表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/95

第90章:熱暴走する翻訳機と、秋葉原の冷却術


フィルターの悲鳴


6月下旬。湿度の高い梅雨の午後。

俺たちは、サウナのような熱気に包まれた地下の配管室にいた。

「アッツイ……! なんだこの熱気は!」

「少年! 近づくな! 爆発するぞ!」

加藤先生(25歳)が叫ぶ。

その視線の先にあるのは、システムの一部である「多言語ラジオ(第2のアーティファクト)」だ。

泥の中から「未練」を濾過する【フィルター】の役割を担っているこの機械が、今は真っ赤に発熱し、煙を上げていた。

『Achtung!(危険!)』

『Caliente!(熱い!)』

『Fire! Fire!(火事だ!)』

スピーカーからは、各国の言語で「熱い」という悲鳴がノイズ混じりに垂れ流されている。

真空管がオレンジ色に輝きすぎて、今にも溶けそうだ。

「処理落ちしてるのね……。湿気と気温の上昇で、放熱が追いついていないわ」

櫻子先輩が氷嚢ひょうのうを当てようとするが、水蒸気になって一瞬で蒸発する。

「このままじゃフィルターが溶けて、悪意がパイプに詰まるわ!」

「修理だ! だが、こんな霊的な真空管、どこで直せる!?」

「……心当たりがあります!」

俺はリュックを開いた。

以前、先輩のデータをスマホに移してくれた、あの人を頼るしかない。

「俺が秋葉原まで走ります! 先生たちは冷却(扇風機)をお願いします!」

俺は熱々のラジオを耐熱シートに包み、地上へと駆け上がった。


再び、電脳宮へ


電車に揺られて秋葉原。

俺は汗だくで裏路地のジャンクショップ『電脳宮でんのうきゅう』の扉を開けた。

「博士! 緊急事態です!」

「む? その声は……古田少年か」

カウンターの奥から、ボサボサ頭の店主・博士が顔を出した。

手には半田ごてを持っている。

「どうした、血相を変えて。またスマホのデータが飛んだか?」

「違います! こいつを見てください!」

俺はカウンターにラジオを置いた。

包みを開けた瞬間、ムワッとした熱気と、『So hot...』という怨嗟の声が漏れ出す。

「ホウ……。こいつはまた、年代物の真空管じゃな。それに、凄まじい『念』の熱量を感じる」

博士はルーペを取り出し、興味深そうに観察した。

「こりゃあ酷い。霊的な不純物を濾過しすぎて、真空管の中に『情念のすす』が詰まっておる。人間で言えば動脈硬化と熱中症の併発じゃな」

「直せますか!?」

「ふむ。普通の修理じゃ追いつかん。……『魔改造』が必要じゃな」

博士のメガネがキラリと光った。

嫌な予感がするが、頼むしかない。

「お願いします! なんでもやってください!」


霊的冷却システム


「よし。いいか少年、真空管というのはな、熱を持つほどに『良い音(霊の声)』を拾うが、限界を超えれば自滅する。必要なのは、『物理的な冷却』と『霊的な放熱』の両立じゃ」

博士は店の奥から、見たこともないパーツを次々と持ってきた。

1. ゲーミングPC用の巨大ファン(七色に光る)

2. ヒートシンク(放熱板)

3. 謎の銀色の液体(水銀?)

「まずは、このヒートシンクを真空管に直付けする。素材は『純銀』じゃ。銀は魔除けの効果と、熱伝導率が最強じゃからな」

ジュッ!

博士が手際よく銀の板を加工し、真空管に巻き付ける。

「次に、このファンだ。ただ風を送るだけじゃないぞ。ファンの羽には、微細な文字で『般若心経』が彫り込んである」

「えっ、手彫りですか?」

「レーザー刻印じゃよ。これを高速回転させることで、物理的な風と共に『浄化の風』を送り込み、熱(怨念)を散らすのじゃ!」

ブオオオオオオン!!

ファンが虹色に光りながら回転し始めた。

ゲーミングPCみたいに派手だが、風圧は凄い。

「そして仕上げに、回路のバイパス手術じゃ。詰まった念をスムーズに流すために、『金メッキの極太ケーブル』に換装する!」

博士の魔改造手術は、1時間にも及んだ。

店内には、半田の匂いと、時折聞こえるラジオのうめき声(『Oh...Yeah...』)が響いていた。

復活のラジオ(ゲーミング仕様)

「完成じゃ!!」

博士が叫んだ。

目の前には、生まれ変わった多言語ラジオがあった。

木枠のレトロな外観はそのままに、側面には巨大な銀色の放熱フィンが突き出し、背面では虹色に光るファンが静かに、しかし力強く回っている。

そして、配線は金ピカだ。

レトロフューチャーというか、サイバーパンクな見た目になっている。

「……すごい。熱くない」

触ってみると、ひんやりとしている。

真空管の輝きも、危険な赤色から、安定したオレンジ色に戻っていた。

『……System All Green. 快適デス。感謝シマス』

ラジオから、流暢な合成音声(日本語)が聞こえた。

ノイズも消え、クリアな音質になっている。

「おお! 喋り方も知的になった!」

「うむ。処理能力が上がったおかげで、翻訳機能も向上したようじゃな。これなら、今年の猛暑も乗り切れるじゃろう」

博士は満足げに頷いた。

「ありがとうございます、博士! これでお幾らですか?」

「なに、代金はいらんよ。……その代わり」

博士はニヤリと笑った。

「そのラジオが拾った『異界の放送データ』、あとで少し聞かせてくれんか? 未知の周波数は、ワシの大好物なんじゃ」

「……分かりました。録音しておきます」

やはりこの人も、マッドサイエンティストの類だ。


帰還と安定稼働


俺は改造されたラジオを持って、学校へ戻った。

地下の配管室に設置し、再起動する。

ブオオオオン……(般若心経ファン回転)

『Filtration Start.(濾過開始)』

ラジオは、以前よりもパワフルに、そして静かに稼働し始めた。

詰まっていた泥(悪意)が、スムーズに吸い込まれ、綺麗なデータと排水に分離されていく。

「やったな少年! 七色に光っているのは気に食わんが、性能は抜群だ!」

加藤先生も大喜びだ。

櫻子先輩は、光るファンを見て「あら、クラブみたいで綺麗ね」と楽しんでいる。

こうして、地下システムの熱暴走危機は、秋葉原の技術力とオカルトによって回避された。

ただ、静かな地下室で、虹色の光が点滅し続けるシュールな光景だけが、新たな悩みとして残ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ