帝都で恋に落ちた男爵家次女は同郷の騎士爵を口説く
「じゃあ私と結婚しようよ」
思わず口をついて出た。
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同じ町で育ったけれど幼なじみというほど親しくもなかった私たちは卒業して、就職した騎士団で同僚になった。
ティモシーは騎士として私は事務とヒーラー兼務で採用されたあと、時々一緒に過ごすようになった。
帝都で寮に入った私とは別でティモシーは彼の祖父が騎士爵を賜った時に一緒に貰った家に一人暮らししている。
こじんまりした邸宅には煉瓦造りの暖炉と彼の祖父がコツコツ集めた本だらけの部屋があった。
始めは「本を見せてもらう」きっかけだったのに気付けば週末ごとに入り浸るようになっていた。
二人で朝からスープを煮込んでみたり、おやつのクッキーを焼いたりする中で、すっかり好きになってしまっていた。
何度目かの二人で過ごす休日。
何か面白い記事を見つけたのだろうか。長椅子に寝転んで新聞を読んでいたティモシーがガハハ、と大きな笑い声を上げる。
仲良くなり始めてすぐ本当はそこまで社交的でないのに声が大きいせいで明るいと誤解され、色んなところへ連れ出されると悩みを打ち明けてくれた。
たわいない話が続く。
こういうのが幸せなんだろうなとぼんやり噛み締めていたら
「俺は一生独り身だしな〜」
呑気にそう口にした。
別にアピールしてた訳じゃない。
ーー今すぐ付き合ってとかそう言うのじゃないけどさあ
なんとなく悔しくなって口から出た「結婚しようよ」
「そ、そういうのは好きなやつに」
長椅子から身体を起こした顔は明らかに狼狽えている。
「好きだよ」
ーー嗚呼今日言うつもりじゃなかったのに
ダメ押しで続ける。
「ティムが好きなのに」
「ダメなの?」
バチっと視線が合わさって暫くしてティムが目線を落とす。
少し間をおいて口を開く。
「いやうん、」
「セーラのことそんなふうに考えたことなく」
カウチから立ち上がって言葉を遮る。
「私が他の誰かと結婚して、」
「会えなくなっても」
「ティムはそれでもいいの?」
見下ろしたティムは見るからに困った顔をしている。
少しの沈黙のあと
「お、おれでよければ」
え、と思わすわ声が漏れる。今度はこちらがたじろぐ。その場で良い返事がもらえることは想定していなかった。
「いやもう会えなくなるとか…」
「…それは嫌だなって思って」
恥ずかしくなったのだろうか。どんどん声が小さくなる。
「だけど、」
急に真面目な顔をして続ける。
「応えられなかったらごめん」
そういう生真面目な所が好きで、今は嫌いだ。
ここで仮に私と付き合わなかったとしても、他の誰かの押しに負けて付き合って、断り切れずに結婚するのは目に見えてる。
「だけど」
一歩近づく。ティムがたじろぐのを感じる。
「…好きになれなかったとして」
「断れるの?」
う、と呻き声をあげて目が泳ぐ。
「それなら、私にしときなよ」
ね?と笑いかけた。