第70章:旅立ちの祝辞と、愛すべき孫たちへ
3月15日、卒業式
春の光が差し込む体育館。
厳粛な空気の中、第〇回卒業証書授与式が行われていた。
「卒業生、起立」
名前を呼ばれ、立ち上がる先輩たち。
ボランティア部の玄田宇宙部長。背筋が伸びていて、頼もしい背中だ。
オカルト部の四方山ヨミ部長。今日は眼帯を外している。その瞳は、しっかりと前を見据えている。
俺たち在校生は、その後ろ姿を見守っていた。
寂しさがこみ上げてくる。でも、それ以上に「おめでとう」という気持ちが強かった。
校長式辞
「校長式辞」
司会の声と共に、加藤起太郎校長が壇上に上がった。
モーニングコートに身を包んでいるが、目元にはやっぱりサングラス。
杖をつき、ゆっくりと、しかし力強くマイクの前に立つ。
「えー、卒業生諸君。おめでとう」
校長は、手元の原稿用紙を懐にしまった。
アドリブだ。会場がざわつくが、校長はニカっと笑った。
「堅苦しい挨拶は抜きだ。私から、最後にはなむけの言葉を贈ろう」
校長の声が、体育館に朗々と響く。
「これから君たちが進む道は、決して平坦ではない。希望通りの道に進めた者もいれば、残念ながら少し道を逸れてしまった者もいるだろう」
受験に失敗した生徒や、進路に悩む生徒たちが、顔を上げる。
「だがな、どっちでもいい」
校長は断言した。
「真っ直ぐな道も、曲がりくねった道も、前に続いていることに変わりはない。進めばいい。泥臭くても、這いつくばってでも、進み続ければ、そこが君の『道』になる」
校長はサングラスを外し、少し潤んだ瞳で生徒たちを見渡した。
その脳裏には、49年前、交差点で立ち尽くし、何もできずに後悔し続けた自分自身の姿があるのかもしれない。
「人生において、本当の失敗とは何か。それは、転ぶことでも、間違えることでもない」
校長は拳を握りしめた。
「何もせず、立ち止まり、未来を見ることを諦めてしまうことだ」
「後悔だけを抱えて、過去に縛られるな。……私のような『後悔する大人』になるな。君たちには、無限の未来があるんだ」
愛の告白
体育館が、静まり返る。
すすり泣く声が聞こえる。玄田部長も、ヨミ部長も、噛み締めるように頷いている。
「私はな、この学校に来てよかったと思っている」
校長は、破顔した。
シワくちゃで、温かくて、最高にチャーミングな笑顔だ。
「君たち一人一人が、愛おしくてたまらん。毎日元気に登校してくる姿を見るだけで、私の寿命が延びる思いだった」
校長は両手を広げた。
「いいか、よく聞け! お前たちは全員、俺の自慢の孫だ!」
「校長……!」
「愛してるぜ、ガキども!! 元気でな!!」
校長は叫び、高らかにピースサインを掲げた。
「うおおおおおおっ!!」
「校長ぉぉぉぉ!!」
「ありがとうございましたぁぁぁ!!」
卒業生たちが、涙を流しながら叫び返す。
拍手が鳴り止まない。
先生たちも泣いている。
校長は、杖を回しながら颯爽と壇上を降りていった。
その背中は、どんな偉人よりも大きく、かっこよかった。
桜の下の別れ
式が終わり、校庭での見送り。
桜の蕾が、少しだけ開き始めていた。
「古田。世話になったな」
玄田部長が、俺の肩を叩いた。
「ザイル、頼んだぞ」
「はい! 部長も、元気で!」
「我が盟友よ。黒歴史ノートの管理、任せたぞ」
ヨミ部長が、涙目の笑顔で手を振る。
「はい! オカルト部は守ります!」
先輩たちが、校門を出ていく。
それぞれの未来へ。
俺は、ふと校長室の窓を見上げた。
そこには、サングラスを外して、愛おしそうに卒業生を見送る加藤先生の姿があった。
(……先生。俺、頑張ります)
俺は心の中で誓った。
先生が命を削って守ろうとしているこの学校と、先輩(孫たち)への愛。
そして、先生自身の「後悔」を終わらせるために。
「さあ、行こう」
赤城と、なのはさんと、キティ先輩たちが待っている。
俺たちの1年間が終わった。
そして、新しい季節が、もうそこまで来ていた。




