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第1話 僕のナニが縮んでしまっているのですが

「お願いします! このあと二人で飲みに行きませんか!?」


 

 12月、夜の寒空の下。

 僕は精一杯手を伸ばす。


 耳の奥まで凍るような風が、ビルの隙間を吹き抜ける。

 看板の赤や紫、青白いLEDが湿ったアスファルトに滲み、ネオンの光が、街に眠る様々な欲望を吐き出していた。

 

 この時間、この場所で、そういう誘いをするということは――――


 そう、僕はこの人とエッチなことがしたいということだ。


 

「えっと……私達、さっき会ったばっかりじゃない? それでいきなり二人きりでなんて……」


「いえ! 僕はずっとあなたのことを目で追っていました!」


「いや私の方が知らないんですけど!?」

 


 肩がびくりと跳ね、口元が引き攣っているが、何を怯えることがあるのだろうか。

 僕の後ろに全裸の変態でもいたのかもしれないが、そんなやつに構っている場合ではない。


 この人はうちの会社で一番美人な先輩だ。

 社内のいい女ランキングではティア1になっており、マドンナ的な立ち位置。


 そんな彼女を、僕はつい目で追ってしまっていた。

 

 あなたのその胸とか、そのお尻とか――――


 これはまさしく、恋以外の何者でもないではないか。

 


「絶対、後悔させませんから! きっと満足させます! だからこの後、僕の家で飲み直して――――」


「ご、ごめんなさい〜〜!」


「え!? ちょ、ちょっと!」


 

 な、なぜだ!

 下心は絶対に表には出ていないはずなのに……!


 また、失敗したのか――――


 いや、まだだ。

 今から追いかければまだわんちゃんあるんじゃないか?

 

 背を向けて走り去ろうとするマドンナを、僕は追いかけようとした。

 しかし、彼女が駆け出した先は――――


 赤信号の横断歩道であった。


 

「危ない!!」


 

 僕の体は咄嗟に動く。

 肩が先輩の柔らかい体に当たり、いい匂いがした次の瞬間――――


 大型トラックのとてつもない衝撃が、僕の体を襲った。


 

「きゃあああああああっ!!」

 


 彼女の悲鳴が遠くで聞こえる中、僕の体は宙を舞う。

 世界が流転し、ネオンライトが流星のように尾を引いていた。


 薄れゆく意識の中、僕は自分のこれまでの人生を嘆いていた。


 

 ああ……

 僕、持ってねえな……


 イケメンでもないし、金もないし、男として何も持ってない。

 上京して、一人暮らしを始めたら、なんか変わると思ってたのにな。


 見栄張って、美人を誘って、そんでフラれて――――

 挙げ句の果てに、その人を庇って、轢かれるなんて。


 ここで、僕の人生も終わりか――――


 

 でも、次はもっと上手くやるんだ。


 とんでもないイケメンに生まれ変わって、金持ちで、筋肉もムキムキで。

 モテまくってやるのさ。


 そして、いつか――――

 


「いつか――――童貞を捨ててみせる」

「いつか――――君を救ってみせる」

 


 あれ?

 今、なんて言った……?


 そこで、僕の意識は途切れた。





 * * *





 意識が浮上する。

 目を開けると、そこは真っ白な世界だった。


 現実味のない、全くの無の世界。

 精神と時の部屋みたいな――――って言って今の若い子は伝わるんだっけ?


 僕は、死んだのか?

 ここが天国だって言われたら、納得できるような空間だった。


 しかし――――

 ふと、僕は視線を下にすると、衝撃的な光景が目に飛び込んできた。


 

「ぼ、僕のナニが縮んでやがる!?」

 


 僕と30年弱共に成長してきたかわいいベイビーちゃんが、全く別のそれになっているではないか。



「きゃあああああああっ!!」



 その時、後ろから悲鳴が聞こえてきた。

 振り返ると、そこには真っ赤になった顔を両手で覆っている女性がいた。


 こんなよくわからない世界に人が……?


 まあ、ともかく聞いてみよう。



「すみません。僕のナニが縮んでしまっているのですが……」


「そんなことよりも、服を着てください!!」



 そんなことって。

 男にとってこれ以上に大事なことなどあるものか。



「いやいや、一大事ですよ! 本来はもっと長さがあるんです。ほら――――よくあるじゃないですか。トイレットペーパーの芯から先っちょが出るとか出ないとか――――」


「そんな男だけの常識を当たり前みたいに言わないでください!」



 もうっ……! と言いながら、その女性は指を振った。


 すると、僕の体の中に光がまとわりついた。

 その光は次第に実体化し、緑色の服となってそこに顕現したのだ。


 これは、魔法……?



「あなたは生まれ変わったんですよ。顔も体も、これまでのものとは違います」

 

 

 よく見れば、手足のサイズや長さも、前と比べて小さく、短くなっている。

 体そのものが縮んでいるのだ。


 別の体に生まれ変わったということなのだろうか。


 生まれ変わったのも、服が何もないところから出現したのも、全て魔法的な何か?

 


 ちょっと待てよ。

 僕って、さっきトラックに轢かれたよな……


 トラックに轢かれたと思ったら、生まれ変わってるってこの超展開――――


 

 ひょっとして、異世界転生というやつですか!?


 

「何はともあれサクトシさん――――成功してよかった」



 その女性は、透き通るような綺麗な声で話し、微笑みを浮かべる。

 先程まで自身の体に夢中で気づかなかったが、目の前にいる女性は――――片翼の女神だった。


 この世のものとは思えないほどの美貌。

 霧のような白い衣が揺れるたび、豊満な肢体は淡い光の尾を引いて浮かび上がった。

 そして、背中から片側だけに広がる、光の翼。


 まさに女神様だった。

 

 

「あ、あなたは――――ってうお……」

 


 名前を聞こうとしたところで、女神の豊満な胸に、僕の目を奪われてしまった。


 これまたすんごい……

 そんな、こぼれちゃうよそんなの……


 すると、女神はサクトシの目線に気づき、体を両手で隠してこちらを睨みつけた。



「変な目で見ないでください……!」


「ふぇ? いや……すみません」



 いやだってねえ。

 そんな格好してる方がいけないんじゃないですかね。


 目のやり場に困るじゃないですか。


 後頭部を掻いて、口笛を吹いていると、目の前の女神様は突然、吹き出した。

 

 

「ぷっ……あははは! ()()()、あなたはユニークな方ですね」


「え?」


 

 ()()()って今言わなかったか……?

 初対面なのに、僕のことを知っているのだろうか。

 


「――――それでいて、とてもお優しい」

 


 女神は、先ほどマドンナにぶつかった僕の肩に手を添えた。


 そうか――――この人は神様だから……

 もしかして、この女神様は天界から僕のことを見ていたのだろうか。


 

「ずっと――――僕のことを見てくれていたんですか?」


「はい。私はずっと、あなたを見ていましたよ」

 

 

 女神様は笑顔でそう返してくれる。


 だから、異世界転生に僕が選ばれたんだなぁ。

 真っ当に生きてきてよかった……

 


「さて、あなたは、これから壮大な旅に出ることになります」


「ちょっと待った!!」


 

 いよいよ、本格的な異世界の旅。

 ならば、次の展開は読めている。


 

 「皆まで言わなくても分かってますよ! 異世界と言えばチートスキル! 僕に何かとんでもないスキルを授けてくださるのでしょう!?」

 


 期待の眼差しで僕は女神様を見つめる。


 これがなくちゃ始まらない。

 異世界ファンタジーの主人公は、チートスキルを使ってハーレムを作るって相場が決まっているんだ。


 

「――――もちろん、最強の能力をあなたに授けましょう」


 

 女神様は薄い微笑みを保ちながら、僕に指を差す。

 神々しく、心の奥底に響くような声で、彼女は僕に訴えかけてきた。


 

「あなたはこれを使い、この世界を救ってください。そして、この世界の新たな希望になるのです」


 

 おお……

 それっぽい。


 勇者になれという感じか。

 臨むところじゃないか。


 

「ええ……! ぜひ、僕にそのスキルをください!」


「いいでしょう」

 


 すると、女神様は僕の額をトンと、人差し指で押した。

 その瞬間、僕の意識はまた、遠のいていった。



「では、もうしばし――――眠ってください」



 よっしゃ……

 僕は持ってる……!


 目を覚ませば、夢の異世界生活。

 モテまくりだ……!



 と思っていたのに――――



 僕に授けられたスキルは、まさに最弱のスキルだった。

 


読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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