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第6話 頑張った一日

「お父様……もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」


 しばらくして、アリーゼは泣き止んでそう言った。

 俺は抱きしめていた彼女を離すと目を見て聞いた。


「本当に大丈夫かい?」

「はい。もう問題ありません」


 その目はしっかりとこちらを見ていた。

 彼女の言う通り、本当に大丈夫なのだろう。


「じゃあ、俺は他のみんなに事情を説明しに行くから、ここで待っていられる?」

「はい。分かりました」


 アリーゼはそう頷いた後、申し訳なさそうに視線をそらして謝ろうとした。


「あの、お父様……」

「謝罪はいらないよ。アリーゼは立派なことをしたんだからね。ちょっとの失敗くらい、目をつぶれるほどに」


 俺はそんなアリーゼの謝罪に被せるようにそう言った。

 本心だった。

 こんなに一生懸命頑張って、お披露目会を成功させようとして、ちょっと最後に失敗してしまっただけのアリーゼを、誰が責められよう。

 もしこの失敗を責めようとするやつがいたら、俺が一発ぶん殴ってやる。

 相手が公爵とか王族だったとしても。


「それじゃあ、行ってくる」

「……お父様」

「どうした? 謝罪は受け取らないぞ?」

「いえ、謝罪ではなく……ありがとうございます、と感謝の言葉を」


 そう頭を下げる娘に、俺はその頭の上に優しく手を置いて、こう言った。


「おう。困ったら父さんに全部任せておけ。アリーゼの問題は全部俺が解決してやるからな」



   ***



 広間に戻ると、どうしたことか、みんな長閑に談笑していた。

 俺がその様子に呆然としていると、代表してベルジェ公爵が近づいてきてこう言った。


「若く、最低限しか社交界に顔を出さない君からすれば不思議かもしれないけどね、ああいった子は案外毎年数人いるものなのさ」

「そうだったんですね……」

「ああ。だが、その後の対応は結構人それぞれに分かれるものだよ。賞賛に値する人もいれば、侮蔑に値する人もいる」


 そう言って彼はにっこりと笑った。

 それはどういう意味なのだろう……。

 もしかして褒められているのか……?


「で、君の娘は休んでいるところかね?」

「え、ええ……」

「そうかそうか。それは何よりだ。――さて、と、美味しい料理とワインも十分に堪能できたし、我々は退散するとしよう」


 そう言って帰っていこうとするベルジェ公爵。

 この中で一番偉い公爵家が退散と言ったら、みな退散せざるを得ない。

 彼の退出を皮切りに、ドンドンと貴族たちが帰って行った。


 そして最後に残ったジンが、俺に一言こう言って帰って行った。


「さっきのお前、格好良かったぜ。あの時、レーアを助けた時を思い出したよ」


 ようやくみんなが帰り、がらんとした広間になった。

 俺はその壁に背中を預け、へなへなと倒れこんだ。


「あー、流石に疲れたな……」


 そう呟いた後、俺は先ほどの会話を振り返る。


「しかし……借り、作っちゃったかなぁ……」


 ベルジェ公爵のあの立ち回りには本当に助けられたが、これは完全に借りになってしまった。

 婚約を打診してくれている相手に借りを作ってしまったということは、なかなかどうして素直に感謝できない理由になっていた。


 俺は何とか立ち上がると、メイドたちに片づけを命じて、再びアリーゼのもとに向かった。


「お父様、もう大丈夫なのですか?」

「ああ。みんな帰られたよ」


 俺がそう言うと、彼女はしゅんとしてしまった。

 それを見て、俺は自分の言葉が、アリーゼのせいで帰ってしまったという風に捉えられたかと思って、慌てて言葉を付け加えた。


「あっ、いや、アリーゼのせいではなくてね。もともとそんな長い会の予定でもなかったし、それにみんなアリーゼのことを褒めていたよ」

「本当ですか……? どうして……私、あんなに失敗したのに……」

「そもそもさ、失敗なんて誰だってするものなんだ。大事なのは、自分なりに頑張って成功させようとしていたことと、失敗をしても反省できるということなのだからね」


 ちなみにアリーゼのことを褒めていたというのは本当のことだった。

 帰り際、みんな俺に一言、君の娘は将来有望だなと言って帰って行ったのだ。

 それがなぜなのか、どうしてそう思うのか、今はまだ、それをはっきりと理解できるほどの人生経験はないものの、俺より年配の貴族たちはみな口を揃えてそう言っていた。


「それじゃあ、アリーゼ。着替えて、普段の格好に戻ろうか」

「はい、お父様」

「それと。今日は頑張ったからね。お願い事をなんでも一個聞いてあげよう」


 俺がそう言うと、彼女はぱあっと表情を明るくさせた。


「お願い事ですか!?」

「ああ。なんでも言ってごらん」


 その言葉に、彼女はう~んう~んと考え始めた。

 それからすぐに思いついたのか、彼女は少し恥ずかしそうにこう言うのだった。


「あの……今日だけは一緒に寝たいんですけど……良いでしょうか?」

「ああ、もちろん、それくらいなら、構わないよ。逆にそれだけでいいのかい?」

「はい。それがいいんです」

「よし。それなら今日は一緒に寝ようか」

「やった! ありがとうございます、お父様! 本当に大好き!」

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