第69章:魔眼の告解と、継承される狂気
魔窟への最後の召喚
玄田部長からザイルを受け継いだ翌日。3月11日。
俺はまたしても呼び出しを受けていた。
指定された場所は、特別棟の最奥、オカルト研究部部室(通称:魔窟)だ。
「失礼します……」
重い扉を開けると、そこはいつになく静かだった。
蝋燭(LED)の灯りだけが揺らめく薄暗い部屋。
その最奥にある「玉座(粗大ゴミの椅子)」に、眼帯をした四方山ヨミ部長が座っていた。
「よく来たな、我が盟友にして、稀代の霊的顧問よ」
部長は静かに扇子を閉じた。
部屋には、いつもいるツチノコ先輩も、なのはさんもいない。
二人きりだ。
魔女の素顔
「明日はいよいよ、『次元上昇の儀(卒業式)』だ」
部長は立ち上がり、窓の外の夕焼けを見つめた。
「私がこのサンクチュアリを去れば、結界の均衡は崩れ、新たな混沌が訪れるだろう……」
「……卒業おめでとうございます、部長」
俺が普通に祝うと、部長はふっと肩の力を抜いた。
そして、いつもの芝居がかった口調ではなく、普通の女子生徒のような声で言った。
「……古田くん」
「はい」
「すまなかったな。……この一年、随分と振り回してしまった」
部長は、眼帯をしていない方の目で、まっすぐに俺を見た。
「君を『特別技術顧問』に任命して以来、七不思議の調査だの、怪異の検証だの……危険な橋を渡らせた。君が影でどれだけ体を張っていたか、私にも分かっているつもりだ」
部長は知っていたのだ。
自分が「設定」として楽しんでいる怪異の裏で、古田降太という「本物」が、生傷を作りながら事態を収拾していたことを。
「……楽しかったですか?」
俺が聞くと、部長は驚いた顔をして、それから今日一番の笑顔を見せた。
「ああ! 最高に刺激的で、美しい悪夢のような日々だったよ!」
「なら、いいです。俺も、退屈はしませんでしたから」
俺が笑うと、部長の肩に乗っている守護霊(黄色いヒヨコ)が、「ピヨッ(いい奴だな)」と鳴いて、俺に頭を下げた。
継承される意志
部長は、机の上に置かれていた一冊のノートを手に取った。
「これは、私が3年間書き溜めた『学園怪異観測日誌(黒歴史ノート)』だ。未解決の謎、封印された禁忌、そして部室の鍵の隠し場所……全てが記されている」
部長はそれを俺に差し出した。
「これを受け取れ、顧問。そして……次期部長となる綿貫なのはを、支えてやってくれ」
「……なのはさんが、部長ですか?」
「ああ。あいつの『妄想力』と『行動力』は、私をも凌駕する逸材だ。だが、暴走癖がある。……手綱を握れるのは、君しかいない」
俺はノートを受け取った。
ずしりと重い。その重さは、この学校の「裏の歴史」そのものだ。
「任されました。……でも、ほどほどにしますよ」
「フフッ。期待しているぞ」
最後の魔法
「さて、別れの刻だ」
部長はマントを翻した。
そして、去り際に俺の耳元で囁いた。
「……私の『魔眼(眼帯の下)』が何を見ていたか、知りたいか?」
俺はゴクリと唾を飲んだ。
部長の眼帯。それはただのファッションだと思っていたが、もしや……。
「な、何が見えていたんですか?」
部長はニヤリと笑い、眼帯に手をかけた。
「……君の背中に憑いている、『とてつもなく大きな愛』だよ」
「えっ?」
「君はずっと、誰かに守られている。……大切にな」
部長はそれだけ言い残し、颯爽と部室を出ていった。
俺は呆然と立ち尽くした。
(……見えていたのか?)
部長には霊感はないはずだ。ヒヨコも見えていない。
でも、俺の背後にある「櫻子先輩の気配」や「母さんの守り」を、彼女なりの直感で感じ取っていたのかもしれない。
「……やっぱり、侮れない人だ」
俺は黒歴史ノートを抱え、静まり返った部室を一礼して後にした。
ヒヨコが最後に、部長の背中を追いかけてピョコピョコと走っていくのが見えた。
あのヒヨコも、明日一緒に卒業していくのだろう。
これで、俺たちの1年間は、本当に終わる。
明日はいよいよ、卒業式だ。




