表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生して十年が経った。悪役令嬢の父になった。  作者: AteRa
幕間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/50

第37話 親バカ二人

 アリーゼは厨房の台所の前に立つと、ふんすと鼻の穴を大きくして気合いを入れた。


「よしっ!」


 腕まくりをしてそう言うと、彼女は包丁を握る。

 今日はアリーゼは料理をしたいとセバスに伝えていた。

 いつもの感謝を込めて両親にチョコレートを振る舞おうと思ったのだ。

 そのためにわざわざメイドに頼んでカカオまで買ってきてもらっていた。

 気合いは十分である。


 しかし……とアリーゼは思った。

 厨房の扉のところが少し半開きになっていて、二対の目がこちらを凝視している。

 父と母だった。

 サプライズのつもりが、どこからか情報が漏れてしまったようだ。

 ジッと見つめられて、居心地の悪さを感じながらも、アリーゼは気にしない気にしないと自分に言い聞かせながら調理を開始する。


 既に料理人にカカオのローストまでは済ませて貰っていた。

 それを粉砕してカカオマス状にし、トウモロシ粉や唐辛子などの香辛料を混ぜる。

 そして水を加えて攪拌して、完成だ。


 アリーゼはまず、すり鉢にカカオ豆を入れてゴリゴリとカカオマス状にすり潰していく。

 のだが……。


「ねえ、デニス。あれ、手怪我しないかしら?」

「だ、大丈夫だろう。俺はアリーゼを信じている。そんな簡単に怪我なんてしないはずだ」

「そう言うデニスの手、震えてるわよ」

「だっ、だって、アリーゼの初めての料理だぞ! 心配になるのも仕方がないじゃないか」

「ふふっ、心配性ね、デニスは」

「……そう言うレーアだって見に来てる時点で心配性だろう」

「うっ……痛いところ突かないでよ」


 そんな会話が背後から聞こえてくるのだ。

 逆にやりづらいったらありゃしない。

 これではかえって怪我をしてしまうんじゃないかとアリーゼは思った。

 まあ、二人は気づかれていないと思っているんだろうけど。


「よしっ……こんなものかな」


 アリーゼは念入りにカカオをすり潰し、額の汗を拭ってそう言った。


「良かった。無事に粉砕は終わったみたいね」

「これからはそこまで危険な調理はないはずだ。うん、大丈夫、大丈夫」

「なに自分に言い聞かせているのよ。もっと父親ならしゃきっとしなさい、しゃきっと」

「そういうレーアだって扉を握る手に力が入りすぎてるぞ」


 ……やっぱりやりづらい。

 アリーゼは何か文句言おうと思って振り返った。


 するとサッと扉の隙間から消え、二人は隠れてしまった。

 …………。

 これでは文句も言えないじゃないか、とアリーゼは思った。

 そして前を向くと、また覗きに戻ってきた気配を感じる。


「バレてない……わよね?」

「ああ。おそらくな。魔力で気配を消してるんだ。バレるわけがない」

「そうよね。……じゃあ、さっきのは偶然よね」


 気配を消そうとしていても、心配する気持ちが強すぎてメチャクチャ視線が伝わってきていた。

 それに声だってちゃんと届いている。

 ウチの父と母はいざとなったら頼りになるのに、何故普段はこんなにも親バカなのだろう。


 思わずため息をつきそうになりながらも、アリーゼは作業をこなしチョコレートを完成させた。


「……無事、完成させたみたいね」

「そうだな。良かった」

「じゃあ私たちはこれで退散しましょうかしらね」

「ちゃんと驚く演技も練習しないとな」


 そんなことを言いながら父と母は去って行った。

 驚く演技すら練習しようとするあたり、アリーゼのことを第一に思っていることは分かるのだが、それでももう少し色々と徹底して欲しいものだとアリーゼは思うのだった。



   ***



「おおっ! チョコレートか! これをアリーゼが作ってくれたのか!?」

「ありがとう、アリーゼ! お母さん、とっても嬉しいわ!」


 少しオーバーなリアクションで二人はそう喜んだ。

 でも、喜んでくれたこと自体は本心なんだろうとアリーゼは思う。


「それじゃあ、飲んでみてもいいか?」

「はい。どうぞお召し上がりください」


 アリーゼはちょっと恥ずかしがりながらも、そう膝を曲げてカーテシーをした。

 そして二人はスプーンでチョコレートをすくって、口の運ぶ。


「……うん! 美味しいよ、アリーゼ!」

「とっても美味しいわ、アリーゼ!」


 二人とも美味しいと言ってくれた。

 そして夢中になって二人はアリーゼの作ったチョコレートを飲み干す。


「ありがとう、アリーゼ。ごちそうさま。とても美味しいかったよ」

「ふふっ。娘にこんなものを作って貰えるなんて、私はなんて幸運な母親なのかしらね」


 二人は微笑み、温かい表情でそう言った。

 その言葉と表情に、アリーゼも心が温かくなる。


 作って良かった。


「お父様とお母様には日頃お世話になっているので。こうして感謝を伝えたかったのです」

「うんうん、その気持ちちゃんと伝わってるよ」

「んん~! アリーゼ~! お母さん、とっても感激してるわ!」


 頷く父に、抱きしめてくる母。

 今日も今日とて、穏やかで良い日だ。

 こんな日々も、あの日頑張って勇気を出して〈世界迷宮〉に向かったから手に入れられた。


 こんな日々がずっと続きますように、とアリーゼはそう思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
チョコレートを作るのに唐辛子なんて使うのか? まあ、かくいう俺も山葵ソフトクリームを食べた事があって、とても美味しかったから意外と合うのかも知れない。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ