第44話 お手紙
○○年○月○日
初めてのお友達 アリーゼへ
私、あまり言葉では素直になれないみたいだから、こうして手紙で本心を伝えさせて貰いますね。
口下手というのかしらね、こういうの。
こう……言葉にしようとするとすぐに詰まってしまうというか、本心を伝えられている感じにならないの。
この気持ち、アリーゼにも分かるかしら?
……いえ、アリーゼはとても直接的に言葉にしてくれるものね。
分からないわよね、この感覚。
まあいいわ。
アリーゼがあの時、ちゃんと言葉にして伝えてくれたから、私たちは友達になれたのだもの。
とても嬉しかったのよ?
おそらく私の父もそうなのでしょうね。
口下手で、絵でしか感情を伝えることが出来ない。
だからあんなに絵が評価されるのでしょう。
でも……家族としては困ったものだわ。
ちゃんと言葉にして伝えて貰わないと分からないことだってあるのに。
私も人のこと、言えないけれどね。
あ、でもそういえば、あの後家族だけでまた誕生日会を開いたんですの。
お父様もお母様もみんなで、美味しいご飯を食べましたわ。
お母様はお父様の不器用さに呆れていましたけれどね。
……そういえば、まだアリーゼにお母様を紹介していませんでしたわね。
今度会う時にでも、紹介しますわ。
私のお母様はとても気が強い方ですので、心の準備だけはしておいてくださいな。
――アリーゼ。
貴女がお父様にとても愛されていると社交界で噂になっていましたけど、それが何故だかは教えていませんでしたね。
それはほとんど社交界に出てこないものですから、愛されすぎて出してもらえないんじゃないか、って言われていたのよ。
でも、貴女のお父様と話してみた感じ、ちょっと違う理由そうよね。
そこら辺のことも、お返事頂けると私も嬉しいですわ。
貴女のお友達 シャルロッテより
○○年○月○日
大事なお友達 シャルロッテへ
お手紙ありがとう!
私、お手紙を貰ったの初めてだから、とても嬉しかった!
ふふっ、何だかお友達っていいですね!
こうしてお手紙を通わせているだけで、何だか心が温かくなります。
……口下手。
その気持ち、私にも分かりますよ?
自分の本当の気持ちを伝えるのって、勇気がいリますよね。
恥ずかしいとか、受け入れてくれるかなとか、そんなことを考えて考えて、結局口に出来ない。
私にもたくさん覚えがあります。
でも、私は勇気を振り絞って伝えるようにしているんです。
以前ウチで働いてくれているシスターさんに言われたんですけど、後悔する前に気持ちは伝えておかないといけないんです。
そうしないと、本当に後悔することになるって、私は身を持って体験しました。
だから、どんなに恥ずかしくても、どんなに不安でも、本当の気持ちを伝えるようにしています。
ちなみに、私の家の見習い執事にカイという子がいるんですけど、彼も正しく口下手です。
(この間も私のドレス姿を見て、別にと言ってウチの執事に怒られていました!)
ふふっ、だから、シャルロッテも私に本当の気持ちを思う存分ぶつけてください。
ほら、そっちのほうがお友達っぽいでしょう?
そして、私が社交界に出られなかった理由は、今度会った時に直接お話ししますね。
これには長い長い冒険の話があるので、是非楽しみにしていて下さい。
きっとシャルロッテは驚きワクワクしドキドキすることになると思います!(横線で消してある)
……あ、でも、ハードルを上げすぎると落差でつまらなく感じてしまうかもしれないので、今のはなしで!
あ、そうそう!
後一つ、聞きたいことがあったんでした!
あの……シャルロッテの愛称ってありますか?
是非愛称で呼び合いたいんですけど、どうでしょう!
お返事、楽しみに待っています。
貴女の大親友 アリーゼより
○○年○月○日
大好きなお友達 アリーゼへ
愛称!
とても良いですね!
私、お友達と愛称で呼び合ったことがなくて、密かに憧れだったんです!
是非、愛称で呼ばせてください!
私のことはシャルでいいですわ!
ふふふっ、これでもっと親しくなれた気がします!
しかし、社交界に出られなかった理由……伺うのが楽しみですね。
横線で消していますけど、ちゃんと読めてしまいますから、ハードルは既に上がってしまいました。
ちゃんと私のことをワクワクドキドキさせてください。
そういえば口下手で思い出しましたけど、この間ようやく私、お父様から大事な娘って言われたんですの!
とても嬉しかったですわ。
アリーゼもそういったこと、言われたことありますか?
でもあのご両親なら常日頃から言っていそうだなと思いますけど。
お返事楽しみに待っています!
貴女の大大親友 シャルロッテより
○○年○月○日
大大好きなお友達 シャルロッテへ
シャル……シャル……。
とても良い響きです!
シャルの言う通り、愛称で呼び合うとより親密になれた気がしますね!
私のことは……リゼとお呼びください!
ちなみに、リーゼでもいいんですけど、シャルが決めてくださって構いません!
――ううっ。
せっかく横線で消したのに、やっぱり読めてしまいましたか。
頑張って盛り上がるように離さなきゃ……。
練習しておきますね。
でも、私はドキドキワクワクする冒険だったのは間違いないです!
お父様に大事な娘と言われました、ですか!
それはとても素晴らしいことですね!
私のお父様も私が幼かった頃はもっと距離を感じていたんですけど。
いろいろあって距離が縮まって、今では親バカになってしまいました。
お母様も相乗効果を生み出して、とても我が家は賑やかです。
この間なんか、私がサプライズでチョコレートを作ろうとしたら、陰からこっそり見てたのですよ!
もうプンプンですよ!
それではまた、お返事待っていますね。
貴女の大大大親友 アリーゼより




