第二章
ランニングをして準備体操が終わったらキャッチボールだ。善三は照とキャッチボールを始めた。初めは近い距離からだんだん距離をとっていく。照の伸びのあるボールを受け止め、照の胸元めがけ正確にボールを返す。しばらく通常の距離でキャッチボールを続けた後、さらに距離をとって遠投に入る。善三は体が小さいうえ肩も弱く遠投が苦手だ。何とかノーバウンドで届かそうと大きく振りかぶったその時に事件は起きた。
善三は身長129センチメートルで体重は29キログラムしかない。足の大きさも22センチメートルと小さい。それでもスパイクのひもは大人用のスパイクと同じ長さのものが付いている。なのでスパイクのひもを蝶々結びに結ぶと大きな輪っかができるのだが、それを地面にだらりと垂らして善三はいつもプレイしていた。
ご存じのように野球のスパイクには金属製の爪が足底についている。ボールを思いきり遠くへ投げようとして左足を踏み出そうとしたとき善三の左足のスパイクの爪が右軸足のスパイクの蝶々結びの輪っかに引っかかってしまったのだ。踏み出すべき左足が出ずに、つんのめるように善三は左手から地面に倒れた。(うわっ、こげでまった。めぐせ。)
慌てて左手を地面について立ち上がろうとしたが、左手を地面につくことができない。善三は思わず左手を見た。七分袖のアンダーシャツの先にあるはずの左手が見当たらなかった。と同時にものすごい激痛が襲ってきたのだ。 つづく