表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/92

第37章:ファンキーな終業式と、地獄の夏休み開幕


伝説の終業式


7月20日。1学期の終業式。

蒸し暑い体育館に、全校生徒が集められていた。

誰もが汗を拭いながら、早く終わらないかと校長の話を待っている。

壇上に上がったのは、アロハシャツにサングラス、そして杖をついた加藤校長だ。

マイクのハウリング音と共に、ガラガラ声が響く。

「えー、諸君。……夏だ」

校長は一言、そう切り出した。

「長い話はせん。いいか、この夏休み、勉強のことは忘れろ」

体育館がざわついた。先生たちが慌てている。

校長は構わず続けた。

「とにかく遊べ。本気で遊べ。教室の机にかじりついていては、絶対に見えない景色がある。遊びからじゃないと得られないものが、人生にはあるんだ」

校長はサングラスの奥から、生徒一人一人を見渡すように顔を巡らせた。

「ただし、約束が二つある。一つ、友達は大事にしろ。一生の宝になるぞ。二つ、周りに迷惑をかけるな。粋じゃない遊び方はするなよ」

生徒たちが、真剣に聞き入っている。

この人の言葉には、不思議な説得力があるのだ。

「最後に。……宿題は、私の権限で極限まで少なくしてやった」

「うおおおおおおおおっ!!」

体育館が揺れるほどの大歓声が上がった。

ガッツポーズをする生徒、ハイタッチする生徒。

教頭先生が頭を抱えて崩れ落ちている。

「だからこそ、必ずやってくるように。……以上だ」

校長はニカっと笑い、サングラスをクイッとずらしてウインクした。

「じゃあ、俺は一足先にハワイへ行ってくる。アディオス!」

校長は杖を回しながら、颯爽と壇上を降りていった。

生徒たちの「校長最高ー!」「行ってらっしゃーい!」というコールが鳴り止まない。

俺は苦笑いしながら、その背中を見送った。

(ハワイって……どうせ裏世界の園芸部でサボる気だろ……)

しかし、この時の俺はまだ知らなかった。

校長の「宿題減量キャンペーン」の恩恵を受けられない生徒が、ここに一人いることを。


絶望の通知表


教室に戻り、ホームルーム。

担任の先生から通知表が配られた。

「はい、古田くん。……頑張りましょう」

渡された通知表には、数学と理科の欄に、鮮やかな**「1」**が輝いていた。

そして、その下には一枚のプリントが挟まれていた。

『夏期特別補習のお知らせ(担当:与市星一)』

※対象者は、夏休み中の登校を義務付ける。

「……話が違うじゃないですか」

俺の夏休み(バカンス)は、始まる前に終わった。

校長室の密談

放課後。俺はプリントを握りしめ、校長室へと殴り込んだ。

「おう、来たか少年。通知表はどうだった?」

革張りのソファで優雅にアイスコーヒーを飲んでいたのは、さっき「ハワイに行く」と宣言したばかりの校長だ。

「ハワイはどうしたんですか!」

「心のハワイ(裏世界)はいつでもここにある。それより、補習の件か?」

「そうですよ! なんで他校の先生が、うちの補習を担当するんですか! しかも与市先生って!」

俺はプリントをテーブルに叩きつけた。

「教育委員会とか、どうやって説得したんですか!?」

「ふっふっふ。少年、君はまだ社会の仕組みを知らんようだな」

校長はニヤリと笑った。

「教育委員会の古い知人(元・保護観察対象者)に電話一本入れた。『与市を寄越せ。さもなくば昔の恥ずかしい写真をバラ撒くぞ』とな」

「脅迫じゃないですか!!」

大人の事情と、隠された親心

「人聞きが悪いな。これは『生徒のため』だ」

校長は真顔になり、窓の外を見た。

校庭では、部活に励む生徒や、解放感に満ちた下校中の生徒たちの声が響いている。

「夏休みは、気が緩む。事故や事件、そして『悪いもの』に魅入られる生徒が増える時期だ」

校長の目が、サングラスの奥で優しく細められた。

それは、まるで自分の孫たちが遊んでいるのを見守るような、温かく、少し心配そうな眼差しだった。

「だからこそ、最強の番犬(与市)が必要なのだよ。あいつがいれば、学校の結界が緩んでも、生徒たちに指一本触れさせん」

校長は俺に向き直り、ニカっと笑った。

「それにだ。補習があれば、君のような『危なっかしい生徒』を学校の監視下に置いておけるだろう? 目の届く範囲にいれば、私が守ってやれるからな」

「……え?」

「ん? いや、補習の話だ。サボったら与市に言いつけて、地獄の特訓コースだからな。覚悟しておけ」

校長は照れ隠しのように、ストローで氷をカランと鳴らした。

俺は少しだけ毒気を抜かれた。

この強引な人事は、コア探しのためだけじゃない。

俺を含めた、この学校の生徒全員を「自分の孫」のように思い、危険な夏休みから守ろうとする、この人なりの不器用な愛情なのかもしれない。

(……まあ、脅迫はどうかと思うけど)


開幕、地獄の夏


「さて、話は済んだな。私はこれから裏世界の園芸部で避暑地作りだ」

校長は立ち上がり、伸びをした。

「少年よ。夏を制する者は世界を制すだ。死なない程度に頑張れよ」

「……へいへい。校長先生も、長生きしてくださいよ」

俺が憎まれ口を叩くと、校長は一瞬驚いた顔をして、それから今日一番の優しい笑顔を見せた。

「ああ。善処しよう」

俺は肩を落としつつも、少しだけ温かい気持ちで校長室を出た。

廊下の窓から見える入道雲が、これから始まる激動の夏を告げていた。

「とりあえず……園芸部に行って、櫻子先輩に愚痴ろう」

俺は足取りも軽く、旧校舎へと向かった。

しかし、俺はまだ知らなかった。

この夏休み、学校の怪談たちが、暑さでさらにパワーアップして俺たちを待ち受けていることを。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ