第76章:師匠への報告書と、笑う霊媒師
震える報告
その日の夜。
古田家に送ってもらい、腰の震えがようやく止まった安倍清和は、すぐにスマホを取り出した。
発信先は、師匠である時田茜(古田の祖母)だ。
プルルル……ガチャ。
『はいよ。どうした、清和。初日から泣き言かい?』
電話の向こうから、全てを見透かしたような声が聞こえる。
「し、師匠……! ご報告があります……! 古田先輩の学校、ヤバいです!」
安倍くんは、今日起きた出来事をまくし立てた。
工事現場での消失、裏世界への侵入、そして「西野園櫻子」という規格外の存在との遭遇。
「あの人は、ただの地縛霊じゃありません! 陰陽術を無効化するし、魂を料理して食わせるし、僕の真名をステータス画面みたいに読み取ったんです! あんなの、妖怪の範疇を超えてます!」
『ふふっ。手荒い歓迎を受けたようだねぇ』
「笑い事じゃないですよ! ……あんな化け物がいる学校に、古田先輩を通わせていいんですか!? 魂ごと食われますよ!」
安倍くんは本気で心配していた。
生意気だが、根は善良なのだ。
師匠の愉悦
『安心しな。あの娘(櫻子)は、降太には手を出さないよ』
祖母の声は落ち着いていた。
『それに、お前も食ったんだろう? 「魂のクッキー」を』
「ッ!? な、なぜそれを……」
『声を聞けば分かるさ。お前の霊力が、以前より一回り太くなっている。……毒を食らわば皿までと言うだろう? 頂いた命は、有効に使いな』
安倍くんは自分の手を見た。
確かに、恐怖で震えてはいるが、体の芯から力が湧いてくる感覚がある。
あのクッキーは劇物だが、陰陽師としての格を上げるドーピングアイテムでもあったのだ。
『清和。お前をあそこに送り込んだのは、その「規格外」を学ばせるためさ。教科書通りの陰陽術だけじゃ、この世の理不尽には勝てないからね』
「師匠……」
『ま、降太のことを頼んだよ。あの子は放っておくと、自分から危ない方に首を突っ込むからね。お前の「常識」で、ブレーキをかけてやりな』
「……分かりました。僕が、古田先輩を守ります(主にあの魔女から)」
安倍くんは決意を新たにした。
『精進おし。……あ、それと』
祖母が最後に付け加えた。
『あの娘のクッキー、私も一度食べてみたいもんだねぇ。今度、お土産に持ってきな』
「無理です!! 二度とあんな恐ろしいもの口にしたくありません!!」
ガチャ。ツーツー。
安倍くんは電話を切ると、ベッドに倒れ込んだ。
守護霊の九が、心配そうに顔を覗き込む。
『キヨ、大丈夫?』
「……ああ。でも、とんでもない学校に来ちまったな」
安倍くんは天井を見上げた。
脳裏には、まだあの美しい魔女(櫻子先輩)の笑顔と、頭上に浮かんでいた自分の名前が焼き付いていた。
「……負けないぞ。僕は、安倍晴明の末裔なんだからな」
震える声で自分を鼓舞する最強のルーキー。
彼の学校生活は、波乱と共に幕を開けたのだった。




