表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生して十年が経った。悪役令嬢の父になった。  作者: AteRa
幕間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/50

第38話 家族揃ってお買い物

「明日、三人で街に出掛けるか」


 ある日の午後、俺はみんなにそう提案した。

 レーアは椅子に座って読書をしていたが、顔を上げて言った。


「いいじゃない。楽しそうだわ」

「私も賛成です! あの時は……ちゃんと全部見て回れませんでしたからね」


 アリーゼは何処が居心地が悪そうだった。

 その直後に家出しちゃったわけだしな。

 ちょっと気まずいよな。


「さて、それで決まりだな! じゃあ明日の午後はみんなで買い物だ」


 そうして俺のふとした思いつきで、家族揃って買い物をすることが決まるのだった。



   ***



 青空市場の賑わいが広がる中、俺たちはゆったりとした足取りで歩いていた。

 今日は特に目的があるわけではなく、久しぶりの家族の買い物を楽しもうという日だからな。

 焦る必要もあるまい。


「こういう市場に来るのは久しぶりだな」


 俺は呑気にそう言いながら、屋台の並ぶ通りを見渡した。

 焼きたてのパン、乾燥ハーブ、美しい装飾品。

 目移りするほどの品々が並ぶ中、早くも俺の目にとまったのは、一振りの見事な装飾が施された短剣だった。


「おお、これはなかなかの品じゃないか」


 デニスは興奮気味に屋台の前に立ち、店主に声をかける。


「いくらだ?」


 店主は俺の服装をじろりと見て、にっこりと笑った。


「お客さん、目が高いですね。この短剣は王宮御用達の職人が作ったもので、たったの五十金貨でお譲りしますよ」


 アリーゼは目を丸くした。


「五十金貨!? そんなに高いんですか?」

「そうだろうな。これほどの品はなかなかお目にかかれないだろうし」


 俺はそう言いながら、財布を取り出し――


「待って」


 すっとレーアが俺の腕を押さえた。


「その短剣、五十金貨もするわけないわ」

「えっ……?」


 俺は驚き、アリーゼは興味津々といった顔で母を見た。

 レーアはゆっくりと短剣を手に取り、柄の装飾を指で撫でながら言った。


「この彫刻、たしかに職人技だけど、王宮御用達の仕事なら、ここまで装飾は派手にしない。機能性より見た目を重視しているわね。さらに、この刃の仕上げ……見た目は綺麗だけど、材質が少し軽すぎる。おそらく、王宮御用達の品ではないわ」


 店主の顔がひきつった。


「そ、そんなことは――」

「加えて、そちらの屋台の奥にも同じ短剣が三本並んでいるわ。王宮御用達なら、そんなに大量生産できるはずがないでしょう?」


 店主は明らかに動揺しながら、ごまかそうと口を開いたが、レーアは優雅な笑みを浮かべたまま続けた。


「この短剣、実際のところ、二十金貨が妥当ね」

「に、二十金貨!? そんな馬鹿な!」

「だったら結構よ。他を当たるわ」


 そう言い放つと、レーアは俺とアリーゼを引き連れ、さっさと屋台を離れようとする。

 その瞬間――


「待った! いいでしょう! 二十金貨で!」


 店主が慌てて値を下げた。


「ふふ、ありがとう。では、十五金貨にしてもらえる?」

「えぇっ!? そ、それは……」

「ダメかしら?」


 レーアは穏やかな微笑みを浮かべるが、その笑顔には圧力があった。

 店主はしばし悩んだ末、大きくため息をついた。


「……わかりました、十五金貨で……」

「助かるわ」


 レーアは優雅に短剣を受け取り、十五金貨を手渡した。

 一方、俺はぽかんと口を開けたままだった。


「す、すげぇ……」


 アリーゼも目を輝かせる。


「お母様、すごいです! たった数分で三十五金貨も値切るなんて……」

「市場ではね、交渉するのが当たり前なのよ」


 レーアはさらりと言ってのけた。

 よ、よしっ、今度は俺もやってみるか。

 俺はそう意気込み、別の屋台へと向かった。



   ***



 次に俺が目をつけたのは、美しく彫刻が施されたランプだった。


「おお、これもなかなかいいな。いくらだ?」

「お客さん、お目が高い! これは特別な細工を施したもので、四十金貨ですが……今なら特別に三十五金貨でお譲りします!」


 俺はレーアの交渉術を思い出し、どや顔で言った。


「じゃあ三十金貨にしてくれ」

「うーん……まあ、お客様のために……三十二金貨でどうでしょう?」

「よし、買った!」


 いやぁ、案外簡単に値切れた。

 即決で三十二金貨を差し出す。

 ……が、次の瞬間、レーアが頭を抱えた。


「デニス……それ、普通に三十金貨で買えたわよ……」

「え?」

「店主、最初から四十金貨って言ってたけど、最初の三十五金貨ですでに値引きしていたのよ。そこから二金貨しか値切れてないわ」


 俺は青ざめ、店主はにこやかに笑った。


「いい買い物でしたね!」

「なん、だと……」


 俺はがっくしと膝をつく。

 一方、アリーゼは大笑いしながら、「お父様には値切りの練習が必要ですね」と言い放つのだった。



   ***




 帰り道、俺はしょんぼりとうなだれていた。


「俺だって貴族なはずなのに……」

「値切りは交渉というより目利きの方が重要だから」


 レーアがくすくす笑う。


「お父様! 今度、値切りの練習をしましょう!」


 アリーゼはにっこりと笑ってそう言った。


 娘に交渉術を教わる父なんて情けなくない……?

 くそう……せっかく社交界で鍛えた腹芸が……。


 やはりこういった交渉術ではレーアには絶対に勝てないのだと、そう思うのだった。

案外モチベが維持できそうなので、『第二章:関係の物語』を執筆しようと思います。

引き続きよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ