第135章:チョロすぎる死神と、無限のボーナスステージ
空から降ってきた「新人」
6月下旬。期末テストが近づき、梅雨の晴れ間が広がる放課後。
俺、古田降太は、ボランティア部の活動で、屋上の排水溝掃除をしていた。
「あー、暑い。……なんで俺たちばっかり」
「文句言わないの、古田先輩。徳を積むチャンスですよ」
隣で箒を動かしているのは、2年生の安倍清和。陰陽師の末裔で、俺の可愛い後輩だ。
今のボランティア部は、3年の俺と櫻子先輩(新入部員扱い)、そして2年の安倍くんというメンバーで活動している。
「おーい、少年! 掃除は順調か?」
プレハブ小屋(校長室)の屋根の上から、メカ校長が声をかけてきた。彼は日光浴(ソーラー充電)中だ。
「サボってないで手伝ってくださいよ、先生!」
俺が言い返した、その時だった。
ヒュオォォォォ……!
上空から、何か黒いものが降ってきた。
カラス? いや、違う。
それは、黒いゴスロリ衣装に身を包んだ、小柄な少女だった。
「とぉっ!」
少女は華麗に着地……しようとして、排水溝の苔に足を滑らせた。
「あべしっ!?」
ドテッ!!
盛大な音を立てて、少女は俺の目の前でズッコケた。
手から離れた「巨大な鎌」が、カランカランと転がっていく。
「…………」
「…………」
俺と安倍くんは顔を見合わせた。
少女は涙目で顔を上げ、鼻血を拭いながら立ち上がった。
「い、痛くないです……! 私は、死神界のエリート……第13管区担当、雛菊小径! 今ここに推参!」
ビシッとポーズを決めるが、鼻にはティッシュが詰められている。
……なんだ、このポンコツ臭は。
厳格な審査と、異常な数値
「貴様らが、この学校のイレギュラーですね!」
小径ちゃん(と呼ぼう)は、鎌を拾って俺たちに突きつけた。
「前任のニャルラトホテプさんから引き継ぎはありませんでしたが……私の目は誤魔化せません! 死んだはずの人間が二人も! 明らかなルール違反です!」
彼女はビシビシと指差した。
1. 違反対象A: メカ校長(死んでるのにサイボーグ化)。
2. 違反対象B: 西野園櫻子(死んでるのに人形化)。
ちょうどそこへ、櫻子先輩がジュースの差し入れを持ってやってきた。
「あら。可愛いお客さんね」
「貴女ですね、西野園櫻子! 死者の蘇生は重罪です! 今すぐ魂を回収し……回収……し……?」
小径ちゃんは、櫻子先輩に詰め寄ろうとして、ピタリと止まった。
そして、持っていた「霊力測定器」をあちこちに向け始めた。
「……な、何ですかこの数値!? 学校中の至る所から、とんでもない量の『浄化済みエネルギー(徳)』が検出されています!」
「あら、そう?」
「異常です! 通常、学校というのは『テストの呪い』や『失恋の怨念』でドロドロしているはずなのに……ここはまるで『極楽浄土』みたいにクリーンです! 悪意が発生した瞬間に、何かの力で自動的に花に変換されている!?」
「ああ、それね」
櫻子先輩は、旧校舎の方角を指差した。
「去年の卒業生(宇多川先輩)が、学校全体に『聖なる結界(壁画)』を張っていったの。おかげで、この学校の生徒が悩めば悩むほど、勝手に浄化されてお花が咲くシステムになってるのよ」
「な……なんですって……!?」
小径ちゃんの手が震えだした。
彼女には分かったのだ。ここが、「寝ていても勝手にノルマ(魂の浄化数)が達成される、奇跡の全自動工場」であることに。
チョロインの陥落
「ねえ、死神さん」
櫻子先輩は、小径ちゃんの肩に優しく手を置いた。悪魔的な微笑みで。
「私や校長先生を連れて行ったら、この『システム』の管理者権限が狂って、元のドロドロ学校に戻っちゃうかもしれないわよ? でも、もしあなたが私を見逃してくれれば……」
先輩は、校庭に咲き乱れる見えない花々(ポイント)を指差した。
「この『無限に湧いてくるボーナスポイント』、全部あなたの実績として報告してもいいわよ?」
「えっ……い、いいんですか!?」
小径ちゃんの目が『¥マーク』ならぬ『魂マーク』になった。
「こ、こんなの……ここに住んでいるだけで、私は死神界のトップ成績に……! エリート街道まっしぐら……!?」
「そうよ。面倒な魂狩りなんてしなくていいの。あなたはただ、ここで私たちとお茶をして、たまに咲いた花を回収するだけでいいの」
先輩の甘い囁き。
小径ちゃんは、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「……お、お茶?」
「ええ。今の時期なら、『紫陽花パフェ』を食べに行ったり、『放課後カラオケ』に行ったり……」
「い、行きたいです! 私、死神学校が厳しくて、修学旅行も補習だったんです!」
「まあ可哀想。じゃあ、決まりね」
先輩が手を差し出すと、小径ちゃんはその手をガシッと握り返した。
「契約成立です! 私、今日からここで骨を休めます! ノルマなんて、この『宇多川システム』に任せておけばいいんです!」
「…………」
俺とメカ校長は、呆れて口を開けていた。
チョロい。チョロすぎる。
そして宇多川先輩、あなたの卒業制作は、ついに死神をも堕落させたようです。
期待の新人(ボランティア部)
翌日。
1年B組に、一人の転校生がやってきた。
「雛菊小径です! 趣味は……えっと、園芸(ポイント回収)です! よろしくお願いします!」
小柄で愛らしいルックスに、クラス中が「可愛い!」と沸いた。
だが、俺たちは知っている。彼女の目的が、学校のシステムにタダ乗りすることであることを。
放課後。ボランティア部の部室。
「新入部員、連れてきたわよ」
櫻子先輩が、制服姿の小径ちゃんを連れてきた。
「今日からお世話になります! 雛菊です! ここに入れば、堂々とサボ……活動できると聞きました!」
「……はぁ。よろしくな、雛菊」
俺はため息交じりに歓迎した。
これでボランティア部は、
「部長(霊感持ち)」
「部員(元地縛霊・人形)」
「部員(陰陽師)」
「部員(サボり魔の死神)」
という、いよいよ訳の分からない最強布陣になったわけだ。
「やったー! 私、後輩が欲しかったんです!」
唯一、何も知らない(というか大歓迎な)安倍くんだけが、目を輝かせて小径ちゃんにお茶を淹れている。
「先輩! お茶請けに『魂のクッキー』ありますよ!(※在庫限り)」
「もぐもぐ……んまぁ〜い! なにこれ、霊力が漲る〜!」
チョロい死神と、無限の浄化システム。
俺たちの3年生編は、ますます賑やかに、そしてカオスになっていくのだった。
(第135章 完)




