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第5話『迫る期限』

 目を開ける。

 見慣れた天井は騎士団の宿舎。……ではなく、街にある家の自室。

「ぅん……」

 可愛らしい声がしてごろんと左側を見ると、マヒロがすやすやと眠っている。可愛い。

 マヒロは寒いのか、こちらにすり寄ってくる。その感触は温かくて柔らかい。間違いなく、俺もマヒロも生きている。

 愛しさが込み上げて、抱きしめた。


 あの後――俺が邪竜を街から引き剥がして一人戦ったあの後だ。

 俺は死んだと思った。最後の突撃は即死ではなかったが、致命傷だった。助かるはずがない。

 けれど俺は生きている。

(まさかマヒロがエリクサーを作ってくれてたなんて)

 回復薬の頂点エリクサー。死んでさえいなければどんな傷も治すという薬。その材料の入手はとても大変なのだが、マヒロは仮にもプレイヤー。どこで手に入るのか知っていた。知っていても、大変なのは違いないのだが。

 最後の素材は邪竜の封印が解けた直後の封印石周辺にしか出現しないそうで、マヒロはあいつに頼んでそれを取りに行ってくれたんだとか。封印石の周辺など、魔物であふれる危険地帯だったにも関わらず。

 そして材料を抱えた状態で俺のところまでやってきて、最後の調合をして薬を完成させ、俺に飲ませてくれたのだ。あの時「もう少し待って」と言っていたのはエリクサーが出来るまでということだったわけだ。

(あーでももうちょっと起きておけばよかった。そうしたらマヒロが口移しで飲ませてくれたの実感できたのに)

 完全に俺が気を失った後でマヒロが必死にあの小さな口で飲ませてくれたらしく、記憶がないのが非常に残念でならない。

「そんなんなくてええの!」

 残念がったらマヒロが真っ赤になって怒った。ほんと可愛い。

 あの日からしばらく経っている。

 俺は傷こそ治ったとは言え、血を失っていたし、邪竜や魔物が暴れたあとの処理もあった。俺が助かっても少なからず犠牲者は出た。けれども、邪竜を街の外へおびき出せたことで被害は最小限に済んだと上司からは褒められた。

「ゲイル……よくやった」

 正直、悪い気はしなかった。一部では英雄などと囁かれているらしく、さすがにそれはむず痒かった。


 少し街の様子が落ち着いた頃、あいつらが旅立った。逃げた邪竜を追いかけ、最後の戦いを挑むためだ。

 団長もついて行ったため、中々俺も自由な時間が取れない。その合間をつかって、少しでも長くマヒロと過ごしていた。

 あいつや団長たちならば、間違いなく邪竜を倒して帰ってくるだろう。

 喜ばしいことだが、邪竜が倒れれば、エンディングも近づくということ。――別れは迫っている。

「……マヒロ、起きて」

 声を掛けるが眉が少し動くくらいで起きない。その白い首には昨晩つけた痕が見えて、痕がついていないところに唇を寄せた。

「ちゅっ、んぅ、マヒロ、マヒロ」

 だんだん物足りなくなって体を起こし、マヒロを上から見下ろす。初めて出会った時のように何も纏っていないマヒロ。あの時と違うのは、そのみずみずしい肌のあちこちに俺がつけた証があることだ。

 横になってなお存在を主張している乳房に触れる。しっとりとした肌が吸い付く。指が沈む。柔らかいが張りもあって、どれだけ揉みしだいても飽きそうにない。

「んっ、ふ」

 マヒロは起きない。くすぐったそうに軽く体を揺らし、揉んでいない胸をぷるリと揺らした。まるでそちらも触って欲しいと言っているようだ。

「うん、良いよマヒロ。こっちも揉んであげる。可愛いこの先端を弄りながら、ね」

 下から持ち上げるように揉みしだきながら、指の腹で乳首をこするとマヒロの身体が小刻みに揺れる。寝ているのに感じて可愛い。

 でもさすがにそろそろ起きてほしいので、固くなった乳首をつまんで引っ張る。

「ひゃぁんっ!」

「おはよう、マヒロ」

「え? ぁ、おはよう、ゲイル……んんむっ、ちゅぷっはんっ」

 ようやく起きてくれたので、可愛い口をふさぐ。寝ぼけながらも首を振って抵抗しようとしているのも可愛い。

 抵抗を押さえつけても良かったけど、マヒロの抵抗に合わせて開放すると、たったこれだけで息を乱して頬を赤らめていた。可愛い。

「ちょっとゲイル! 今日は大事な会議があるって……あ、ちょっと、んんっ」

「うん。そうなんだよね。だから……早くすませないとね」

「そういうことじゃなっ、あんっあ」

「いいの? 長引くと、この前みたいに呼びに来られちゃうけど」

 抵抗しようとしていたマヒロは、その言葉に動きを止めた。なので遠慮なく続きをしていく。

「マヒロ、好きだよ」

 まだ文句を言いたそうな彼女を真正面から見て笑いかければ、不満げに睨まれる。そんな顔すら可愛い。

「ね、だからマヒロ……チューして?」

 俺の首におずおずと腕が回ってきたのは、その数秒後のことだ。


* *


 そんな風に、できる限りそばにいても……満たされるどころか乾いていくようだった。

 どこまでたどり着いたかの知らせが届く度、上司たちが無事で良かったと思うのと反面、別れが迫っていて苦しくなる。

 素直に死んでいたらこの苦しみもなかったのだろうけれど、死んで良かったとは、もう思わない。

「副団長!」

 そんな中、執務室に部下が駆け込んできた。相当急いだのか、肩で息をしている。何か問題でも起きたか、と身構えた。

 身構えたのは正解だった。

「団長たちが、邪竜の討伐に成功したようです!」

 この時俺は、ちゃんと笑えた自信がない。


――もうすぐ彼女は元の世界に帰る。

たとえ生き残っても、その先に待つのは別れ。

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