。人が神になれるわけないだろ」


「ふんっ、お前達凡人にはわからぬさ。私はもっとも神に近き男。女神の力さえ引き出す事ができる。いずれその女神の力も全て奪ってやる」


「まさか、今この世界を騒がす騒動もあんた仕組んだ事なのかい」


「ハッハハ、私には造作のないこと。少々闇の女神カマラ様の力を拝借したがな。お喋りもここまでだ。お前達は、闇の女神の力を引き出す贄とさせてもらう。殺れ!」


 男の合図と共に周囲からクロスボーの矢が飛んでくる。

 うへぇ、マジかよ。あっ危な……と、思ったが、サンジさんとタツゾウさんの剣が青く光り輝き矢を打ち払う。カイルもまた、その剣を白く輝かせて同じく矢を打ち払う。

 げっ、カイルまで活躍したら俺の立場が……ペロのやつまた居眠りしてんじゃないだろうな。


「ほう、神剣にその小僧はまだ幼いのに聖剣術をつかいよるか。だが、それもここまでだな」


 クロスボーを放つ闇の信徒とは別に、その後ろにいた連中が詠唱を始めると、頭上に禍々しい黒いボールが形成され、それがこちらに飛んでくる。


「皆、あたしの近くに」


 皆がサキさんの掛け声に、矢を払いのけながら側に集まる。俺はもともとサキさんの側にいたけどね。


「あたしの亭主は、特殊なスキルを持っていてね。そのスキルは神器作成。サンジやタツゾウが持つ剣もあの人の作品さ。そしてあたしが持つこの煙管も」


 そう言うと、煙管を吹かして煙りを吐き出す。

 その煙りが俺達を覆うように広がり、飛んできた黒いボールが煙りに触れると霧散する。


「ふんっ、あじなことを。だが、いずれにしても一緒。構わん、全員でかかれ」


 周囲にいた闇の信徒が抜刀して襲い掛かってくる。それを皆が迎え撃つ。たちまち辺りは乱戦となった。

 これって俺的にはまずい状況。


「ショウタは俺が守る」


 カイルが俺に斬りかかってきた闇の信徒の剣を、手に持つ剣で受け止める。

 子供に守られる俺が情けない。くそっ、ペロの野郎、いつも出てくんのが遅いんだよ。


「ハッハハ、なかなかやるようだが、所詮は多勢に無勢。いつまで耐えれるかな。ハッハハ」


「その余裕ぶった態度があんたの敗因さ。これがあたしの切り札」


 サキさんが懐から何かを取り出し、男に向ける。

 あれって……もしかして拳銃じゃないのか。田中さん何を作ってんの。


「こいつにはあの人がいなくなってから、毎日欠かさずあたしの祈りと念が込められてる。これでも喰らいな!」


 サキさんが銃の引き金を引くと、真っ赤な弾が渦を巻いて飛んでいく。

 あれっ、銃といっても鉛の弾を飛ばすのじゃないのかよ。さしずめ、魔法銃といったところか。


 男がその弾を避けようとするが、避けきれず右肩に直撃する。


「ぐはっ、馬鹿な」


 右肩に拳大の穴を開けられ、男がよろめくように祠の上から崩れ落ち池へと落下した。


「こいつでとどめだよ!」


 サキさんがもう一発銃を撃つ。


「ぐぅ、おのれぇ、小賢しい真似を」


 池から呻き声をあげ、男が右肩押さえて這い上がってくるが、二発目の弾が今度は左足を撃ち抜き、またもんどりうって倒れた。


「ぐがぁ、おのれ」


「ちっ、はずしたかい。しかし、油断したあんたの負けだよ。御大層な魔導師のようだけど、あんたがどんな魔法を使おうとも、詠唱する前にこいつで撃ち抜くさ」


「こんな馬鹿なことが……だが、まだだ。我が力を……」


 何だよ。意外と大したことないなこいつ。いや、サキさんが凄すぎるのか。

 周りにいた闇の信徒がサキさんに襲い掛かかろうとするが、サンジさんとタツゾウさんが逆に切り伏せ、近付けさせない。


 だが突然、男が苦悶の表情を浮かべて叫び声をあげた。よく見ると、池の黒い水が男に絡み付いている。

 男の叫び声に、争っていた闇の信徒やサキさん達と、カイルも動きを止める。皆が男に注目する中、池の水がゴボッと盛り上がると完全に男を飲み込んだ。


 しばらく池の水はボコボコと泡立っていたが、急に噴水のように吹き上がると、それは人の形となる。


《妾は闇の女神カマラ。妾の眠りを妨げるのは誰じゃ》


 げっ、今度は本物の闇の女神だよ。ペロさんいつになったら出てくるの。もうそろそろお願いしますよ。


《妾の神域をけがすのは、心醜き者共じゃな。報いを受けるがよい》


 前に突き出した闇の女神の両腕が、グングン伸びるとサキさんに迫ってくる。


「危ない姐さん!」


 サンジさんとタツゾウさんが、サキさんの前に飛び出す。そしてその腕に斬りつけるが、あっさり通過するだけ。


「サンジ! タツゾウ!」


 サキさんの叫びがむなしく響き、闇の女神の両腕がサンジさんとタツゾウさんの体を貫いた。

 えっ、サンジさんとタツゾウさんが……うそだろ。

 慌てたサキさんが銃でその腕を撃ち抜き、カイルも斬りつけるが相手は黒い水、ただ通過するだけ何の効果もない。


 サンジさんとタツゾウさんは持ち上げられ、無造作に投げ捨てられた。

 俺達は慌ててサンジさんとタツゾウさんに駆け寄る。


「ちっ、ドジったぜ。ごふっ」

「うぅ、姐さん、すいやせん。どうやらお先に逝くようで申し訳ねえ。最後まで姐さんを……」


「サンジ、タツゾウ! まだ早いよ! 最後まであたしのお供をするって言っただろ」


 そんなあ……サンジさん、タツゾウさん……。

 そして周囲見渡すと、湖からゴボゴボと音をたて幾人もの闇の女神が現れ、闇の信徒も関係なく襲い出す。


 無茶苦茶だよ。こんなのありかよ。

 そして遂に周囲の湖全体が盛り上がり、巨大な壁となると一気に崩れ小島へとなだれ込んで来る。


 これって、まさかこの黒い湖全体が闇の女神なのか……くそっ、ペロのやつ何故出てこない。


「ペロー!」


「ほいきた。呼んだか相棒」


 気付くといつの間にか、周囲はセピア色に変わり時を止めていた。闇の女神さえも。


「遅い! どうするんだよこれ。サンジさんもタツゾウさんも……お前がもっと早く出てくれば……」


 今度ばかりは俺も本気で怒る。


「まぁ、そういうなよ相棒。まだ、あの二人は息があるぞ」


「えっ、そうなのか。まだサンジさんとタツゾウさんを、助けることが出来るのか」


 少しほっとして周りを眺めるが、黒い水が高波となって押し寄せる寸前で止まってる。

 ふーむ、よく考えてみると、闇の女神さえ止めてしまえるこいつが最強じゃねえの。


「なあペロ、お前の力でこの世界を救えないのか」


「そいつはできない相談だな。そもそもこの力は相棒の力だからな」


「えっ、そうなのか」


「世界と世界の狭間に流れるエネルギーを、相棒を介してこの世界の事象を書き換えるのに使ってるのさ。その際、どうしても制限がかかる。それがダイスだ」


 ペロが得意気な顔で話している。ということは、神をも越える力を操る俺が最強なのか。といっても、自分勝手にならない力だと意味ないけどな。

 それにしても今回は、ペロが悠長にしているな。いつもはサイコロを早く振れ振れ煩いのに。


「おい、どうした。早くサイコロを出せよ」


 ペロが今度は少し困惑した顔をした。


「今回は出来ればダイスのスキルを使わずに、相棒には解決してもらいたかったな」


「何だよそれ。それで出てくるのが遅かったのかよ」


「まあな……しかし出て来たからには、もう相棒にはサイコロを振るしかないからな」


 どっちみち、俺にはサイコロを振るしか助かる道はない。周りを眺めて状況を確かめていると、ペロがサイコロを差し出してきた。


「ほらよ、これが今回のサイコロだ」


「えっ、これって……」


 ペロが差し出したサイコロは、全部で五つあった。


「まさか、今回は五つのサイコロを振れってことなのか」


「そういうこと。いつもは相棒の運命に関することだけだが、今回はこの世界の運命も関わってくる。だからそれだけ、かかる制限も大きいってことだ」


 マジかよ。しかも、どれだけのサイコロの目があるんだよ。


「そしてこれが、今回のサイコロの目、運命の賽の目…………」


1のゾロ目 神をも越えた奇跡があなたに訪れ全てがハッピーエンドに。

1のゾロ目以外 ジ・エンド……全ての終り。


「……何これ……どういうことだよ。1のゾロ目って……まさか、五つのサイコロ全てで1を出せってことかよ。それ以外は駄目ってことなのか。そんなの無理に決まってるだろ」


「だから、おいらも出てくるのが嫌だったのさ。今回ばかりは、相棒には万にひとつも勝ち目はない」


 あっ、また嫌な言い方をしやがる。

 これまでの人生、万にひとつも負けがないと言われると、必ず負けを引いてきた。

 今回は、更に悪い。

 万にひとつも勝ち目がない……んっ、いつもと逆か。それなら万にひとつを引ける……わけないな。


「おい、ペロ。これだと振れるわけないだろ。なんとかしろよ」


「なんとかしてやりたいが、こればっかりはどうしようもない。それより早く振らないと、ほら周りを見てみろよ。これ以上はもう時間がない」


 周りを見ると、周囲の景色が微妙に振動しだしている。その振動が徐々に大きくなっていく。そう言えば振らないと、存在自体を抹消されるとか言ってたな。

 振っても終り。振らなくても終り。完全に詰んだな。

 はぁ、やっぱり俺は異世界に来ても……。


「まずいぞ。相棒、早く振れ!」


 ペロがそう言って俺を押した。その拍子に俺の手からサイコロがこぼれ落ちる。


「あっ、馬鹿!」


 こぼれ落ちたサイコロがコロコロと転がる。


「これは違う、まだ俺は振ってない。そうだろう」


「……」


 マジかよ。こんなので終りなのかよ。

 呆然と見つめていると、ひとつめのサイコロが止まる。それは1の目だった。


「おっ!」


 そして、二つめも1の目に。


「おおっ!」


 何と、みっつめとよっつめも1の目に止まる。


「おおおっ! まさか!」


 そして最後のサイコロが転がり2から1へと。

 これはまさか万にひとつを引くのか……。


 だが、無情にもサイコロは小石にぶつかると、2の目に戻っていく。


 あぁぁぁ! マジですか。なぜー!

 俺は頭を抱えて絶叫すると天を仰ぐ。


「仕方ない。今回だけだぞおいらが手を貸すのは。それじゃあまたな」


 えっ、なに。

 サイコロに視線を戻すと、何故か最後のサイコロも1の目に止まっていた。それと同時に、煙りと共にペロとサイコロが消え去り、周囲の時がまた動き出す。


 途端に黒い水が津波となって押し寄せてくる。


「うほっ!」


 その迫力に思わず驚きの声がこぼれたその時、小島の中央にあった祠からまばゆい光が溢れ出してくる。

 その光が黒い水を押し返し、人の形となっていく。


《アマラ、また妾の邪魔をするのかえ》


《当たり前です。カマラあなたはまた人を滅ぼすつもりなのですか》


 小島の中央にある小池の中で、二人の女神が向かい合う。

 片方は黒い翼を背負う闇の女神カマラ。もう片方は白い翼を背負う光の女神アマラ。


 皆はあのサキさんまでが、その圧倒的な存在感と、まるで神殿に描かれる絵のような光景に、言葉を無くし見入っている。


《アマラよ、見よ。また心醜き者が地に溢れ世界をけがそうとしているではないか》


《そんなことはありません。彼ら人もまた私達が産み出した子供です。私達が世界に何かをもたらす時代は終わったのです。後は彼らこの地に産まれた者に世界を任せ、私達は見守れば良いのです》


《何を悠長なことを。確かに人も我らが産み出した。だからこそ許せぬ。よく見よ人の世を、自分本位で他者を妬みけがおとしめようと、欲にまみれた者ばかりじゃ。このままではこの美しき世界も穢されてしまう》


《そのようなことはありません。カマラあなたは闇の女神、だから人の邪の面がよく分かるのでしょう。ですが、私は光の女神、人の中にある聖なる面が分かるのです。人の中にある清らかな心を感じます》


《妾には信じられぬ。やはりアマラの考えとは平行線じゃな。しかし此度は妾は引かぬ。人を根絶やしにして世界を浄化するのじゃ》


 闇の女神が両手を広げると、その体から濃い闇が漂いだす。


《させません。今度は私も全力で阻止します》


 今度は光の女神から強烈な光が放たれると、光と闇が池の上空でせめぎ合う。

 しかし、しばらくすると、闇を押し込めようとする光が優勢になってきた。


《ぐぬぅ、これはアマラだけの力だけではないな。この世界の外から妾を封印しようと力が流れてくる。誰だ……お前か!》


 闇の女神の右腕が俺に伸びてくる。

 サイコロの目が1のゾロ目だったので、安心して成り行きを見守っていた俺はあっさりと捕まってしまった。


「ショウタ!」


 カイルやサキさんが焦った声で叫んでいるが、これって大丈夫だよな。


《お前はこの世界の者ではないな。何者じゃ》


「何者と言われても……ただの人ですが」


 かなりやばい気がするのですが、ペロさんホントに大丈夫ですよね。


《なに! お前も心醜き者なのか!》


 これは結構まずい状況なような……神を越えた奇跡とやらはどこに。


《カマラ、その手を離してあげなさい》


 俺の周りでも光と闇がせめぎ合う。


《くぅ、このままでは封印されてしまう。こうなれば……》


 辺りの闇が更に濃密になっていく。今はもう呼吸をするのも苦しい。


《……これは神力の暴走? カマラ止めなさい。あなたは世界を消滅させる気ですか》


《心醜き者共に世界を穢されるぐらいなら、いっそ消滅させてまた新たに造ればよいのじゃ》


《馬鹿なことを……私達も無事ではすみませんよ》


 もう闇の女神と光の女神は、その姿を崩し光と闇が絡み合い奔流となり渦巻いている。

 世界の消滅って、これマジでやばくないか。


「俺達人は……」


 苦しい呼吸の中、力を振り絞って声をだす。


《なんじゃ、心醜き者よ》


「……善き行いをしながら悪しき行いもなす。善なる心と悪しき心の二つを同時にもつ中道を歩む者……常に善と悪の間を揺れ動く。しかし、いつかは善と悪の二つを昇華させ気高き者となる!」


 俺は目一杯、力のかぎり叫んだ。


《……信用……できぬ。それにもう遅い》


 その時、全てが……世界が白光する。周りの全てが目の前で絡み合う光と闇も、細かな粒子へと変わっていく。そして俺も、手足の先から光の粒子へと変わり霧散していく。


 へっ、何これ……は、はなしが違うじゃないか。神を越えた奇跡はどうなったんだよ。


「おい、ペロ!」


「すまねえ相棒」


 俺の叫びにペロが耳元で答えた。

 おっ、いつのまに。

 俺の肩口にいつの間にか現れたペロが立っていた。


「やっぱり、ズルをしたぶん、世界の事象を書き換えるには力が足りなかったようだぜ。もう時間がない。責任の半分はおいらにもある。あまり期待は出来ないが、おいらができるだけのことはしてみる」


 そう言うと、半分以上粒子へと変わっている光と闇がもっとも絡み合う場所へ、ペロが飛んでいく。

 ペロがそこに飛び込むと、更に激しく世界が白光した。


「おいペロ……」


 うそだろ。これからどうなるんだよ……。

 そして俺は、全てが細かな光の粒子となり、霧散して消滅した。


    ◆


 世界の全てが、白光して細かな粒子へと変わっていく。それは、魔王と戦うエルク達にもおとずれる。


 エルク達は四匹の地竜は倒したが、率いてきた騎士達の大半は倒れた。


 しかしまだ地の魔王ダークサイクロプスと、空の魔王ダークドラゴンの2体は顕在だった。そして、エルクに前後から迫る。


「ここで負けるわけにはいかない!」


 エルクが光で巨大化した聖剣を、目の前にいるダークサイクロプスに叩きつける。肩口から入った聖剣が斜めにダークサイクロプスを切り裂く。


 だが、背後から迫っていたダークドラゴンのかぎ爪が、エルクの背中を切り裂く。


「がはっ、まだまだ!」


 地に降り立ったダークドラゴンが、その巨大な口腔を大きく開けブレスを吐き出そうとする。


 それに気付いたエルクが傷付いた体にむち打ち、聖剣をその口腔に突き入れようとダークドラゴンに駆け寄る。

 しかし、驚異の回復力を見せるダークサイクロプスが、手に持つ金棒でエルクを叩き潰そうとする。


「くっ、もはやこれまでか……私の剣では世界は救えぬのか。だが、ただでは死なぬ。どちらかだけでも道連れに……」


 エルクが覚悟を決めた時、それは起こった。全てが白光して、光の粒子へと変わる。

 ダークサイクロプスもダークドラゴンも、周囲でただ戦う騎士達、魔獣も全て光の粒子となり消えていく。


「な、何が……」


 唖然とするエルクの持つ聖剣も霧散して消え、エルク自身も光の粒子となり消え去った。



 そして、神授所でも空から押し寄せる魔獣に襲われ、大混乱になっていた。


「ケイミ姉ちゃん危ない!」


 ケイミを庇おうとしたガンタが、空から舞い降りてきたダークハルピュイアに、首筋を切り裂かれて倒れた。そのハルピュイアを田中ファミリーの男達が、手に持つ得物で倒す。


 慌ててケイミがガンタに駆け寄ると、弱々しい微笑みを浮かべる。


「へへっ、ケイミ姉ちゃんに何かあると、ショウタやカイルに怒られるからな」


「ガンタちゃん……」


 周囲では、男達が抵抗しているが、その倍以上の魔獣が襲い掛かり次々と傷付き倒れていた。


 ケイミが、ガンタや近くにいたエミリを抱き締め、祈りを捧げる。


「光の女神様、どうか私達をお救いください」


 しかしその祈りもむなしく、頭上から魔獣が襲いかかる。


「あぁぁ、先生、ショウタさん」


 ケイミがぎゅっと目をつぶった時、全てが白光して光の粒子と変わっていく。

 神授所も魔獣も、逃げ惑う人々も、子供達やケイミも全てが光の粒子となり消えていく。


 それは王都の外壁上で戦う兵士や傭兵、押し寄せる魔獣も全て光の粒子と変える。

 ついには王都もそれ以外のまだ残っていた都市まで、いやそれどころか樹木や草花、大地や大空までも、ありとあらゆる物が光の粒子へと変わった。やがて、世界そのものが……。


 その日、確かにバァンゲイア世界は消滅した。




 ――そして、バァンゲイア世界は再構築される――


     ◆


「おい、また手が止まってるぞ。ぼぉとして、ほんとにショウタは駄目な大人だな。今日は祭りに行くんだから、ちゃっちゃと早く終らせようぜ」


 そうか今日は光神祭だったな。それで、チビッ子達は朝から張りきっていたのか。

 周りでは何が嬉しいのか、チビッ子達が笑いながら畑の草むしりをしている。


 そうなのだ。あの日、確かにこの世界は消滅の危機を迎えていたはずだった。しかし、気付くと何故か、光神祭の前に戻っていた。俺は夢を見ていたのかといぶかしむが、夢ではなかった。何故なら……。


「祭りとはなんじゃ」


 俺の首に跨がるまだ四つか五つぐらいに見える幼女が、俺の髪の毛をグイグイと引っ張っている。あんまり引っ張っるなよな。抜けて若ハゲになったらどうすんだよ。

 その幼女は黒髪に黒い瞳に真っ黒な衣装を纏い、どこか偉そうにしている。


 そしてもうひとり。

「何故私が……」


 俺の足下で、こちらも同じく四つか五つに見えるうつろな目をした幼女が、体育座りをして嘆いていた。

 この女の子は白銀の髪に真っ白な衣装を纏っている。

 彼女らの名前はアマラとカマラ。そう、何故か二人の女神さんは、人の幼女へと転生していた。しかも、あの時一緒にいた為なのか、俺達の魂は少し繋がっていたりする。


「祭りってのは、光の女神を称える光神祭のことだよ」


「なんじゃと……それでは妾を、妾を称える闇神祭もあるのじゃな」


「あるわけないだろ。それに、お前はもう闇の女神ではなく、今は人の子だろ」


 人を滅ぼそうとしてたくせに、何を考えてんだか。


「ぬぬぬ……」


 カマラがまたグイグイ俺の髪を引っ張る。だからやめろってば、抜けたらどうすんだよ。

 俺達がワイワイ騒いでいると、カイルがまた注意してくる。


「おいショータ、だからサボるなよ」


 まるで小姑のように煩いやつだな、ったく。しかし、元気で何よりだと思う。あの日のことは、二人の女神さん……元女神さんと俺しか覚えていない。


「だいたい、その子らはどっから拾って来たんだよ。まさか……誘拐。ショータ、まさかと思うけど、そんな趣味が……」


 カイルがとんでもないことを言い出すと、チビッ子達まで「変態、変態、ショータの変態」と囃し立てる。

 あっ、馬鹿! お前らなんてこと言い出すんだよ。他人が聞いたら変な勘違いするだろうが。


「また、あなた達はショータさんをからかって。大人をからかっちゃ駄目でしょ」


 うっ、この声はまさかのケイミさん。背後を振り返ると、ケイミさんがかご一杯の花束を抱えて歩いてくる。


「だってショータが、変な趣味だから」


 カイルの馬鹿! 何てことを。

 ケイミさんが、首を傾げて俺を見て、肩車状態のアマラや足下にいるカマラを眉をひそめて見る。


「ショータさん……まさかと思いますけど……」


「いやだなあ、そんなわけないじゃないですか……」


 俺の言葉に被せるように、カマラがぎゅっと俺の頭にしがみつき答える。


「妾達とショータは一心同体なのじゃ」


「なっ……ショータさん不潔です!」


 ケイミさんのグーパンが俺の鼻面に炸裂する。


「ぐはっ、まさかのこのパターンですか」


 ケイミさんが恥ずかしそうに、神授所の入口に駆け出していく。そこには、にこやかに微笑むエルクさんが立っていた。


 転んだ拍子に空を見上げると、雲ひとつない青空が広がっている。

 その青空を見ながら考える。あの後どうなったのかよくわからないというのが、本当のところだ。あれ以来ペロとも会っていない。

 しかし、俺のスキルにはダイスがまだある。多分あいつも無事だったと思う。あの神授所の女神像の下にあった、地下へと降りる階段は無くなっていた。

 ここは過去の世界なのか、或いはまた別の似た世界に転移したのかよくわからない。

 だが、穏やかなゆったりとした時間を過ごすと、平和なのが一番だとあらためて思う。

 人は確かに心醜き者なのかも知れない。だけど、清らかな心も同時に持ってると信じたい。そしていつかは、気高き者へと……。


「どうだ、人の世もそんなに悪くないだろ」


 安穏とした時間に幸せを噛みしめ、カマラに尋ねる。

 カマラは転んだ拍子にどこかをぶつけたのか、少し涙目で「危ないではないか」と、ボコスカと俺の頭を叩いていたが、問い掛けを聞くと動きを止め真面目な顔になる。


「……そうじゃな……しかし、まだ信用したわけではない。……おぬしが言った気高き者……それを確かめてからでも悪くなかろう」


 そう言うと、またボコスカと俺の頭を叩きだした。

 横を見ると、人の幼女に転生したのが、よほどショックだったのか、未だに放心状態でぐずついてるアマラが座っている。

 まぁ、アマラは光の女神だったから、放っていても大丈夫だろう。

 そうだ、サキさんにも会いに行かないとな。


 鼻血をダラダラ流しながら、雲ひとつない青空を眺めてそんなことを考えていた。



   ジ・エンド


少し中途半端な文字数になりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。


これよりは『景久、異世界に推して参る』に集中して投稿します。


異世界に召喚された侍が、恋に戦いにと活躍します。

そちらもよろしければお願いいたします。


後、活動報告もちらほらやってますので、そちらも合わせてお願いします。


それではまた。


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