第52章:文化祭当日、筋肉と妖気の狂宴
開門、カオスの幕開け
10月1日。文化祭初日。
秋晴れの空の下、校門のアーチが開かれると同時に、一般客や他校の生徒たちがどっと押し寄せた。
「さあ、祭りだ! 燃え尽きろォォッ!」
校内放送で、加藤校長のハイテンションな開会宣言が響き渡る。
校長は今日、アロハシャツではなく、金ピカの羽織袴(どこから持ってきた?)で校内を練り歩いているらしい。
そして、俺たち1年B組の教室前には、開始早々、長蛇の列ができていた。
『サバイバル・ホラー脱出ゲーム:恐怖と筋肉の館』
※心臓と筋肉が弱い方はご遠慮ください。
入り口の看板(ベニヤ板に血文字と上腕二頭筋の絵)が、異様な威圧感を放っている。
「最後尾はこちらでーす! 並んでいる間にスクワットの練習をしてくださーい!」
呼び込みをしているのは、マッスルゾンビに扮した男子生徒たちだ。
客が困惑している。「え、ここお化け屋敷ですよね? なんでスクワット?」
第1エリア:マッスル・ゾーン
俺は実行委員として、内部の様子をモニター(覗き穴)で監視していた。
最初の部屋は、角田先生監修の「マッスル・ゾーン」。
「ひっ、行き止まりだ!」
「違う! よく見ろ、壁に指示があるぞ!」
『脱出したくば、このバーベル(20kg)を持ち上げろ』
「重っ!?」
「無理無理! 女子には重いって!」
「甘えるなぁぁぁ!!」
壁を破って、ゾンビメイクをした角田先生(隠しボス)が乱入する。
「ギャァァァァ!」
客は悲鳴を上げて逃げ惑う。
しかし、逃げる先には跳び箱(6段)や平均台が設置されており、強制的にアスレチックをさせられる羽目になる。
悲鳴と「イチ! ニ!」という掛け声が混ざり合う、地獄絵図だ。
第2エリア:オカルト・ゾーン(with 付喪神)
筋肉地獄を抜けた客がたどり着くのが、綿貫なのはプロデュースの「オカルト・ゾーン」だ。
ここは、照明を落とした純和風の不気味な部屋。
「はぁ、はぁ……やっと静かな部屋に……」
客が安堵した、その時。
カタカタカタ……。
部屋の隅に置かれた「狐の面」が、ひとりでに震え出した。
「えっ、あの面、動いてない?」
「気のせいだよ……電動ギミックだろ?」
客が近づくと、狐の面がフワリと宙に浮いた。
そして、その下の着物が立ち上がり、袖を振って手招きをする。
「う、浮いたぁぁぁ!!」
これはギミックではない。
櫻子先輩から借りてきた「付喪神」たちだ。
彼らは「久しぶりのシャバだ!」とばかりに、イキイキと客を驚かせている。
『ケケケッ! こっちだこっちだ!』
頭の中に響く声。
さらに、教室の四隅に撒いた「燐光の粉」が、彼らの霊気に反応して青白く発光し、幻想的かつ不気味な空間を作り出している。
「すげぇ! 演出凝りすぎだろ!」
「プロジェクションマッピングか!?」
客たちは恐怖しつつも、そのあまりの「リアルさ」に感動すらしている。
なのはさんは、陰でガッツポーズをしていた。
「完璧よ! まさか古田くんがこんな高性能な『自動演出ロボット(付喪神)』を作れるなんて!」
(……ロボットだと思ってるなら、それでいいや)
俺は冷や汗を拭った。
付喪神たちは、今のところ「驚かせる」という一線を超えていない。櫻子先輩の言いつけと、燐光の粉の制御が効いているようだ。
他クラスへの偵察
昼休憩。俺は赤城と交代して、少しだけ校内を回ることにした。
「よう古田! 盛況だな!」
廊下で、焼きそばを頬張る赤城烈兎に会った。
彼も実行委員の腕章をつけている。
「赤城のクラス(1年2組)はどう?」
「おう! 『リアル・ストラックアウト』だ! 客にボールを投げさせて、俺たち野球部員が動く的になって避けるんだ!」
「それ、客が楽しいのか?」
「当てるまで帰さないからな! 結構盛り上がってるぜ!」
体育会系の発想は怖い。
さらに歩くと、1年A組の前で人だかりができていた。
『純喫茶・文学少女』。
中を覗くと、大正ロマン風の袴姿で給仕をする塩原文子さんがいた。
「いらっしゃいませ。太宰になさいますか? それとも芥川?」
彼女は完璧な文学少女を演じているが、厨房で注文を捌く動きは、明らかにスクールアイドルのステップだった。高速移動でコーヒーを淹れている。
「……みんな、逞しいな」
地下への報告
夕方。初日の公開時間が終了した。
1年B組の出し物は、「怖すぎるし疲れるけど面白い」と口コミで広がり、大成功だった。
俺は片付けを抜け出し、旧校舎の裏へと回った。
夕焼けに染まる百葉箱。
「……先輩、聞こえるかな」
俺は百葉箱に手を触れた。
今日はワープはしない。ただ、報告だけだ。
「先輩。文化祭、大成功です。借りた小道具たち、すごくいい仕事してますよ」
風が吹いて、百葉箱がカタタッと鳴った。
まるで、「よかったわね」と返事をしてくれているようだった。
「……明日はもっと忙しくなりそうです。また報告に来ますね」
俺は百葉箱を一撫でして、教室へ戻った。
教室では、角田先生がプロテインで乾杯の音頭を取ろうとしていた。
「諸君! 明日も筋肉を唸らせろ!」
「「「オオーッ!!」」」
俺たちの文化祭は、まだ折り返し地点だ。




