第57章:真冬の月見うどんと、重力無視の卵
寒空と空腹
11月下旬。遠足も終わり、冬の足音が聞こえ始めた放課後。
俺、古田降太は、寒風吹きすさぶ校舎裏で震えていた。
「寒い……そして腹減った……」
今日の給食はパンとシチューだったが、育ち盛りの胃袋には足りない。
こんな寒い日は、温かい出汁の効いた、トゥルトゥルのうどんが食べたい。
それも、卵を落とした**「月見うどん」**だ。
「よし。……行くか」
俺はリュックの中身を確認した。
スーパーで買ってきた「冷凍うどん(5玉)」「麺つゆ」「ネギ」、そして「生卵」。
準備は万端だ。
俺は百葉箱の前で、深呼吸をした。
今日はワープではなく、**「裏口(紫陽花ルート)」**からお邪魔することにする。
うどん(生卵入り)を持ってワープして、着地失敗で袋の中で卵が割れたら大惨事だからだ。
俺は旧校舎の隅、紫陽花の植え込みの陰にある「空間の綻び」をくぐり抜けた。
園芸部クッキング
「お邪魔しまーす! 差し入れですよー!」
裏世界の園芸部に入ると、そこは相変わらずの平和な空間だった。
ストーブ(加藤先生がどこかから調達したダルマストーブ)が赤々と燃えている。
「あら、ふるふる君。いい匂いがするわね(出汁の匂い)」
櫻子先輩が本を閉じて迎えてくれた。
加藤先生(25歳)は、ストーブの上でスルメを炙っている。自由だ。
「今日は寒いんで、**『月見うどん大会』**をやりましょう!」
俺が宣言すると、二人は「おおー!」と拍手した。
「うどん……。日本の心だな。よし、俺が調理を手伝おう」
加藤先生が立ち上がり、腰からサバイバルナイフを抜いた。
「先生! ネギ切るのにそんな凶器いりません! 包丁ありますから!」
「あら、私も手伝うわ。お湯を沸かせばいいのよね?」
櫻子先輩が、じょうろに水を汲もうとする。
「先輩! それ肥料入ってませんよね!? ちゃんとヤカンで!」
俺は二人のボケを捌きながら、カセットコンロをセットし、鍋にお湯を沸かした。
このドタバタ感。久しぶりだ。これぞ園芸部だ。
重力崩壊の「月」
「よし、麺が茹で上がったぞ!」
湯気の中で、白いうどんが踊っている。
俺はどんぶりにうどんを盛り、温めたつゆをかけた。
刻んだネギを散らす。
そして、メインイベントだ。
「最後はこれ! 生卵を落として完成です!」
俺は卵を手に取り、どんぶりの縁でコンコンと割った。
パカッ。
その瞬間。
フワァァァァ……。
殻から飛び出した「黄身」が、どんぶりに落ちることなく、そのまま空中へと舞い上がった。
「えっ」
俺たちは見上げた。
黄金色に輝く黄身が、天井付近でピタリと静止し、ぼんやりと発光し始めたのだ。
「……浮いた」
「光ってるわ……」
加藤先生が冷静に分析する。
「ふむ。この空間は『想い』が物理法則を上書きする。『月見うどん』という名称から、卵が**『自分は月である』**と自覚してしまったようだな」
「そんな馬鹿な!?」
「綺麗な満月ねぇ」
先輩がうっとりと見上げている場合じゃない。
月見うどんの「月」が成層圏(天井)まで行ってしまったら、ただの「素うどん」だ!
月面捕獲作戦
「捕まえろ! 俺の月見を返せ!」
俺は箸を持ってジャンプした。届かない。
黄身(月)は、フワフワと空中を漂いながら、白身(雲)をまとって優雅に公転している。
「任せろ少年! 俺が撃ち落とす!」
加藤先生がパチンコ(スリングショット)を構えた。
「やめてください! 弾け飛んで大惨事になります!」
「なら、私が魔法(如雨露)で雨を降らせて……」
「余計に湿気るだけです先輩!」
大騒ぎだ。
たかが卵一つ食べるのに、なんでこんなに苦労しなきゃいけないんだ。
結局、俺が肩車をしてもらい(土台:加藤先生)、虫取り網で優しく「月」を捕獲することで決着した。
最高の「すすり」音
「……ぜぇ、ぜぇ。やっと、食える」
どんぶりに強制着陸させられた「月」は、観念したように麺の上に収まった。
箸でつつくと、トロリと黄身が溢れ出す。
「「「いただきます!」」」
ズルズルッ! ハフハフ!
「んん~っ! 美味い!」
冷え切った体に、熱い出汁と小麦の味が染み渡る。
黄身を絡めた麺の、濃厚な味わい。最高だ。
「うむ。サバイバルの後の飯もいいが、こういう平和な飯も悪くないな」
「そうね。……みんなで食べると、美味しいわ」
櫻子先輩が、湯気の向こうでふわりと笑った。
その笑顔は、どんな満月よりも明るくて、温かかった。
窓の外は、裏世界の永遠の夕暮れ。
でも、この部屋の中だけは、ポカポカとした「食卓」の温度で満たされていた。
「おかわりありますよ!」
「もらうぞ!」
「私も半分だけ!」
こうして、久しぶりの園芸部ドタバタ会は、お腹も心も満たされて幕を閉じた。
なお、帰り際に加藤先生が「この『浮く卵』、兵器転用できんか?」と不穏なことを呟いていたのは、聞かなかったことにし




