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転生して十年が経った。悪役令嬢の父になった。  作者: AteRa
第二章:関係の物語

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第50話 準備をします

 数週間後、フローレは生後数か月ほどになり、まだまだ赤ん坊ながら、小さな笑顔や「あ~」といった声を出して家族を和ませていた。

 アリーゼが隣で声をかけると、きょとんとした顔でそちらを向き、たまにほんのりと笑うような表情を見せることもある。

 フローレが笑った! と大騒ぎするアリーゼの声が、屋敷の廊下まで響く。


「お、お父様! フローレが今、あーって言いました! すごいですよね!? もう言葉が出そうなくらい……!」

「ははっ、まだ言葉ってほどじゃないだろうけどな。でも嬉しいよな」


 アリーゼは相変わらずお姉ちゃんの立場に誇りを抱き、自分が一番フローレのことをよく分かっていると言わんばかりだ。

 俺としては彼女の成長が微笑ましくもあり、妹の誕生でアリーゼが更に頼もしくなったように感じる。



   ***



 そして、ついに約束の一ヶ月が近づいてきた。

 ディルクが泊まりに来るのは一週間だけだが、その間にシャルロッテも訪れる日が重なる。

 アリーゼはせっかくだし、二人にフローレを見てほしいと張り切っている。

 セバスやメイドたちもお客様用の寝室は大丈夫か、お茶の準備はどうするかと慌ただしく走り回っていた。


「アリーゼ、来客続きでフローレがびっくりしないよう、部屋の空気をしっかり換気してくれよ。あと、にぎやかすぎるのも困るからな」

「はいっ、お任せください! 妹のために万全の態勢を整えます!」


 アリーゼは自信満々に答え、さらにシャルに見せたいものをメモした紙を取り出して


「この辺りの庭の花がキレイでしょう? あと練習用のスペースも紹介したいし……」


 と楽しそうだ。


 一方で、ディルクに関しては婚約の話をどう切り出されるか分からないから、俺も少しだけ心の準備をしている。

 もちろん、最終的にはアリーゼの意思が一番大事なわけだが、ディルクの努力や貴族社会の慣例もあるから、複雑なところだった。


 そんなこんなで、バタイユ家は静かな忙しさで満ちていく。

 フローレの存在は屋敷全体を明るく照らしているようなもので、使用人たちにも笑顔が増えた。


 アリーゼは花を摘んできては妹の隣に飾り、折り紙のようなものを作ってはフローレのためと置いておいていた。

 そんなアリーゼを見てレーアは微笑みながら言った。


「フローレはまだ見分けつかないわよ?」

「いいのです、雰囲気が大事ですから!」


(みんな、楽しそうでなによりだ。うちに来るディルクとシャルロッテにも、この空気がいい影響を与えるといいが……)


 俺は心の中でそう願いつつ、玄関先で来訪者を迎える姿を想像してみる。

 ディルクはどんな顔でフローレに対面するんだろう。

 シャルロッテはアリーゼとの友情が一段と深まることだろう。

 もしやそのあいだに二人同士が仲良くなりすぎて、アリーゼが焦る……なんて展開になるかもしれない。

 いずれにせよ、若い世代が一堂に集まるのはにぎやかで楽しくなるはずだ。



   ***



 夜も更け、フローレが眠ったあと、レーアはくたびれた様子でベッドに横たわりながら「これから忙しくなるわよ?」と俺に言った。

 俺はベッドサイドに腰かけて、穏やかな微笑を返した。


「ディルクとシャルロッテか……。まあ、無事に過ごせればいいが。婚約の話がどう絡むか分からないから、少し気を張らないとな」

「大丈夫よ。もし何かあれば、あなたがアリーゼたちを助けるんでしょう? 私も最近体力は戻ってきてるし、フローレの面倒はこの家族みんなで見られるもの」

「……そうだな、ありがとう」


 レーアの言葉に、俺は肩の力が抜けるように感じた。

 結局、家族で支え合えば、そうそう大きなトラブルにはならないだろう。

 脳裏には、アリーゼがかわいがるフローレと、その横で少し戸惑い気味のディルク、そして嬉しそうに微笑むシャルロッテの光景が浮かんでくる。

 実際にその場面が見られるのは一ヶ月後。


(きっと、これは新しい始まりの予感に違いない)


 俺はそう思いながら、レーアの手を取って部屋の灯を静かに落とした。

 バタイユ家に、再び活気溢れる日々がやってくる。

 ディルクがどう出るか、シャルロッテは何を感じるか。いずれにせよ、娘たちにとって大切なひとときになることだけは間違いない。


―――こうして、穏やかな闇が一日の幕を下ろす。


 だが次の日から始まる準備や、近づいてくる客人たちとの再会が、屋敷を心地よいざわめきで満たしていくのだろう。

 赤子と姉と友人たちが織り成す物語は、ここからが本番なのかもしれない……。

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