表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/95

第57章:真冬の月見うどんと、重力無視の卵


寒空と空腹


11月下旬。遠足も終わり、冬の足音が聞こえ始めた放課後。

俺、古田降太は、寒風吹きすさぶ校舎裏で震えていた。

「寒い……そして腹減った……」

今日の給食はパンとシチューだったが、育ち盛りの胃袋には足りない。

こんな寒い日は、温かい出汁の効いた、トゥルトゥルのうどんが食べたい。

それも、卵を落とした**「月見うどん」**だ。

「よし。……行くか」

俺はリュックの中身を確認した。

スーパーで買ってきた「冷凍うどん(5玉)」「麺つゆ」「ネギ」、そして「生卵」。

準備は万端だ。

俺は百葉箱の前で、深呼吸をした。

今日はワープではなく、**「裏口(紫陽花ルート)」**からお邪魔することにする。

うどん(生卵入り)を持ってワープして、着地失敗で袋の中で卵が割れたら大惨事だからだ。

俺は旧校舎の隅、紫陽花の植え込みの陰にある「空間の綻び」をくぐり抜けた。


園芸部クッキング


「お邪魔しまーす! 差し入れですよー!」

裏世界の園芸部に入ると、そこは相変わらずの平和な空間だった。

ストーブ(加藤先生がどこかから調達したダルマストーブ)が赤々と燃えている。

「あら、ふるふる君。いい匂いがするわね(出汁の匂い)」

櫻子先輩が本を閉じて迎えてくれた。

加藤先生(25歳)は、ストーブの上でスルメを炙っている。自由だ。

「今日は寒いんで、**『月見うどん大会』**をやりましょう!」

俺が宣言すると、二人は「おおー!」と拍手した。

「うどん……。日本の心だな。よし、俺が調理を手伝おう」

加藤先生が立ち上がり、腰からサバイバルナイフを抜いた。

「先生! ネギ切るのにそんな凶器いりません! 包丁ありますから!」

「あら、私も手伝うわ。お湯を沸かせばいいのよね?」

櫻子先輩が、じょうろに水を汲もうとする。

「先輩! それ肥料入ってませんよね!? ちゃんとヤカンで!」

俺は二人のボケを捌きながら、カセットコンロをセットし、鍋にお湯を沸かした。

このドタバタ感。久しぶりだ。これぞ園芸部だ。


重力崩壊の「月」


「よし、麺が茹で上がったぞ!」

湯気の中で、白いうどんが踊っている。

俺はどんぶりにうどんを盛り、温めたつゆをかけた。

刻んだネギを散らす。

そして、メインイベントだ。

「最後はこれ! 生卵を落として完成です!」

俺は卵を手に取り、どんぶりの縁でコンコンと割った。

パカッ。

その瞬間。

フワァァァァ……。

殻から飛び出した「黄身」が、どんぶりに落ちることなく、そのまま空中へと舞い上がった。

「えっ」

俺たちは見上げた。

黄金色に輝く黄身が、天井付近でピタリと静止し、ぼんやりと発光し始めたのだ。

「……浮いた」

「光ってるわ……」

加藤先生が冷静に分析する。

「ふむ。この空間は『想い』が物理法則を上書きする。『月見うどん』という名称から、卵が**『自分は月である』**と自覚してしまったようだな」

「そんな馬鹿な!?」

「綺麗な満月ねぇ」

先輩がうっとりと見上げている場合じゃない。

月見うどんの「月」が成層圏(天井)まで行ってしまったら、ただの「素うどん」だ!


月面捕獲作戦


「捕まえろ! 俺の月見を返せ!」

俺は箸を持ってジャンプした。届かない。

黄身(月)は、フワフワと空中を漂いながら、白身(雲)をまとって優雅に公転している。

「任せろ少年! 俺が撃ち落とす!」

加藤先生がパチンコ(スリングショット)を構えた。

「やめてください! 弾け飛んで大惨事になります!」

「なら、私が魔法(如雨露)で雨を降らせて……」

「余計に湿気るだけです先輩!」

大騒ぎだ。

たかが卵一つ食べるのに、なんでこんなに苦労しなきゃいけないんだ。

結局、俺が肩車をしてもらい(土台:加藤先生)、虫取り網で優しく「月」を捕獲することで決着した。


最高の「すすり」音


「……ぜぇ、ぜぇ。やっと、食える」

どんぶりに強制着陸させられた「月」は、観念したように麺の上に収まった。

箸でつつくと、トロリと黄身が溢れ出す。

「「「いただきます!」」」

ズルズルッ! ハフハフ!

「んん~っ! 美味い!」

冷え切った体に、熱い出汁と小麦の味が染み渡る。

黄身を絡めた麺の、濃厚な味わい。最高だ。

「うむ。サバイバルの後の飯もいいが、こういう平和な飯も悪くないな」

「そうね。……みんなで食べると、美味しいわ」

櫻子先輩が、湯気の向こうでふわりと笑った。

その笑顔は、どんな満月よりも明るくて、温かかった。

窓の外は、裏世界の永遠の夕暮れ。

でも、この部屋の中だけは、ポカポカとした「食卓」の温度で満たされていた。

「おかわりありますよ!」

「もらうぞ!」

「私も半分だけ!」

こうして、久しぶりの園芸部ドタバタ会は、お腹も心も満たされて幕を閉じた。

なお、帰り際に加藤先生が「この『浮く卵』、兵器転用できんか?」と不穏なことを呟いていたのは、聞かなかったことにし

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ