第11話 必要なのは、ナンパだった
冒険者とは、未知を探索する職業である。
剣と魔法を操り、モンスターが跋扈するこの世界で、冒険に夢を見る。
この異世界で――――何なら別の世界から来た僕ですらも――――誰もが憧れる職業なのである。
冒険者には日々様々な依頼が舞い込む。
珍しい素材の収集、モンスターの討伐、要人の護衛などなど――――
それらの依頼をこなして生計を立てる、いわば、何でも屋に近い。
依頼によっては、雑用を強制させられるものもある。
だが、冒険者で成功すれば莫大な富を築けたり、街を救って英雄になれたりする。
中には、一国の王になった者もいる。
夢のある仕事だ。
そんな異世界といえばな職業、冒険者になるために――――
そのために必要なのは、ナンパだった。
* * *
「――――まずは、パーティメンバーを集めよう」
ドクトルは僕とユリアに向けて、そう提案した。
宿屋のオーナーの息子――――ジローには一旦外に出て行ってもらった。
最初は雰囲気のある研究所だと思っていた場所が、宿屋の一室を牛耳っているという事実を聞かされただけで、普通の部屋を無理やり研究室に見えるように着せ替えているような、陳腐なものに見えた。
年頃の小学生の部屋みたいだ。
――――で、冒険者パーティのメンバーだっけ?
「この三人じゃダメなんですか?」
「君たちはダンジョンボスを討伐したといえど、まだ子供だ。私を含めても、この三人ではギルドに冒険者パーティとして認めてもらえるか怪しい」
この人に言われるのは何だか癪だけど、まあその通りか。
冒険者になるためには、冒険者ギルドに申請を出さなければならない。
子供二人に浮浪者一人では、冒険者の申請どころか、賃貸の入居審査も通らないだろう。
「というわけで、まずは冒険者パーティに入ってくれるメンバーを集めることから始めよう。そうだなぁ、じゃあそれぞれ1人ずつメンバーを集めてくるとかどうかな?」
いきなりハードルの高いことを言ってくる。
まだこの宿から出てすらない。
何も知らない異世界の街で、冒険者のメンバー探しとかなかなか無理がありそうだが……
「そんな……無理……」
ユリアが特にしんどそうな声を出していた。
しかし、ドクトルは呑気に手を振る。
「大丈夫大丈夫〜〜、こんなのダンジョンクリアに比べたら簡単だって」
「そんなこと言って……あんたもちゃんと連れてくるんでしょうね?」
「分かってるよ〜、ちゃんとやるから」
適当に返事を返すドクトルに、さらに疑念が深まる。
ほんとにこの人は働く気があるのだろうか。
「それじゃ、早速行動に移ろう。解散〜〜」
そんなこんなで、1人1人ずつ冒険者の仲間を集めてくることになった。
* * *
カボナッチの街路に足を踏み入れた瞬間、胸の奥がわずかに跳ねた。
石畳、木造の建物、軒先に吊るされた看板。
――――間違いなく、ザ・ファンタジーの街だ。
頭では分かっていても、実際にその中を歩いているという事実が、心を浮き立たせる。
通りの両脇には商店が並び、香辛料の匂い、焼き菓子の甘い香り、金属が触れ合う乾いた音が混ざり合っている。
露台には商品が並び、布や器、刃物、見たこともない道具まで目に入った。
思わず足を止め、ひとつひとつ眺めてしまう。
これよこれよ……!
こういうのが見たかったわけよ。
ディ◯ニーランドに女の子と行く時(行ったことがあるわけではない)も、女の子に合わせてこういう反応をするわけだけれど。
今の僕は、素で異世界の雰囲気というのを味わっていた。
ただ、少し気になることといえば――――
人が多いにも関わらず、通りの賑わいがいささか不自然な気がするところだ。
客と店主のやり取りは短く、値切りの声も控えめだ。
誰もが、どこか余裕を削り取られているような――――
無理に賑わいを保たっている形跡が透けて見える。
ジローの言っていた、領主による地上げの影響なのだろうか。
さて――――ともかく僕はこの街の中で、冒険者になってくれる人を探さなきゃいけない。
恐らくダンジョンなどに潜り、モンスターと戦ったりするわけで。
普通は腕に覚えのある人がいいんだろうけど……
「――――せっかくなら女の子がいいよね」
僕は一人でうんうんと頷く。
現時点で、ユリアとドクトルと僕。
男女比1:2である。
ここで女の子を一人増やせれば、1:3。
流石に3人ともなれば、ハーレムと言ってもいいのではないだろうか。
というわけで早速、僕はターゲットを女の子に絞ってメンバーを探し始めた。
街中には様々な格好の女性が、通りを歩いている。
ひらりと揺れる長いスカートだったり、腰紐で留められた露出の多い上衣だったり。
どれも日本では見られないような特殊な格好だ。
見てるだけでそそられ(ウオッホン、ゲホッゲホッ……)、もとい、冒険者として勧誘したくなる人ばかりだ。
ただいきなり女の子に声をかけるというのは、男性の誰しもがハードルを感じる行為。
でも、僕は異世界転生者。
ここで転生者の特権――――前世の記憶というのが生きてくる。
そう――――ここで僕の、現代のナンパ術をお見せしよう。
異世界の街、思い思いに過ごしている女性たちがたくさんいるわけだが。
ここで、僕が目をつけたのは――――店先の椅子に座って喋っている女の子二人組だ。
いきなり男一人で女の子二人にナンパを仕掛けるのは無謀だって?
サクトシ的ナンパ術その①
『昼過ぎの女の子二人組、意外と暇』
女の子は二人で遊ぼーってなった時に、そこまで綿密にスケジュールを立てない。
ランチ、ショッピングを楽しんだ後、「次何しよーね?」みたいな感じで、暇を持て余すことが多いのである。
通りを歩いている女性や、待ち合わせ中の女性よりも、ナンパ成功率が高い。
というわけで、僕はその女の子二人をターゲットにした。
異世界らしいひらひらでエスニックな服を身に纏っていながらも、金髪の巻き髪と紫がかったロングの女の子。
ルックスは十分だ。
僕は二人の方に歩いて行く。
そして、さも当たり前かのように軽く声をかけた。
「やあ、お姉さん達何してるの?」
すると、二人はこちらを振り向く。
最初、少し警戒したような目つきをしていたが、僕の姿を見てそれはすぐに和らいだ。
「ん? 坊やどうしたのー?」
「迷子かしら?」
今の僕は10歳前後の少年だ。
子供相手に警戒心は抱かない。
それは異性として見られないということでもあるが、現代社会にはおねショタという偉大な文化があるのだ。
僕にだってわんちゃんあるのだよ。
僕は、二人と目があった瞬間、用意していたセリフを心を込めて言った。
「わあ……お姉さん達、とっても綺麗ですね……!」
サクトシ的ナンパ術その②
『とにかく褒めちぎる』
会話の中で、女の子を褒めることは何よりも大事だ。
好意の返報性という心理学の法則もある通り、人は好意を向けられると好意を返したくなるものである。
「あははっ、そんなことないよ〜」
「いやいや、1日100回くらい言われてると思うんですが、101回目を僕にも言わせてください! 綺麗ですね!」
「あら坊や、上手だね〜〜」
少年の見た目も相まって、ピュアな感じで振る舞えている。
僕は次のセリフを口にした。
「お二人は姉妹なんですか〜〜?」
サクトシ的ナンパ術その③
『絶対姉妹じゃないけど、姉妹かどうか聞いてみる』
「ええ〜? 私たちそんなに似てるかな?」
「あ、違いましたか? でもめちゃくちゃお似合いで、思わずそう思っちゃいましたよ〜〜」
友達と一緒にいる女の子は、二人の仲の良さをアピールしたいものだ。
こういう風に言ってあげると、機嫌が良くなったりする。
「あはははっ!! 君おもしろいね〜!」
なかなか好感触なようだ。
本来なら、ここで連絡先を聞くところなのだが、この世界には電話もLINEも存在しない。
ならば、やるのはその次のステップだ。
「――――僕、お姉さん達ともっといっぱい喋りたいです! でもここだと騒がしいからもっと静かなところでおしゃべりしたいなぁ」
サクトシ的ナンパ術その④
『静かなところでおしゃべりしたいなぁ』
ホテルだのなんだの、下心丸出しの表現はNG。
あくまで「静かなところ」という曖昧な表現にしておいて、ただ仲良くしたいだけなんだよというところを強調するのだ。
これにより、お持ち帰りの確率はぐんと跳ね上がる。
ワンナイト直行コースだ。
――――僕は、完全に当初の目的を忘れ去っていた。
「いいよ。ちょうど暇だったし、遊ぼっか」
お姉さんたちは僕の提案に乗ってくれた。
よっしゃあああああっ!
あとは宿屋に連れ込むまでよ。
ドクトルもユリアもきっとメンバー探しで宿にはいないだろうから、やるなら今だ。
「ついてきてよ!」
僕はあくまで純真無垢な子供だという体裁を保ちながら、二人を案内する。
もうナンパは成功したも同然だ。
あとは、異世界のハーレムを存分に堪能するだけ――――
しかし――――僕はそこで少しだけ気持ちがはやってしまった。
少しだけ、宿に向かう道をショートカットし、薄暗い路地裏を通ってしまったのだ。
――――その時だった。
「おんどれ……女連れて、うちのシマで何やっとんじゃ」
正面から三人組の男達が現れる。
めちゃくちゃ強面で明らかに僕を威嚇していた。
「――――ひえっ……!」
小さい悲鳴が聞こえ、女の子達は一瞬にしてスタスタと逃げてしまった。
ま、まずい……
僕も逃げなきゃ――――
「おおい待たんかい……身ぐるみ置いてけやあ!」
「え、えええええええええっ!?」
なんでいつもこうなるの〜〜〜〜!?
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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