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第89章:ポンプ室の筋肉痛と、特濃プロテイン地獄


地下からのSOS


6月中旬。梅雨の晴れ間。

放課後、俺が園芸部(裏世界)で草むしりを手伝っていると、地下への通気口から「ギチギチ……」という不穏な音が響いてきた。

「……何の音ですか?」

「あら。地下の配管室からね」

櫻子先輩が手を止める。

地下の配管室には、蘇生システムの一部である「人体模型」が【圧送ポンプ】として配置され、魂のデータを循環させるために24時間走り続けているはずだ。

「様子を見に行きましょうか」

俺たちは地下への階段を降りた。

配管室のドアを開けると、そこには衝撃の光景があった。

「う、うぅ……」

ルームランナーのような装置の上で、人体模型が膝をつき、痙攣していた。

自慢の筋肉(模型)は色あせ、関節からは油が切れ、悲痛な軋み音を上げている。

「オーバーヒートか!?」

「いいえ、これは……筋肉痛よ」

先輩が診断を下した。

無尽蔵のスタミナを持つ怪異といえど、数ヶ月間休みなしで走り続ければガタもくるらしい。

「いかん! ポンプが止まればシステムの循環が滞るぞ!」

背後から、タンクトップ姿の加藤先生(25歳)が現れた。

その目は、かつてないほど真剣だった。

「少年、櫻子。ここは俺に任せろ。こいつに必要なのは休息ではない。『超回復』だ!!」


禁断のマッスル・カクテル


加藤先生は、どこからか巨大なミキサーと、怪しげな粉末の袋を大量に取り出した。

「先生、それは?」

「俺がアマゾンの奥地で手に入れた『秘伝のプロテイン』と、裏世界の薬草を調合した『マッスル増強エキス』だ」

先生は、粉末をドサドサとミキサーに投入し、さらに生卵、牛乳、バナナ(第60章の残りではない)、そして謎の青い液体を混ぜ込んだ。

ギュイイイイーン!!

ドロドロの、紫色に発光する液体が完成した。

見た目は毒薬だが、匂いは強烈なバニラと汗の匂いがする。

「さあ、飲め! 筋肉の叫びを聞け!」

先生は、ぐったりしている人体模型の口をこじ開け、特製ドリンクを一気に流し込んだ。

ゴクッ……ゴクッ……!

人体模型の目が、カッと見開かれる。

体内の内臓模型が激しく脈打ち、血管ペイントが浮き上がる。

「オ……オオオオッ!!」

人体模型が咆哮した。

全身から湯気が立ち上り、萎んでいた筋肉がムクムクと膨張していく。

「よし! エンジンがかかったな! ここからは『パンプアップ・メンテナンス』だ!」


筋肉対筋肉


「いくぞ人体模型! 俺についてこい!」

加藤先生は、配管室に持ち込んだバーベル(100kg)を軽々と持ち上げた。

「フンッ! フンッ!」

それを見た人体模型も、対抗意識を燃やして予備のパイプ(鉄塊)を持ち上げる。

「ウオオオッ!」

地下室で繰り広げられる、人間と怪異の筋トレ対決。

スクワット、ベンチプレス、デッドリフト。

汗が飛び散り、筋肉が唸りを上げる。

「いいぞ! その大胸筋だ! 負荷を楽しめ!」

「ガアァァァッ!」

俺と櫻子先輩は、入り口で呆然と見守っていた。

「……先輩。これ、メンテナンスなんですか?」

「……さあ? でも、二人とも楽しそうだからいいんじゃない?」

先輩は扇子で顔を仰ぎながら言った。

確かに、人体模型の動きはキレを取り戻している。いや、以前よりも明らかにビルドアップしている。

「仕上げだ! マッスル・ポージング!!」

「サイドチェストォォォ!!」

先生と人体模型が、並んで完璧なポーズを決めた。

その瞬間、二人の筋肉から金色のオーラが放たれ、地下室を照らした。


強化されたポンプ


数時間後。

メンテナンス(筋トレ)を終えた人体模型は、再び所定の位置に戻った。

その姿は、以前とは別人のように逞しくなっていた。

塗装が剥げていた肌はツヤツヤになり、一回り大きくなっている。

「よし。行け!」

先生が合図すると、人体模型は猛烈なスピードでルームランナーを走り始めた。

ドォォォォォン!!

凄まじい推進力。

パイプの中を流れる「気」の循環速度が、倍以上に跳ね上がった。

「出力200%……! これならシステムも安泰だ!」

加藤先生は満足げにプロテイン(残り)を飲み干した。

「さすがですね、先生。筋肉は裏切らない」

「ああ。筋肉とは、魂の鎧だからな」

先生はニカっと笑った。

その横で、走り続ける人体模型も、心なしかサムズアップをしているように見えた。

こうして、地下システムの危機は、筋肉と友情(?)によって救われた。

ただし、配管室がしばらくプロテイン臭くてむせ返るようになったのは、言うまでもない。

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