表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/95

第44章:ボランティア部の夏祭りと、神降ろしの夜 祭りの準備は戦場だ


8月20日。地元の鎮守の森にある神社では、夏祭りの準備が佳境を迎えていた。

俺たちボランティア部は、町内会からの依頼で、会場設営の手伝いに駆り出されていた。

「古田! テントの支柱、そっち持って!」

「アイヨッ!」

指示を飛ばすのは、ボランティア部部長・玄田宇宙げんだ そら先輩だ。

3年生の玄田先輩は、ボーイスカウト仕込みのサバイバル能力を持つ頼れるリーダーだ。

「よし、次はやぐらの設営だ。……しめ縄を持ってこい!」

玄田先輩は、巨大な紅白のしめ縄を手に取ると、櫓の柱に飛びついた。

「見よ! 必殺ロープワーク・『亀甲縛り・改』!」

「先輩、ネーミング!」

玄田先輩の手が残像に見えるほどの速さで動き、しめ縄があっという間に、美しく、かつ強固に結びつけられていく。

その結び目は芸術的で、神職の人たちも「おお……プロの仕事だ」と感嘆の声を上げている。

一方、ゴミ捨て場では、空き缶集めのスペシャリスト・溝渕福造先輩が、目を血走らせていた。

「祭りは宝の山だ……。アルミ、スチール、分別は俺に任せろ……!」

彼は両手に持った巨大なゴミ袋を操り、空中で空き缶をキャッチしては瞬時に素材を判別して分別している。もはや曲芸だ。

プロの現場と、野次馬たち

そんなカオスな現場に、一台の軽トラが乗り付けた。

降りてきたのは、作務衣姿の小柄な老婆。

俺の祖母、時田ときた あかねだ。(※仕事では旧姓を名乗っている)

「お疲れさん。……ふん、少し空気が淀んでるねぇ」

祖母は会場を見回し、やぐらの方へと歩いていく。

今日、祖母はこの祭りのメインイベントである「神降ろし(神事)」の儀式を取り仕切るために呼ばれていた。

「あ、お婆様! ごきげんよう!」

ボランティア部として受付を手伝っていた本田キティ先輩(今日は深窓の令嬢モード)が、丁寧に挨拶をする。

「おや、キティちゃんかい。精が出るねぇ」

祖母はキティ先輩に飴玉をあげると、俺の首根っこを掴んだ。

「降太、行くよ。神様が降りてくる『依りよりしろ』の準備だ」

「へいへい……」

俺たちが社務所の裏へ行くと、そこには既に怪しげな集団が待ち構えていた。

「……ここか。神聖な気配エーテルを感じる」

黒マントに眼帯のヨミ部長と、目を輝かせているなのはさん、そして気配を消しているツチノコ先輩。

オカルト研究部の面々だ。

「な、なんでここに!?」

「古田くん! 聞いたわよ! お婆ちゃんが『本物の神降ろし』をするんでしょ!? 見学させて!」

なのはさんが興奮気味に鼻息を荒くしている。

どうやら情報が漏れていたらしい。

「構わんよ。ただし、邪魔したら祓う(物理)からね」

祖母の一言で、オカルト部は「ヒェッ」となりつつも、大人しく見学することになった。


神降ろしの儀


夕暮れ時。祭りの喧騒が遠くに聞こえる中、厳かな儀式が始まった。

祖母・時田茜は、白装束に身を包み、祭壇の前で祝詞を上げ始めた。

「掛けまくも畏き……」

朗々とした声が響く。

空気の色が変わる。

ヨミ部長が「くっ……右目が疼く……これが本物の霊圧か……!」と震え、ツチノコ先輩が「……エネルギー値、上昇」と数値を読み上げる。

「降太! 御幣ごへいを!」

「はい!」

俺は、祖母に手渡された白い紙垂しでのついた棒を振った。

その瞬間。

ザザザァァァッ!!

突風が吹き抜け、境内の木々が激しく揺れた。

そして、やぐらの上に飾られた御神体が、ボワッと淡い光を放った。

「降りたよ。……今年も豊作だね」

祖母がニヤリと笑い、額の汗を拭った。

神様(のような良い気)が、無事に会場に満ちたのだ。

「す、すごい……! 今、光ったわよね!?」

なのはさんが大はしゃぎしている。

俺もホッとした。これで祭りは無事に開催できる。

祭りの裏の用心棒

夜になり、祭りは最高潮を迎えていた。

ボランティア部の面々も、それぞれの持ち場で楽しんでいる。

「いらっしゃいませー! 焼きそばはいかがですかー!」

屋台エリアの一角。

そこには、なぜか与市星一先生の姿があった。

頭にねじり鉢巻、黒いダボシャツ、首からタオル。

どう見ても、「その筋のテキ屋」にしか見えない。

「お、おい! そこのガキ! 焼きそば食うか!」

「ひぃっ! 買います! 全部買います!」

怯える子供たちに、与市先生は山盛りの焼きそば(肉増し)を渡している。

「先生……何やってるんですか」

俺が呆れて声をかけると、先生はコテをカチャカチャと鳴らした。

「おう、古田か。校長に頼まれてな。『祭りの警備』と『資金稼ぎ』の一石二鳥だそうだ」

「警備って……逆に客が逃げませんか?」

「失敬な。俺の焼きそばは『黄金比率』でソースを配合している。味は保証するぞ」

食べてみると、確かに数学的に計算され尽くした完璧な味だった。

隣の屋台では、キティ先輩(中華娘モード解禁)が高速で餃子を焼いており、二人の屋台だけ異次元の売上を叩き出していた。


夏の夜の地下室


祭りのフィナーレ。花火が上がる。

ドーン! という音が夜空に響く。

俺は人混みを離れ、キティ先輩の屋台で買った「お土産の餃子」と、与市先生の「焼きそば」を懐に入れ、走り出した。

向かう先は、夜の学校。旧校舎だ。

「……先輩、起きてるかな」

俺は息を切らして旧校舎の裏へと回り込み、地下への扉を開けた。

ひんやりとした空気が流れてくる。

長い階段を駆け下りる。

地下の広間。

そこには、いつものように櫻子先輩と加藤先生(25歳)がいた。

加藤先生は、地上での「校長」としての仕事を終え、こちらで涼んでいるようだ。

「はぁ、はぁ……先輩! 先生!」

「あら、ふるふる君。どうしたの、そんなに急いで」

先輩が驚いて駆け寄ってくる。

「これ……お土産です! 今、お祭りやってて」

俺は、まだ温かい焼きそばと餃子を差し出した。

「まあ! お祭りね!」

先輩は嬉しそうに笑い、包みを開けた。ソースの香ばしい匂いが地下室に広がる。

「与市の焼きそばか。あいつ、今年もテキ屋やってるのか」

加藤先生もニカっと笑って箸を伸ばした。

ドーン……ドーン……

地下室の分厚い壁を通して、微かに花火の振動が伝わってくる。

ここからは花火は見えない。

けれど、この振動と、ソースの匂いと、二人の笑顔があれば十分だった。

「……綺麗な音ね」

先輩が天井を見上げて呟いた。

「はい。……来年も、再来年も、また持ってきますから」

俺が言うと、先輩は少しだけ寂しそうに、でも幸せそうに微笑んだ。

「ありがとう。……楽しみにしているわ」

ほんの数十分の滞在。

でも、俺は確かに、二人と一緒に夏祭りを楽しんだ。

「行ってきます!」

俺は再び階段を駆け上がり、祭りの喧騒が残る現実世界へと戻っていった。

ボランティア部、オカルト部、祖母、そして地下の二人。

みんなが繋がった、騒がしくて温かい夏の夜だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ