感想コメントゼロ。評価ももらったことがない私がランキング入りした【超短編_約1000字→2分】
「この作品を削除します。よろしいですか?」
削除ボタンにカーソルを合わせたまま、私は深呼吸した。
二年間、自分なりに頑張ってきたつもりだった。web小説サイトへの創作小説の投稿。重ねた文字は、10万字を超える。
感想コメントはゼロ。評価ももらったことがない。ブックマークは数度設定されたことがあったが、いつの間にかなくなっていた。
書くのは好きだった。でも、誰にも読まれない、求められていないことを突き付けられるのは苦しかった。もう、虚しさに勝てない。
……今夜で、終わりにしよう。
最後に小説サイトのTOPページを見た。毎日訪れたこのサイトも、きっともう、二度と見ることはないだろう。
……息が詰まった。私の小説が、TOPページに表示されている。
週間ランキング4位。
慌てて作品の詳細ページを表示した。アクセス数は急上昇。評価ポイントも更新ボタンを押すたびに増えて行く。そして、感想コメント。
「ずっと読んでました!」
「続きが気になります」
「もっと評価されても良い」
指先が震えた。何が起こったのか、わからない。信じられない。
SNSで誰かに紹介された?もうその位しか思いつかない。
コメントに返信を打つ。ありがとうございます。読んでくれて嬉しいです。これからも頑張ります……
興奮で呼吸が乱れる。叫びだしたい欲求を、なんとか抑えた。
気が付くと、夜が明けていた。
昼過ぎに目が覚めると、ランキングから私の作品は消えていた。
4位どころじゃない。TOP10にも、TOP100にもない。いつものランキング選外だ。
そして、TOPページに赤い文字の、重要なお知らせ。
「ランキング集計システムの不具合について」
今度こそ、私は言葉にならない叫び声をあげた。
怒りと羞恥に、涙がにじんだ。
昨日のあれは単なるバグだった。
今度こそ、削除しよう。いや、もっと前に消しておくべきだった。
何百時間も費やした。休日も夜更けも体調を崩した日も。うまく表現できない一文のために何十分も悩み、比喩ひとつに心を削った。
もうやめよう。もう二度とするものか。創作なんて。全部無駄だった。
ああ、それにしても。
その最後に、なぜこんな思いをさせられなければならないのか。
感想コメントも消えていた。あれも、私に向けたものじゃなかったのだ。
いや。
コメント欄に、ひとつだけ。
ひとつだけ残っていた……いや、新しく書き込まれたコメント。
「次の更新を楽しみに待ってます」
私は頭を抱えた。涙があふれてくる。
一人。一人は読んでくれた。昨日の熱狂は幻だったが、一人は。
一晩だけの数字が、頭の中で何度もちらつく。そして目の前の、自分の作品への、たった一つの本当のコメント。
嬉しいのか、悔しいのか、悲しいのか、自分でもわからない。
私は、声を上げて泣いた。
……一つ確かなことがある。
一人、私の更新を待っている人がいる。
だから、きっと。
明日も、私は文字を積み重ねる。