表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/95

第70章:旅立ちの祝辞と、愛すべき孫たちへ


3月15日、卒業式

春の光が差し込む体育館。

厳粛な空気の中、第〇回卒業証書授与式が行われていた。

「卒業生、起立」

名前を呼ばれ、立ち上がる先輩たち。

ボランティア部の玄田宇宙部長。背筋が伸びていて、頼もしい背中だ。

オカルト部の四方山ヨミ部長。今日は眼帯を外している。その瞳は、しっかりと前を見据えている。

俺たち在校生は、その後ろ姿を見守っていた。

寂しさがこみ上げてくる。でも、それ以上に「おめでとう」という気持ちが強かった。

校長式辞

「校長式辞」

司会の声と共に、加藤起太郎校長が壇上に上がった。

モーニングコートに身を包んでいるが、目元にはやっぱりサングラス。

杖をつき、ゆっくりと、しかし力強くマイクの前に立つ。

「えー、卒業生諸君。おめでとう」

校長は、手元の原稿用紙を懐にしまった。

アドリブだ。会場がざわつくが、校長はニカっと笑った。

「堅苦しい挨拶は抜きだ。私から、最後にはなむけの言葉を贈ろう」

校長の声が、体育館に朗々と響く。

「これから君たちが進む道は、決して平坦ではない。希望通りの道に進めた者もいれば、残念ながら少し道を逸れてしまった者もいるだろう」

受験に失敗した生徒や、進路に悩む生徒たちが、顔を上げる。

「だがな、どっちでもいい」

校長は断言した。

「真っ直ぐな道も、曲がりくねった道も、前に続いていることに変わりはない。進めばいい。泥臭くても、這いつくばってでも、進み続ければ、そこが君の『道』になる」

校長はサングラスを外し、少し潤んだ瞳で生徒たちを見渡した。

その脳裏には、49年前、交差点で立ち尽くし、何もできずに後悔し続けた自分自身の姿があるのかもしれない。

「人生において、本当の失敗とは何か。それは、転ぶことでも、間違えることでもない」

校長は拳を握りしめた。

「何もせず、立ち止まり、未来を見ることを諦めてしまうことだ」

「後悔だけを抱えて、過去に縛られるな。……私のような『後悔する大人』になるな。君たちには、無限の未来があるんだ」

愛の告白

体育館が、静まり返る。

すすり泣く声が聞こえる。玄田部長も、ヨミ部長も、噛み締めるように頷いている。

「私はな、この学校に来てよかったと思っている」

校長は、破顔した。

シワくちゃで、温かくて、最高にチャーミングな笑顔だ。

「君たち一人一人が、愛おしくてたまらん。毎日元気に登校してくる姿を見るだけで、私の寿命が延びる思いだった」

校長は両手を広げた。

「いいか、よく聞け! お前たちは全員、俺の自慢の孫だ!」

「校長……!」

「愛してるぜ、ガキども!! 元気でな!!」

校長は叫び、高らかにピースサインを掲げた。

「うおおおおおおっ!!」

「校長ぉぉぉぉ!!」

「ありがとうございましたぁぁぁ!!」

卒業生たちが、涙を流しながら叫び返す。

拍手が鳴り止まない。

先生たちも泣いている。

校長は、杖を回しながら颯爽と壇上を降りていった。

その背中は、どんな偉人よりも大きく、かっこよかった。


桜の下の別れ


式が終わり、校庭での見送り。

桜の蕾が、少しだけ開き始めていた。

「古田。世話になったな」

玄田部長が、俺の肩を叩いた。

「ザイル、頼んだぞ」

「はい! 部長も、元気で!」

「我が盟友よ。黒歴史ノートの管理、任せたぞ」

ヨミ部長が、涙目の笑顔で手を振る。

「はい! オカルト部は守ります!」

先輩たちが、校門を出ていく。

それぞれの未来へ。

俺は、ふと校長室の窓を見上げた。

そこには、サングラスを外して、愛おしそうに卒業生を見送る加藤先生の姿があった。

(……先生。俺、頑張ります)

俺は心の中で誓った。

先生が命を削って守ろうとしているこの学校と、先輩(孫たち)への愛。

そして、先生自身の「後悔」を終わらせるために。

「さあ、行こう」

赤城と、なのはさんと、キティ先輩たちが待っている。

俺たちの1年間が終わった。

そして、新しい季節が、もうそこまで来ていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ