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第64章:校長室の雷と、接触禁止令


始業式後の呼び出し


1月8日。3学期の始業式が終わった放課後。

俺、古田降太は、新年初の校長室呼び出しを食らっていた。

「失礼します……」

ドアを開けると、校長室の空気はいつもより重かった。

加藤校長は、いつものアロハシャツではなく、ビシッとしたスーツを着ている。そして、トレードマークのサングラスを外し、机の上に置いていた。

これは、**「ガチ説教モード」**だ。

「座れ、古田」

「は、はい」

俺はソファの端にちょこんと座った。

成績のことか? それとも冬休みの課題か?


保護観察官の目


「単刀直入に聞く。……年末、園芸部あっちに**『妙な客』**が来たな?」

校長の目が鋭く光った。

それは、教育者の目ではなく、数多の修羅場をくぐり抜けてきた元・伝説の保護観察官の目だった。

「えっ……あ、はい。来ました」

俺は冷や汗をかいた。

12月28日の大掃除の時だ。

関西弁の優男、ニャルラトホテプが突然現れ、お茶を飲んで帰っていったあの一件だ。

「あいつとは、何を話した?」

「えっと……ミカン食べて、裏口を修理してくれて、饅頭置いて帰りました」

「……それだけか?」

「はい。それだけです」

校長は、俺の目をじっと見つめ、嘘をついていないか値踏みした。

数秒の沈黙が、永遠のように感じられる。

「……ふぅ」

校長は大きく息を吐き、サングラスをかけ直した。少しだけ空気が緩む。

「いいか、少年。よく聞け」

校長は身を乗り出し、低い声で言った。

「あいつ――ニャルラトホテプとは、二度と関わるな」

ヤクザ者への警告

「え? でもあいつ、死神の代行なんですよね? 悪い人じゃないんじゃ……」

「馬鹿者!」

校長が一喝した。

「肩書きなんぞ関係ない! 人間だろうが神だろうが、**『目の奥が笑っていない奴』**は信用するな!」

校長は拳を握りしめた。

「私はな、長年多くのワルを見てきた。その経験が告げている。あいつは、我々とは倫理観の根底が違う。あいつにとって、人間の命や感情は、ただの『処理すべきタスク』か『暇つぶしの玩具』に過ぎんのだ」

校長の言葉には、49年前、あいつの気まぐれなイライラに巻き込まれて人生を狂わされた当事者としての、重い実感がこもっていた。

「あいつは**『霊的なヤクザ者』**だ。関われば、骨の髄までしゃぶり尽くされるぞ。……お前のような、お人好しで巻き込まれ体質の人間は特にな」

「……はい」

俺は頷くしかなかった。

確かに、あいつからは底知れない虚無を感じた。関わってはいけない手合いだというのは、俺の「視る目」も告げている。

「櫻子の件は、私と櫻子で何とかする。お前は、あいつには近づくな。……いいな?」

「分かりました。約束します」

「うむ。……よし、話は以上だ。帰っていいぞ」

校長はニカっと笑い、いつもの好々爺に戻った。

俺は一礼して校長室を出た。


破られる約束の予感


廊下に出ると、冬の西日が差し込んでいた。

「関わるな、か……」

校長の心配は痛いほど分かる。

俺だって、好き好んであんな胡散臭い奴と関わりたくはない。

でも。

櫻子先輩を蘇生させるための「システム」を握っているのは、あいつだ。

もし、あいつが再び接触してきたら?

その時、俺は校長との約束を守れるだろうか。

「……あー、くしゅん!」

不意に、大きなくしゃみが出た。

誰かに噂されているような、嫌な予感がした。

その予感は的中する。

この数日後、俺はその「ヤクザ者」から直接呼び出しを受け、校長との約束を(不可抗力で)破ることになるのだから。

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