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第12話 女の子が怖がっちゃうでしょおおおお!!

 先ほどまでの表の道とは違い、この細い脇道の空気は澱んでいた。


 頭上では建物が互いに覆いかぶさり、空はほとんど見えない。

 わずかに差し込む光も、壁の汚れに吸い取られ、地面に届く頃には色を失っている。



 そこで――――僕は身ぐるみを全部剥がされて、正座させられていた。



「なんじゃあ? 一銭も持ってないやないか」

 


 岩のようにいかつい顔面の男が、睨みを利かせながら僕の一張羅をバサバサと振る。

 そりゃあ、これからお金を稼ぐために冒険者になろうとしていたわけで、お金がその服から落ちたりなどはしない。


 僕は恐る恐る、目の前の悪党達に尋ねる。

 

 

「あ、あなた達は誰なんですか……?」

 

「ああん? おいら達を知らねえのか?」


「言ったってくださいよリーダー!」



 強面の男の後ろから長身の男と豆のような男が飛び出てきた。

 おだてられたリーダーと思わしき男は、コホンと咳払いをする。


 

「しょうがないのぉ――――わしらはこの辺りのシマを牛耳っとるもんじゃ……豪傑のディーズとはわしのことよ」


「俺はジェミー!」


「おいらはリーだ!」



 なんというか、ロケット団を彷彿とさせるキャラクターが出てきたものだ。

 

 シルエットも似てるし。

 大きな違いといえば、リーダーが紅一点の女性ではなく、いかついおっさんてことくらい。


 

 僕はなるべく刺激しないような言葉遣いで、再度彼らに尋ねる。



「あの……お金もないんで見逃してくれたりとか……?」


「ああん? そうはいかんじゃろ。こんな真っ昼間から女の子連れ込んで」



 悪鬼のような表情で、僕はまた睨みつけられる。

 直接肌に接する地面が、一層冷たくなった気がした。



「わしらが女の子の友達もおらんで男だけでしっぽりカツアゲにいそしんでるところに、女二人とイチャイチャしとるとこ見せられたら気分が悪いやろがい!」


「こいつなんて……先月彼女にフラれたんだぜ?」


「おい、その話はよせよ……」



 突然、三人はおいおいと泣き始めた。


 つまり……モテない三人が女の子のナンパに成功した僕が気に入らなくて襲ったってこと……?


 やつあたりやないか。

 しかもカツアゲにいそしんでるってなんだよ。


 

「こいつは……憂さ晴らしに痛めつけるしかないのう……!」


「ひいっ!」

 


 僕は、なんとか彼らの暴挙から逃れようと両手を前に出して制止を促す。

 


「いやいやいや……決して、薄暗いところに連れ込んで、まだ小さい子供という特権を使って、エッチなことをしようとしていたわけじゃないんです!」


「別にそこまで聞いとらんわ!」



 再び沸騰させてしまった。


 な、なんとかしないと……


 

「ま、待ってください!」



 僕は必死に声を張って、ディーズ達を制止させる。



「――――僕があんな美女を誘えた理由、気になりませんか……?」


「なんじゃと……?」



 そう言った瞬間、三人の動きがやや鈍った。


 そうだ。

 男三人でいることを寂しいと感じている。

 

 すなわち、この人達はモテたいと思っているはずなのだ。

 


「確かに、僕は顔もいいし、ナニもこの歳にしては大きいけれど……」


「全裸で堂々とするな」


 

 またもや殺気が復活しそうになったが、慌てて僕は話を続ける。

 


「そ、それでも! まだ10歳の子供です――――こんな僕が、どうしてあんな美女をナンパできたと思いますか?」

 


 僕の問いかけに、三人は興味を示してくれたみたいだ。

 お互いに顔を見合わせて、思案をし始める。

 


「確かにのお……」


「普通、こんなガキについてこようなんてならないよな」



 よしきた。


 異世界転生者の特権。

 前世の記憶でピンチを乗り越えるんだ。


 僕はニヤリと笑みを浮かべ、胸を張って三人に手招きをするのだった。


 全裸のままで。

 


「ふっふっふ……教えてあげましょう。サクトシ的現代のナンパ術の全てを――――」

 



 

 * * *


 



 お兄様へ

 


 突然のお手紙、申し訳ありません。


 また、数週間も稽古に出ることができず、鍛錬を怠っていることも、謝罪します。

 


 その上で、お兄様にお願いしたいことがあります。


 私は今、私を助けていただいた人のために、冒険者をやろうとしています。

 ですが、人数が足らず、パーティーを組めない状態です。


 そこで、お兄様に私達の冒険者パーティに加わって欲しいのです。



 家にも戻らない不肖の娘の無理なお願いであることは分かっています。


 ですが、お兄様しか頼れる人がいないのです。


 

 どうか、よろしくお願いします。



 


 * * *

 


 

 

「――――えい……」



 私――――ユリアはカボナッチの逓送所のポストに、手紙を投函した。

 半ば勢いで作った、無謀な手紙だ。


 私の願いを聞き入れてくれる可能性は、かなり低いだろう。

 


 でも……知らない街で、冒険者になってくれる人を探す方が、私には無理だよ。

 こんなパッとしない私に、うまくできるはずがない。



 ポストに手紙を入れた後、知らない街の通りを私は引き返す。


 街は活気付いていて、皆がお互いに対話し、仲睦まじそうにしている。

 その中でポツンと街を歩いているという状況に、一層の孤独感を感じていた。


 こんなところで、冒険者の勧誘なんて、私にできるわけないじゃないか。

 


 ――――きっと、サクトシはうまくやってるんだろうな。

 

 あんなに明るくて、どんな人にも友好的で――――

 皆、好きになるに決まっている。



 私なんか……



 トボトボとカボナッチの通りを歩いていると――――



「おいおい……あれやばいだろ」


「誰か!? 衛兵を呼んでー!」



 先ほどの活気とは別の喧騒が聞こえてくる。


 顔を上げてみると、正面に大きな人だかりができていた。

 急になんの騒ぎだろうか。


 トラブルに巻き込まれたくないとは思いつつも、好奇心で見に行ってみると――――



「きゃあああああああっ!!」



 まず聞こえてきたのは、女性の悲鳴だった。

 涙目になった数人の女性が、まるで何かから逃げるようにして、こちらに向かって走ってくる。


 私はその後方に注目してみると――――



「待てぇぇい!!、お姉さん達かわいいですね〜〜!!」


「ひょっとして姉妹ですかぁ〜〜!?」


「静かなところでおしゃべりしたいなぁ↑↑↑」



 その後ろから、むさ苦しい強面の男三人が、必死に後を追いかけていた。

 

 笑顔のつもりなのだろうが、全力疾走のあまり顔が引き攣り、鬼のような形相になっている。

 図体も大きい三人が、若い女性を追いかけ回している。

 

 かなりの地獄絵図だ。



「違うぞお前達!! それじゃあ――――」



 さらに、その男達の後ろから、現れたのは――――



「女の子が怖がっちゃうでしょおおおお!!」



 その男三人を全裸で追いかけている、サクトシだった。



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