第72章:春嵐のティータイムと、新生ボランティア部
第72章:春嵐のティータイムと、新生ボランティア部
新部長の所信表明
春休み中のとある日。
ボランティア部の部室(家庭科室の端)は、いつになく甘く、優雅な香りに包まれていた。
「皆様、ごきげんよう」
テーブルの上座に座るのは、新部長に就任した本田キティ(子猫)先輩だ。
最高級の茶葉で淹れた紅茶を一口すすると、彼女は鈴を転がすような声で宣言した。
「本日より、新生ボランティア部の活動を開始いたしますわ。今年度のスローガンは……**『優雅かつ迅速』**です」
「……矛盾してませんか、部長?」
俺、古田降太(新2年)がツッコむと、キティ先輩はニッコリと微笑んだ。
「いいえ。真の奉仕とは、誰にも気づかれぬ速さで行い、かつ結果は美しくあるべきです。……実家の回転率のようにね」
最後の一言が怖かった。中華飯店のDNAが疼いている。
「副部長の溝渕様、会計報告を」
「うむ……」
新副部長の溝渕福造先輩(新3年)が、空き缶の山から顔を出した。
「春休みは行楽シーズンだ。公園のゴミ箱は宝の山……。今月の部費は過去最高益を記録した。空き缶は裏切らない」
「素晴らしいですわ。では、その資金で新しいティーセットを買いましょう」
「異議なし」
この部は大丈夫なんだろうか。
玄田先輩のサバイバル路線から、一気にブルジョワジーな方向に舵が切られている気がする。
春の嵐と、中華鍋
「さて。本日のミッションですが……**『校庭の桜守り』**を行います」
キティ先輩が窓の外を指差した。
校庭の桜は満開に近いが、今日の天気はあいにくの強風。
このままだと、入学式前に花が散ってしまうかもしれない。
「新入生たちに、最高の桜を見せてあげること。これも立派なボランティアですわ」
「なるほど! 素敵ですね!」
顧問の山口先生(幸せ太りで少しふっくらした)が手を叩く。
俺たちは校庭へと繰り出した。
風が強い。砂埃が舞う。
「皆様! 散った花びらを掃き集めつつ、枝を守るのです!」
キティ先輩が指示を出す。
彼女の手には、なぜか掃除用具ではなく、家庭科室から持ち出した中華鍋が握られていた。
「部長、それ何に使うんですか?」
「風除けですわ!」
ビュオオオッ!
突風が吹き、桜の枝が激しくしなる。
「あいやーっ!!」
キティ先輩が叫んだ。
彼女は中華鍋を盾に、風上へとダッシュした。
その動きは、まさにカンフーの達人。風の抵抗を最小限に抑える低い姿勢で滑り込み、中華鍋で突風を受け流す。
カンッ!!
飛んできた小石を鍋底で弾き返す音。いい音だ。
「古田様! 溝渕様! 今のうちに支柱を!」
「ハ、ハイッ!」
俺と溝渕先輩は、玄田先輩直伝のロープワークで、弱った枝を支柱に固定していく。
キティ先輩が中華鍋で風を切り裂き、俺たちが守りを固める。
なんだこの連携は。優雅さのカケラもないぞ。
終わりの一杯
一時間後。
風が止み、穏やかな夕暮れが訪れた。
桜は無事だ。俺たちの死闘(?)のおかげで、花はほとんど散らずに残っていた。
「……ふぅ。疲れましたわ」
キティ先輩が、中華鍋を置いて額の汗を拭った。
髪は少し乱れているが、その表情は晴れやかだ。
「お疲れ様です、部長。……やっぱり、かっこいいですね」
俺が言うと、先輩は顔を赤らめて、コホンと咳払いをした。
「当然ですわ。……さあ、部室に戻ってお茶にしましょう。今日はマンゴープリンを作ってきましたの」
「やったー!」
俺たちは部室に戻り、甘いプリンと紅茶で乾杯した。
玄田先輩のようなアウトドアな強さはないけれど、この部の「温かさ」と「カオスさ」は変わらない。
「先輩。……俺、今年も頑張りますよ」
「ええ。頼りにしていますわ、古田様」
新生ボランティア部。
前途多難だが、きっと退屈はしないだろう。
窓の外で揺れる桜が、俺たちの新しい季節を祝福しているようだった。




