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第47章:勘違いの始業式と、ロスタイムの海


しかばねの部屋


「……ハッ!」

ガバッと起き上がると、そこはいつもの俺の部屋だった。

窓から強烈な朝日が差し込んでいる。

足の踏み場もない床には、力尽きた戦友たちが雑魚寝している。

机に突っ伏してよだれを垂らすなのはさん。

床で大の字になっている赤城(新聞紙が掛かっている)。

優雅に椅子で寝ているが首が痛そうなキティ先輩。

部屋の隅で体育座りのまま気絶している溝渕先輩と玄田部長。

「……終わったんだ」

机の中央には、全てのページが埋められた数学ドリルが鎮座している。

昨夜の死闘は夢じゃなかった。

「って、やばい! 時間!」

時計を見ると、8時15分。

始業式は8時半からだ。ここから学校までは走って15分。

「起きろおおおっ!! 遅刻するぞおおお!!」

俺の絶叫で、ゾンビたちが跳ね起きた。

「はっ!? 因数分解!?」

「敵襲か!?」

「ごきげんよう!?」

寝ぼけている暇はない。全員、顔も洗わず、制服のまま家を飛び出した。


幻の登校日


「はぁ、はぁ……間に合え……!」

俺たちは集団で通学路を爆走し、校門へと滑り込んだ。

しかし。

「……あれ?」

校門は閉まっている。

昇降口には鍵がかかっている。

校舎内は真っ暗で、人の気配がない。チャイムも鳴らない。

「え、今日、始業式だよね? 9月1日だよね?」

俺は震える手でスマホのカレンダーを確認した。

『9月1日(日)』

「…………あ」

そういえば、終業式の日に校長先生が言っていた気がする。

『今年は暦の関係で、始業式は9月2日だ。一日得したな、ガハハ』と。

「うそ、だろ……」

俺はその場に崩れ落ちた。

昨日の死闘はなんだったんだ。あの徹夜は。


逆転の発想


全員が呆然と立ち尽くす中、沈黙を破ったのはキティ先輩だった。

「……ということは、ですわ」

先輩は、徹夜明けのハイな瞳で言った。

「今日は一日、『完全に自由な時間』ということですわね?」

その言葉に、全員の顔が上がった。

「そうだ……! 俺たちはもう宿題を終わらせている!」

「何の憂いもなく遊べる、奇跡の1日……!」

赤城が叫んだ。

「海だ! 海行くぞオラァ! このまま帰って寝てたまるか!」

「賛成! 海で浄化されたい!」

なのはさんも拳を突き上げる。

徹夜明けの脳内麻薬エンドルフィンが分泌され、全員のテンションがおかしな方向に振り切れた。

「よし、行くぞ! 足は確保する!」

玄田部長がどこかへ電話をかけた。

数十分後。

校門前に、ボランティア部が懇意にしている「廃品回収業者の軽トラック(荷台付き)」が到着した。

「乗れぇぇぇ!!」

俺たちは荷台に乗り込み、海へと出発した。

ロスタイム・ビーチ

隣町の海へ到着した頃には、太陽は真上にあった。

俺たちは制服のまま、あるいは体操服(赤城と玄田部長はなぜか持っていた)になって、砂浜へ飛び出した。

「うひょぉぉぉぉ!! 冷めてぇぇぇ!!」

赤城が波打ち際でスライディングをする。

なのはさんとキティ先輩は、波と戯れながらキャッキャしている。

溝渕先輩は「海の家」の裏で空き缶を拾っている(ここでもブレない)。

俺は、砂浜に座り込んで海を眺めていた。

徹夜明けの体に、波の音が心地よい。

「降太、疲れてるな」

玄田部長が、焼きトウモロコシを差し出してくれた。

「ありがとうございます……。なんか、夢みたいです」

「ああ。これは、神様がくれた『ロスタイム』だな」

部長は笑って、海に向かって石を投げた。水切りが10回以上続く。

遠い人への絵葉書

ひとしきり遊んだ後、俺は海の家の売店で、一枚の絵葉書を買った。

青い海と、入道雲の写真。

「……送れるかな」

俺はペンを取り出し、メッセージを書いた。

『宿題、終わりました。海に来ています。先輩にも見せたかったです』

宛名は書かない。

俺はそれをリュックの奥にしまった。

あとで学校に戻ってから、百葉箱に入れよう。ここにはポストはないし、あってもパラレルワールドには届かないからな。

「古田ー! スイカ割りやるぞー!」

「今行く!」

俺は立ち上がり、仲間たちの輪の中へ走っていった。

「そこだ赤城! 叩き割れぇぇ!!」

「オラァッ!!」

赤城が棒をフルスイングする。

風を切る音が凄い。

(……これ、当たったら死ぬな)

ふと冷静になる。

ここは学校の外だ。結界の守護はない。

もしあの棒が俺の頭を直撃しても、ワープは発動しない。

ただ単に、頭蓋骨が割れて、救急車で運ばれて、痛い思いをするだけだ。

「ひぇっ……」

俺は一歩下がった。

ここには「逃げ場(裏世界)」はない。

だからこそ、この瞬間、この痛み(日焼けとか筋肉痛とか)も全部含めて、俺たちの「青春」なんだろう。

「割れたァァァ!!」

真っ二つになったスイカを見て、みんなが歓声を上げる。

俺も笑顔で駆け寄った。

俺たちの「終わらない夏休み」は、最高のロスタイムで幕を閉じた。


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