表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/150

第111章:帰りの新幹線と、嫉妬の周波数


祭りのあと


修学旅行最終日。 体験学習を終え、俺たちは帰りの新幹線に乗り込んでいた。 行きとは違い、車内は遊び疲れた生徒たちの寝息で静まり返っている。

俺の隣の席では、赤城烈兎がアイマスクをして爆睡していた。 斜め前の席には、綿貫なのはさんと塩原文子さんが座っている。なのはさんもウトウトしているようだ。

「……ふぅ」

俺はリクライニングを倒し、そっとスマホを取り出した。 バッテリーはまだ余裕がある。

「先輩。もうすぐ東京ですね」

イヤホンをつけ、小声で話しかける。 画面の中の櫻子先輩は、少し寂しそうに微笑んでいた。

『ええ。夢のような3日間だったわ。……ありがとう、ふるふる君』

「俺も楽しかったです。……文化祭が終わったら、またどこか行きましょう」

『ふふ。約束よ』

俺たちは、画面越しに見つめ合った。 物理的な距離はある。触れることもできない。 けれど、この3日間で共有した時間は、確かに俺たちを繋いでいた。 俺は、画面の中の先輩の笑顔を見て、自然と顔が綻んだ。


視線と、初遭遇


その時だった。

「…………」

視線を感じて、俺はふと顔を上げた。 斜め前の座席の隙間から、なのはさんがじっとこちらを見ていた。 起きている。そして、俺の手元を凝視している。

「あ、なのはさん。起きてたの?」

俺が声をかけると、なのはさんはゆっくりと立ち上がり、俺の席の横(通路)までやってきた。

「……古田くん。何見てるの?」

「えっ、あ、いや……動画とか……」

俺は慌ててスマホを伏せようとした。 しかし、なのはさんは覗き込んだ。

「……女の子?」

画面の中では、櫻子先輩が映ったままだ。 先輩は、見知らぬ女子なのはに見られたことに気づき、一瞬驚いた顔をした。 しかし、瞬時に状況を理解し(さすが年の功)、コホンと咳払いをすると、カメラ目線でニッコリと愛想笑いを浮かべた。 完全に「配信者モード」だ。

『は~い! 初めまして! 新人ライバーのサクラ・チャンです☆』

裏声だ。しかも、キャラ作りが若干古い(昭和のアイドル風)。

『あなたのことはマスター(古田)から聞いてるわよ! なのはちゃんね!』

「えっ、動いてる……? 今、喋った?」

なのはさんが目を丸くする。 絶体絶命だ。幽霊だとバレたらパニックになる。 俺は脳をフル回転させた。

「こ、これはアレだよ! 最近流行りの対話型配信アプリ!」

「配信?」

「そう! キャラクターのアバターを使って配信できる、新しいサービスなんだ! 今、ちょうど推しのライバーさんが配信してて……」

俺は必死に嘘をついた。 これなら「中に人がいる(ライバー)」という体裁で、会話が成立してもおかしくない。


嫉妬のスイッチ


「ふーん……。ライバー、なんだ」

なのはさんは、画面の中の「サクラ・チャン(先輩)」をじっと見つめた。 そして、俺の顔を見た。

「古田くん。……その子を見てる時の古田くん、すっごく優しい顔してたね」

「えっ」

「私には、そんな顔……見せてくれないのに」

なのはさんは、唇をギュッと噛んだ。 その瞳には、隠しきれない嫉妬の色が浮かんでいた。

霊感ゼロの彼女には、それが「幽霊」だとも、ましてや「あの櫻子先輩」だとも分からない。 ただの「デジタルのキャラクター」に見えているはずだ。 それなのに、彼女の勘は鋭く告げているのだ。 「この画面の中の存在こそが、自分が入り込めない場所にいる、最大のライバルである」と。


宣戦布告


「……あのね、古田くん」

なのはさんは、スマホの画面を睨みつけるようにして言った。

「私、負けないから」

「え?」

「Vtuberだかライバーだか知らないけど……。生身の私の方が、絶対に古田くんの役に立てるもん!」

彼女は、寝ている赤城の足を押しのけ、強引に俺の隣の席(赤城の膝の上ではなく、通路側の肘掛け)に座り込んだ。

「文化祭! 私も頑張るから! ……だから、私のことも見てよ!」

なのはさんは、俺の腕をギュッと掴んだ。 その手は震えていて、熱かった。

『……あら』

画面の中で、先輩は少しだけ眉をひそめ、複雑そうな顔をしていた。 怒っているわけではない。ただ、なのはさんの真剣な想いと、自分に向けられた敵対心に、何かを感じ取っているようだ。

「……分かった。文化祭、一緒に成功させような」

俺は、なのはさんの頭をポンと撫でた(子供扱いして誤魔化した)。

「むぅ……。誤魔化さないでよ……」

なのはさんは不満げに頬を膨らませたが、腕を離そうとはしなかった。


東京への帰還


新幹線が東京駅に滑り込む。 俺たちは日常へと帰ってきた。

「じゃあな古田! 明日から文化祭準備、ラストスパートだぞ!」

起きた赤城が元気に手を振る。 なのはさんも、自分の荷物を持つと、最後にとスマホをジッと見てから言った。

「また明日ね。……サクラちゃんにも、よろしく」

その言葉には、ライバルへの宣戦布告と、少しの意地が混じっていた。

「……はい」

俺はスマホをポケットにしまった。 修学旅行は終わった。 しかし、俺を巡る(?)人間関係は、ここからさらに複雑になりそうだ。

「帰ろう、先輩」

イヤホン越しに、先輩の苦笑いが聞こえた。

『ええ。……ふふ、ライバル登場ね』

俺は頭を抱えながら、改札を抜けた。 次は文化祭本番。 筋肉とオカルト、そして「乙女の嫉妬」が渦巻く、波乱のイベントが幕を開ける。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ