人類最低決戦
西暦2099年。
食文化は崩壊した。
A級料理は富豪専用。
B級グルメは庶民の憧れ。
C級は普通。
D級はジャンク。
E級は“ギリ食える”。
そして――
F級。
それは法律スレスレ、倫理ギリギリ、栄養バランス完全崩壊の“最底辺食”だった。
札幌第七廃墟区。
薄暗い路地裏。
少年・腐野フミヤは、自販機の下に落ちていた十円を拾っていた。
「……今日の夕飯、豪華にするか」
向かった先は、怪しく光る屋台。
看板にはこう書かれている。
『賞味期限ファイトクラブ』
「いらっしゃい」
店主が差し出したのは、色の怪しい焼きそばパン。
「昨日までなら安全だった」
「怖ぇよ」
「安心しろ。今日はまだ匂いが勝ってる」
「何と戦ってんだよ」
その時だった。
ズガァン!!
店の壁が吹き飛ぶ。
「見つけたぞォ!!
F級適合者ァ!!」
現れたのは巨大な男。
脂まみれのエプロン。
右手にマーガリン。
左手にチューブにんにく。
「俺は“生ゴミの魔術師”
ヘドロ田ヘド彦!!」
「名前終わってるだろ!!」
男は笑う。
「ククク……貴様、知らねぇな?」
「何を」
「F級グルメバトルの存在をよォ!!」
地面が開く。
フミヤはそのまま地下へ落下した。
そこは巨大闘技場だった。
空気が悪い。
観客席では人々が、
ふやけたポテト
湿気ったせんべい
炭酸の抜けたコーラ
を食いながら歓声を上げている。
「始まるぞ!!」
「今日の新人、生きて帰れるかな!?」
「胃薬足りねぇ!!」
リング中央。
司会者が叫ぶ。
「本日のバトルはァ!!
《限界保存食デスマッチ》!!」
「嫌な予感しかしねぇ」
「勝利条件は単純!!
より“うまそうに見えてギリ食えるもの”を作り相手の精神を破壊しろ!!」
「ルール考えた奴バカだろ!!」
ヘド彦が不気味に笑う。
「行くぜェ……」
取り出したのは、
三日前のフライドポテト
マヨネーズ
砂糖
魚肉ソーセージ
「混ぜるな!!」
グチャ……グチャ……
完成した料理。
《終末ポテトサラダ》
観客がざわつく。
「出た……!」
「胃が拒絶してる……!」
「でも少し気になる!!」
ヘド彦が叫ぶ。
「食えェ!!」
フミヤは恐る恐る口に入れた。
「……!!」
マズい。
だが――
「なんだこれ……」
妙に懐かしい。
子供の頃、母親が金欠の日に作ってくれた味に少し似ていた。
「F級とは!!
人間の“生存本能”そのものなんだよォ!!」
フミヤは震える。
「だったら……」
彼は静かにコンビニ袋を取り出した。
中には、
砕けたうまい棒
ぬるい焼き鳥缶
半分湿気たのり塩ポテチ
「まさか……!」
観客が息を呑む。
フミヤはそれを白米へぶち込んだ。
さらに――
ポテチを追いがけ。
「完成だ」
「何ィ!!」
「《貧乏人類最終兵器・ポテチ焼き鳥丼》」
「名前が終わってるーー!!」
一口。
ヘド彦の顔が固まる。
「……う、うまい……」
甘い。
しょっぱい。
ジャンク。
全部雑。
なのに止まらない。
「バカな……!!
F級なのに幸福感があるだと!?」
観客が熱狂する。
「うおおおお!!」
「炭水化物!!」
「塩分!!」
「油!!」
「人類!!」
ヘド彦が膝をつく。
「俺の……負けだ……」
審判が叫ぶ。
「勝者ァ!!
腐野フミヤァァァ!!!」
歓声。
怒号。
飛び交う湿気ったポップコーン。
だがその時。
VIP席から、静かな拍手が響いた。
パチ……パチ……。
黒いローブの女。
彼女はカップ麺をすすりながら微笑む。
「面白いわね」
「誰だ」
「私はF級四天王――
“賞味期限の支配者”
腐敗院サチ子」
彼女の背後には、無数のコンビニ弁当。
すべて賞味期限切れだった。
「あなたには“真のF級”を見せてあげる」
その瞬間。
会場の照明が赤く染まった。
地下最悪の料理人たちが、動き始める。




