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『異世界パッチノート:社畜エンジニアのバグ取り無双 ~管理権限(ルート)を奪取して、絶望の仕様を書き換える~』  作者: たま


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第十話 機能拡張(アップデート)と、銀盤のピクニック

数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。

拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。

第十話 機能拡張アップデートと、銀盤のピクニック


アイリスが仲間に加わってから、僕たちの旅は「過酷なサバイバル」から「前代未聞の快適な学術調査」へと変貌を遂げていた。

『アイシクル・エンド』の極寒の凍土を歩いているはずなのに、僕たちの周囲だけは常に、アイリスの『環境制御関数』によって、春の陽気のような暖かさと、爽やかな風が保たれている。

「……信じられない。アイリス、アンタ本当に人形なの? 魔法使いのシニアクラスでも、こんな広範囲の結界を維持するのは無理よ」

リィンが、再構築した毛皮のコートを脱ぎ捨て、薄手のシャツ一枚になりながら、アイリスに感嘆の声を上げる。

アイリスは、相変わらず無表情のまま、淡々と事実を述べた。

「……肯定。……私は管理用端末・三号機です。……魔法ではなく、世界の基本定数パラメータを直接操作しています。……消費魔力:極小。……効率:98%。……ハーフエルフの個体リィンの驚愕反応:想定内」

「……なによ、その『想定内』って! 生意気な人形ね、もう!」

リィンが頬を膨らませて怒る。

僕は、そんな二人のやり取りを見ながら、グリモア・リンクの画面を操作していた。

知力「28」になった僕の脳内には、アイリスから共有された世界の「詳細地図マップデータ」が展開されている。

【現在の位置:氷結の終焉・第三エリア】

【ナビゲーション:ソースツリーまで、あと3800キロメートル】

【周囲の状況:致命的なバグ、検知されず】

「……よし。アイリス、この先に『温泉』の記述があるんだけど、本当?」

「……肯定。……座標:北東5キロ地点。……古代の火山活動によって形成された、地熱による温水プールが存在します。……成分:硫黄、ナトリウム、マナの残滓。……効能:疲労回復、魔力充。……リィンの肌の調子の改善」

「温泉!? 本当に!? 行くわよ、ショウタ! 今すぐ!」

リィンが僕の腕を掴んで引っ張る。

温泉。前の世界では、仕事に疲れた週末によく行っていた。この異世界で、まさか温泉に入れるなんて。

十五歳の僕の体も、二十五歳の僕の魂も、温泉という言葉に激しく反応していた。


氷上の温泉と、アイリスの「おもてなし」


アイリスのナビゲーションに従い、僕たちは一面の銀世界の中に、ポカリと空いた「緑のオアシス」に辿り着いた。

そこには、湯気を立てる美しいエメラルドグリーンの湖があった。周囲には、地熱によって育まれた奇妙な熱帯植物が繁茂している。

「……すごい。本当に温泉だ」

「……肯定。……私は事前に、このエリアの『水質改善関数(Water_Cleaner)』を実行しました。……雑菌、毒素、魔物の排泄物を全て消去済み。……快適度:100%」

アイリスが指をパチンと鳴らすと、湖のほとりに、木製の脱衣所と、休憩用の椅子が瞬時に『再構築』された。

二十五歳の僕は、この圧倒的な「おもてなしのアルゴリズム」に、深く感動していた。

「……ショウタ、アンタは向こうに行っててね! 私が先に入るから!」

リィンが真っ赤になりながら、僕を追い払う。

僕は苦笑いしながら、アイリスと一緒に、少し離れた岩陰へと移動した。

「……ショウタ。……リィンの心拍数、上昇。……体温、上昇。……これは、『恥じらい』という感情回路の作動ですか?」

「……まあ、そんなところかな。アイリス、君には『恥ずかしい』っていう感覚、ないの?」

「……否定。……私には、物理的な肉体としての『羞恥心』はプログラムされていません。……ただし、ショウタがそれを望むなら、感情プロセスの優先順位を変更します」

「……いや、そのままでいいよ。君は君のままで」

僕はアイリスの隣に座り、お湯に浸かるリィンの楽しげな歌声を聞きながら、束の間の休息を楽しんだ。

エンジニアとしての僕は、常にシステムの「不具合」ばかりを見てきた。けれど、アイリスのような「完璧なシステム」が生み出す、この満たされた時間。

これこそが、僕がこの世界で本当に作りたかった「価値」なのかもしれない。


氷上のピクニックと、アイリスの「調理機能」


温泉で疲れを癒した後、僕たちはアイリスが用意した休憩所で、昼食を摂ることにした。

アイリスは、背中の翼をガシャガシャと音を立てて展開し、それを「多機能調理器マルチ・クッカー」へと変形させた。

「……ショウタ。……昨日のホーンラビットの肉、残っていますね。……私の『分子調理関数(Molecular_Cooking)』で、最高の一品に仕上げます」

アイリスが、翼の先端から不可視のレーザーを放ち、肉の分子構造を解析・再構成し始めた。

ただ焼くのではない。肉の繊維を旨味が最大化される温度で加熱し、同時に周囲の空気から抽出し、再構築した「香辛料」と「ソース」を浸透させる。

【アイテム:アイリス特製・魔獣のロースト】

品質:幻想級アーティファクト

効果:全ステータス一時ブースト、幸福感の付与

「……はい、どうぞ」

アイリスが差し出した皿には、前の世界の一流レストランでも見たことがないような、美しい料理が盛られていた。

リィンがお湯から上がり、濡れた銀髪を拭きながら戻ってきた。

「……何これ、いい匂い! 温泉の後に、こんなご馳走なんて、死んでもいいわ!」

「……否定。……リィンの死亡は、チームの戦力低下に直結します。……生存を推奨します。……あむっ」

アイリスは無表情のまま、自分で作った料理を一口食べた。

「……美味しい、です。……これが、『味覚』という情報のフィードバックですか」

僕も一口、肉を頬張った。

口の中で肉がとろけ、複雑なスパイスの香りが鼻を突き抜ける。

美味い。泣けるほどに美味い。

前の世界のコンビニ弁当とは比較にならない、本当の「食事」の喜び。

「……ショウタ、アンタの仲間、本当にすごいわね。……私、もうアンタたちなしでは生きていけないかも」

リィンがエールを飲みながら、幸せそうに笑う。

温泉、ご馳走、そして信頼できる仲間。

何とも楽しい、氷上のピクニック。

二十五歳の魂を持つ十五歳の少年は、この瞬間、この世界に転移してきて本当によかった、と心から思った。


アイリスの機能拡張アップデート


魔力貯蔵バッテリー

楽しい時間は過ぎ、僕たちは再び北へと歩き始めた。

温泉で魔力を充填したおかげで、僕のMPゲージは「30/30」の満タン状態だ。

アイリスが、僕の横を歩きながら、ボソリと呟いた。

「……ショウタ。……私の『魔力貯蔵関数(Mana_Battery)』に、不具合を検知しました。……所有者の魔力を、効率的に貯蔵・運用する回路が、劣化しています」

「……君のバッテリーが? ……鑑定、精密解析」

僕はアイリスの胸元の紋章に手をかざし、内部コードをスキャンした。

確かに、魔力を一時的にプールする『コンデンサ』の記述が、千年の経年劣化でボロボロになっていた。

object "Mana_Battery" {

capacity: 1000;

current_charge: 50;

efficiency: 0.12; // 劣化

}

「……効率12%か。これじゃあ、僕の魔力をいくら流し込んでも、ほとんどが熱になって逃げちゃうな」

「……肯定。……ショウタの『万物再構築』で、この回路を修復・拡張することは可能ですか?」

アイリスが、期待を込めた(と、僕には感じられた)瞳で僕を見つめる。

二十五歳のエンジニアとしての血が騒ぐ。システムのボトルネックを見つけ、それを解消する作業。これこそが、僕の本領発揮だ。

「……やってみるよ。アイリス、君の回路を……『アップデート』してやる」

僕はアイリスの胸元の紋章に、左手首のグリモア・リンクを接続した。

知力「28」の脳内には、アイリスの全回路図が展開される。

僕は、劣化したバッテリー回路を、より高密度で、より伝導率の高い「古代の超魔導合金」へと書き換えるイメージを持った。

(……記述コードを、再構築!)

efficiency = 0.99;

capacity = 10000; // 十倍に拡張

add_attribute: "Mana_Resonance"; // ショウタの魔力との共鳴

【警告:高負荷なコード改竄。一時的な演算領域の不足を検知】

「ぐっ……ああぁ!!」

脳を直接スクラップにされるような衝撃。

視界に火花が散り、鼻から一筋の血が垂れる。

だが、十五歳の若い脳が、二十五歳のエンジニアとしての「意志」を支え、崩壊を防いだ。

システムのアップデートは、常にリスクを伴う。だが、それを乗り越えた先に、真の力が宿る。

「ショウタ! 大丈夫!? もういいわ、やめて!」

「……いや、あと少し。……コンパイル……完了ッ!!」

カチリ。

アイリスの胸元の紋章が、眩い青い光を放った。

劣化したバッテリー回路が、完璧な形で修復され、さらに十倍の容量を持つ「超バッテリー」へと進化を遂げたのだ。

【アイテム:超魔導バッテリー(アイリス・コア)】

品質:幻想級アーティファクト

詳細:ショウタのアップデートにより、魔力貯蔵容量が十倍に。魔力伝導率99%。

「……アップデート、完了。……ショウタの魔力、アイリスへの貯蔵を開始します」

アイリスの瞳が、青く輝く。

僕の魔力ゲージが、急速に「0」へと流れ落ちる。

だが、それは浪費ではない。アイリスという、最強の「外部バッテリー」へと、僕の力がプールされていくのだ。

「……全回路、正常動作。……ショウタ。……感謝します。……これが、『パワーアップ』という情報のフィードバックですか」

アイリスは立ち上がり、背中の翼を力強く展開した。

その翼から、これまでにないほど強力で、温かい風が吹き抜け、周囲の雪を瞬時に溶かし去った。

「……すごい。一瞬で環境を書き換えたのか」

「……肯定。……アップデートにより、私の『環境制御関数』の出力が三倍に。……快適度:120%」


チーム「デバッガーズ」の楽しい未来


アイリスのアップデートが成功し、僕たちの旅はさらに快適で、そして楽しいものになった。

アイリスは、僕の魔力を貯蔵し、それを状況に応じて最適に運用してくれる。

「魔力不足」という、デバッガーにとっての致命的なボトルネックが解消されたのだ。

「……ショウタ。……前方10キロ地点に、致命的な『物理バグ』を検知。……空間が圧縮され、ブラックホール化しています。……回避を推奨します」

「……いや、アイリス。今の僕たちなら……あれを『デバッグ』できるんじゃない?」

僕は、超魔導バッテリーとなったアイリスを見つめた。

潤沢な魔力。アイリスの解析能力。そして僕の再構築能力。

これこそが、最高のデバッグ・チームだ。

「……肯定。……ショウタの『万物再構築』と、私の『空間修復関数』を同期させれば、ブラックホールの消去は可能です。……消費魔力:アイリスのバッテリーの20%」

「よし。行こう、アイリス。世界の不具合を……僕たちの楽しい旅の『障害物』を、一つずつ消していこう」

「……了解。マスター・ショウタ。……楽しい旅のために。……あむっ(保存食を食べる)」

温泉、ピクニック、そしてシステムのアップデート。

異世界での旅は、ただ生き延びるためだけの過酷な戦いではない。

現代知識と、異世界の力。その融合が生み出す、圧倒的な「快適さ」と「楽しさ」。

二十五歳の魂を持つ十五歳の少年は、この楽しい旅の果てにある、完璧な世界へと向かって歩き出した。

チーム「デバッガーズ」の冒険は、まだ始まったばかりだ。

(続く)

【現在のステータス】

名前:ショウタ

レベル:8(アイリスのアップデート成功による貢献)

称号:世界のデバッガー、アイリスのチーフエンジニア

【能力値】

体力:24

魔力:0 / 30(枯渇中:アイリスに貯蔵中)

知力:28

運:14

【取得権限】

・ソースコード閲覧(Level 2)

・強制消去(Delete)

・メモリ解放(Release)

・[新規]システム共有・極(アイリスとの完全同期)

【装備品】

・黒晶の魔戦槍・改

・精霊弓・無欠リィン

・管理端末アイリス・改(超魔導バッテリー搭載)

・グリモア・リンク(アイリスと常時同期中)

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけたなら、

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