第48章:二学期の幕開けと、開かずの地下室
9月2日、始業式
「えー、諸君。……よく戻ってきた」
体育館の壇上。
アロハシャツから一転、パリッとしたスーツ(ただしサングラス着用)に身を包んだ加藤校長が、全校生徒を見渡した。
「夏休みという名の冒険は終わった。今日からまた、この狭い教室という戦場での日常が始まる。だが、忘れるな。君たちが夏に得た経験値は、必ずどこかで役に立つ」
校長は、チラリと俺たちの方を見た気がした。
俺(補習地獄)、赤城(野球地獄)、なのは(オカルト地獄)、塩原(アイドル地獄)。
それぞれの地獄を生き抜いた俺たちの顔つきは、1学期とは違っていた。……たぶん。
「2学期は忙しいぞ。文化祭に、体育祭。青春のエネルギーを爆発させるチャンスだ。大いに悩み、大いに楽しめ。以上!」
校長のマイクパフォーマンスに、生徒たちが湧く。
七不思議が解決した今、今年の文化祭は平和に終わるのか、それとも……。
筋肉ダルマの指名
ホームルーム。
1年B組の教室に入ってきたのは、パッツパツのジャージを着た巨漢、担任の角田 角先生だった。
「よーしお前ら! 夏休みボケは抜けたか!?」
先生の声がデカすぎて、最前列の生徒がのけぞる。
黒板に、チョークが折れそうな筆圧で『文化祭』と書かれた。
「というわけで、ウチのクラスから実行委員を2名選出する! 青春の汗を流したい奴、手を挙げろ!」
シーンとなる教室。
文化祭の実行委員は激務だ。誰もやりたがらない。
「……いないのか? 男気が足りんぞ!」
角田先生が腕組みをして唸る。
その時、教室のドアが勢いよく開いた。
「失礼しやす!!」
入ってきたのは、隣のクラス(2組)の赤城烈兎だった。
「おっ、赤城か! どうした、他クラスへの殴り込みか?」
角田先生は、体育会系の赤城とは波長が合うらしく、ニカっと笑った。
「いえ! 1組の古田を借りたいんすけど! 野球部の秋大会の登録で……」
「赤城!? お前、勝手に……!」
俺が抗議しようと立ち上がった瞬間、角田先生の目がキラリと光った。
「ほう……古田と赤城、お前ら仲が良かったのか」
先生は俺を見た。その脳裏には、1学期に俺が先生の恋路(対 山口先生)を応援したことや、夏休みの補習で鍛えられたという噂がよぎったのかもしれない。
「よし、決まりだ。古田、お前が実行委員をやれ!」
「はい!?」
「赤城! お前もついでに2組の委員になれ! 二人でタッグを組んで、学校を盛り上げろ! これは命令だ!」
「えっ、俺もっすか!?」
赤城が目を白黒させる。
角田先生の「筋肉の決定」には、逆らえない圧がある。
「は、はい……」
「ウス……」
こうして、俺と赤城は、担任の独断と不運な事故により、文化祭実行委員に任命されてしまった。
閉ざされた扉と、百葉箱
放課後。
俺は実行委員の初会合の前に、旧校舎の裏へと向かった。
先輩に、新学期の報告をするためだ。
しかし、俺は百葉箱の前で立ち止まった。
(……行けないな)
夏休み中は、お盆の影響や合宿(校長の強力な干渉)のおかげで簡単に行き来できたが、今は新学期。学校の結界(境界)は強化されている。
あちら側へワープするには、脳が「死ぬ」と誤認するほどの「強い刺激」が必要だ。
始業式早々、階段から落ちたりタンスの角に小指をぶつけたりして保健室に運ばれるわけにはいかない。
それに――。
俺は、錆びついた地下への鉄扉を見た。
あの日、俺たちは七つのアーティファクトを地下に置いてきた。
あれは「鍵」だ。鍵が手元にない今、この扉は二度と開かない。櫻子先輩のいる「居城」へ歩いていくルートは、もう閉ざされているのだ。
「……手紙にしよう」
俺はノートを破り、メッセージを書いた。
『文化祭の実行委員になりました。忙しくなりそうですが、面白いことがあったら報告します』
俺は手紙を百葉箱に入れ、鍵をかけた。
1時間のタイムラグを経て、これは園芸部のポストに届くはずだ。
少し寂しいけれど、これが本来の距離感だ。
俺は「こちら側」で、精一杯やるしかない。
実行委員会の顔ぶれ
視聴覚室で行われた実行委員会。
集まったメンバーを見て、俺は頭を抱えた。
• 1年代表:古田降太(俺)
• 1年代表:赤城烈兎(野球バカ・巻き込まれ)
• 1年代表:綿貫なのは(オカルト枠・立候補)
• 2年代表:本田キティ(ボランティア枠・優雅に紅茶持参)
• 3年代表:四方山ヨミ(生徒会に闇の圧力をかけてねじ込んだ)
「……いつものメンツじゃないですか」
「ふふふ。我が魔窟(オカルト部)の研究成果を発表する絶好の機会だからな」
ヨミ部長が高らかに笑う。
「俺は焼きそば屋やりてぇ! 鉄板で直球勝負だ!」
赤城が叫ぶ。
「皆様、優雅に参りましょう」
キティ先輩が微笑む。
どうやら、今年の文化祭は、カオスになることが確定したようだ。
俺はため息をつきつつも、ポケットの中のスマホが震えた気がした。
百葉箱に入れた手紙への、先輩からの返事を想像して、少しだけ口元を緩めた。
「よし、やりますか」
俺たちの、騒がしい2学期が始まった。




