第40章:真夜中の卒業試験と、ハワイへの片道切符
最終カリキュラム:実技試験
永遠に続くかと思われた地下合宿も、ついに終わりを迎えようとしていた。
与市先生が、チョークを粉々に握りつぶして宣言した。
「座学は終了だ。これより、最終実技試験を行う!」
「「「うおおおおおっ!!」」」
俺たちは雄叫びを上げた。やっと解放されるという喜びと、謎の達成感が混ざり合っている。
「試験会場は、この地下教室の外。『夜の旧校舎(裏世界)』だ」
先生はニヤリと笑った。
「ゴールは屋上。道中に巣食う有象無象の『雑念(下級霊)』を、お前たちが培った数学と直感と体力で突破しろ。……死ぬ気でな」
ステージ1:炎のノック
俺たちは地下から這い出し、夜の旧校舎の廊下に立った。
廊下の奥から、ゆらゆらと青白い火の玉が数十個、飛来してくる。
「ヒャハッ! 待ってましたァ!」
先陣を切ったのは、野球バカの赤城烈兎だ。
彼はポケットから愛用の硬球を取り出すと、マウンド(廊下の中央)に立った。
「おい火の玉ども! 俺の『守備範囲』を抜けるもんなら抜いてみろ!」
赤城は腰を落とし、構えた。
火の玉が、不規則な軌道で襲いかかってくる。
「そこだッ!」
赤城は、飛んでくる火の玉を素手でキャッチした。
与市先生直伝の「ベクトル計算」で熱くない箇所を見極め、直感で掴み取ったのだ。
「ナイスボール! ……お返しだァッ!」
ズバァァァァン!!
赤城は掴んだ火の玉を、剛速球で投げ返した。
投げられた火の玉は、後続の火の玉に直撃し、共倒れになって弾け飛ぶ。
「すげぇ……あいつ、火の玉でノックしてやがる」
「古田! お前もカバーに入れ! 二遊間組むぞ!」
「えっ、俺!? うわっ!」
赤城が撃ち漏らした火の玉が、俺の方へ飛んでくる。
俺は慌ててムチで叩き落とす……のではなく、回転に合わせてキャッチした。
「ナイスキャッチ!」
俺たちは、悪霊をボール代わりに、熱い連係プレー(キャッチボール)を繰り広げた。
ステージ2:文子オンステージ
「次は私の番ですわ!」
音楽室の前で、大量の騒音霊が楽器を鳴らして襲ってきた。
前に出たのは、図書委員の塩原文子さんだ。
「みんなー! 盛り上がってるー!?」
彼女はメガネを放り投げ、制服のリボンを解いた。
スイッチが入った。スクールアイドル・モードだ。
「聴いてください! 新曲、『微分積分のラプソディ』!」
文子さんは、廊下をステージに見立てて歌い、踊り狂った。
そのステップは完璧な計算に基づき、ポルターガイストの飛来物を華麗に回避する。
「♪積分しましょ、あなたの未練~! 極限超えて、昇天なさい~!」
キラキラしたオーラ(物理的な浄化光)が溢れ出し、騒音霊たちが「尊い……」と呻きながら成仏していく。
「すごい……文子ちゃん、輝いてる!」
なのはさんがペンライト(懐中電灯)を振って応援している。
文学とアイドルと数学の融合。カオスだが、美しい。
ステージ3:屋上への道
「よし、道は開けた! 全員、屋上へ走れ!」
俺たちは階段を駆け上がった。
最後尾を守るのは、加藤先生(25歳)と櫻子先輩だ。
「やるな、あいつら。俺の教え子にしちゃ上出来だ」
加藤先生がマチェットで背後の闇を払いながら笑う。
「ふふ。みんな、いい顔してるわ」
櫻子先輩も、楽しそうに後輩たちの背中を見守っている。
そして、俺たちは屋上のドアを蹴破った。
合宿の終わり
「ごぉぉぉぉぉるっ!!」
俺たちは屋上のフェンスになだれ込んだ。
そこには、裏世界の満天の星空が広がっていた。
現実では見えない、無数の星々。
「合格だ」
後から上がってきた与市先生が、短く告げた。
「お前ら、よく生き残った。赤点は回避できるだろう」
「やったー!!」
俺たちは抱き合って喜んだ。
赤城も、塩原さんも、なのはさんも、みんなボロボロだが、目はキラキラしている。
「……終わったんですね」
「ああ。長い夏だった(※現実時間ではまだ数時間しか経っていない)」
俺は、隣に立つ櫻子先輩と加藤先生を見た。
この二人がいたから、この無茶苦茶な合宿も乗り越えられた。
「先輩、先生。ありがとうございました」
俺が頭を下げると、先輩は優しく微笑み、先生はニカっと笑って親指を立てた。
「さあ、帰ろう。現実では、もう朝だぞ」
校長先生のバカンス
「へっ、くちゅん!!」
全員で盛大にくしゃみをして、俺たちは現実世界の校門前へと帰還した。
朝の日差しが眩しい。
蝉の声が聞こえる。
「……戻ってきた」
赤城たちは「なんか凄い夢見てた気分だわ」「数ヶ月ぶりに帰ってきた気がする」と言いながら、それぞれの家へ帰っていった。
彼らの記憶は少し曖昧になっているかもしれないが、体に染み付いた「生きる力」は消えないだろう。
ふと見ると、校門の横に、一台のタクシーが停まっていた。
その横に立っていたのは、アロハシャツにサングラス、麦わら帽子を被った加藤校長(79歳)だった。
手には大きなスーツケースを持っている。
「よう、諸君。お勤めご苦労だったな」
校長はサングラスをずらし、イタズラっぽくウインクした。
「先生! ……その格好は?」
「見れば分かるだろう。バカンスだ」
校長は空を指差した。
「君たちが頑張ってくれたおかげで、学校の結界も安定した。補習も終わった(ことにしてやる)。これで心置きなく……」
校長は満面の笑みで叫んだ。
「これでハワイに行けるワァァァイ!!」
「ダジャレですか!」
俺がツッコむ間もなく、校長はタクシーに乗り込んだ。
「あとは頼んだぞ、少年! アディオス!」
ブォォォン!
タクシーは砂埃を上げて走り去っていった。
本当に自由な人だ。でも、その後ろ姿は、どこか安心しているように見えた。
「……行っちゃった」
俺は呆れながらも、清々しい気分で夏空を見上げた。
地獄の合宿は終わった。
でも、俺たちの夏休みはまだ始まったばかりだ。
俺はリュックを背負い直し、蝉時雨の中を歩き出した。




