れんこん少女
あるところに天まで続くれんこんの塔がありました。
そこにはいつも退屈しているれんこん女子が一人住んでいました。
彼女はれんこんが大好きでその塔から一歩も出ようとはしない変わり者でした。
その日はとても天気の良い日。
散歩するにはなかなかの天気だったのですが、いつも通りそんな気がおこることもなく、とてつもなく高い塔の上から双眼鏡でなにか面白いものはないかと辺りを観察していたところ、豆粒ほどの男が一人。
「何かしら・・・・」
塔の上から外の様子を観察することが日課であった彼女ですが、こんなことははじめてでした。そう、れんこんの塔に住みついて以来、はじめてのお客様かもしれないのです。
とにかくお顔を見てみたい、そう思った彼女はさっきまで少しずれていたピントをあわせ、ぼやけることのないレンズ越しに彼を見つめました。
一度も会ったことはないはずなのに私は彼を知っている・・・・。
そう、なんと、彼は彼女の夢の中に何度も出てくる男性にそっくりだったのです。
「ここまで登ってきてください!」
いきなりこんなことを言われても、普通は困惑するだろうし、下手をすれば頭が変なのだと思われ、素通りされてもおかしくはない、と考えればすぐわかるはずなのにそう考える間もなく気づいたらもう叫んでいました。
案の定怪訝な顔をする男。
ここで諦めてなるものか、ともう一声。
「れんこんの煮物お出ししますから!どうかこちらにいらっしゃってください!あなた、煮物が好きですよね?!」
それを聞いた彼はとてもうれしそうににっこりと笑っていました。
さっきまで訝しんでいたのが嘘のよう。
けれども、この塔をどうやってのぼるのか、という問題があります。
だって、ここには「階段」というものがないのですもの。
どうしたものか・・・ぼーっと考えていた彼女がふと、男のいた下を見るとそこに彼がいないのです!
どうしましょう!
これはもしや・・・・
彼女が立っていた透明の床を見てみると、男が手足をつっぱってれんこんの塔を必死にのぼってきているのが見えました。
ここまでしてくれる彼に涙がでそうになるれんこん女子。
それならば私は、彼がここにたどり着くまでにおいしいれんこんの煮物をつくろう、彼女はそう決心しました。
甘辛い香りが漂う中ピンポーンとインターホンの音が鳴り響きます。
なんていいタイミングなのでしょうか。
スライド式の床を三分の一ほど開けて、彼を迎え入れました。
「れんこんの煮物が完成しましたよ!いっしょに食べましょうね。」
嬉しそうに微笑む彼の手をひっぱって炬燵まで連れていき、いっしょに煮物をほおばりました。
毎日食べているれんこんなのに、その日食べたのは特別おいしかったようです。