表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生して十年が経った。悪役令嬢の父になった。  作者: AteRa
第一章:再生の物語

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/50

第35話 もう一人にしない

 アリーゼが勝った……。

 俺でも勝てなかった相手に勝った。

 そのことが何だかとても誇らしかった。


 褒めようと、アリーゼの側に行こうとして――


「ぐっ……」


 くそっ……やっぱり立ち上がれないか……。


 そう思っていたら、アリーゼがフラつき、倒れ込んでしまった。

 俺は息を呑み、アリーゼの方に行こうとするが、上手く動けない。

 こんなところで……。

 そう思っていたら背後から悲痛な叫び声が聞こえてきた。


「アリーゼ! アリーゼ! アリーゼ!」


 レーアの声だった。

 十年ぶりに聞いたレーアの声に、俺は様々な記憶が蘇ってくる。

 学園で言い争っていたこと。

 騎士団に入団し、共に研鑽していったこと。

 その後の結婚式のこともよく覚えている。


『永遠の愛を誓いますか?』


 そう。

 あの日、俺たちは永遠の愛を誓い合った。

 その記憶が一気に蘇ってきた。


 レーアは倒れてしまったアリーゼを必死になって抱き抱える。


「アリーゼ! アリーゼ! アリーゼ!」


 そんなアリーゼに大慌てで近づいたミシェルは魔力を練り回復魔法を行使した。

 淡いオレンジ色の光に包まれるアリーゼ。

 苦痛の表情を浮かべていた彼女は、それによって徐々に穏やかな表情に戻っていった。


「ふう……これで大丈夫かな……。致命傷は負ってなくて、貧血で倒れただけだと思う」


 回復魔法でアリーゼを直したミシェルは、額の汗を拭いながらそう言った。

 それから視線を俺の方に向けた。


「デニスさんも治すから、ちょっと待っててね!」


 そう言って魔力を練り直すミシェル。

 それから俺もオレンジ色の光に包まれて完全に復活を果たした。


「――ありがとう、ミシェル」

「いえいえ! 一人で頑張ってくれたので!」

「いや、一人じゃないさ」


 俺はそう言ってアリーゼの方を見た。


「あっ、そうでしたね。すみません」


 そして俺は、アリーゼを抱えて座り込み、こちらを見上げるレーアの方に向かった。

 彼女の近くまで黙って寄ると、俺はしゃがみ目線を合わせる。


「レーア」


 俺が呼びかけると、彼女は何故か不貞腐れたようにそっぽを向いた。


「何よ」


 そんな愛しい彼女を、アリーゼごと抱きしめて俺は言った。


「迎えに来るのが遅くなって、ごめん」


 十年も経ってしまった。

 この〈世界迷宮〉では時間軸が違う。

 もしかしたらレーアの中ではあまり時間が経っていないのかもしれない。

 ぱっと見、あの日から時が止まったかのようにレーアは歳を重ねていなかった。


 でも、十年も待たせた。

 その事実は俺に重たい罪悪感を抱かせる。


「……ホントよ、バカ」


 レーアは震える声で言った。


「ごめん」

「許さない」

「本当にごめん」

「絶対に許さないんだから」

「……え、許してくれないのか?」

「ええ、絶対に許さないわ。なに、謝れば許されると思ってるわけ? 貴方の愛ってそんなもの?」


 俺は彼女を離して、顔を見た。

 その表情は涙に濡れていたが、いたずらが成功した時みたいなとびっきりの笑顔だった。


「……いや、俺の愛はそんなものじゃないよ」

「とっても、とぉっても、長かったんだから。後でたっぷりと愛の証明をして貰わないとね」


 ……これは大変なことになりそうだ。

 彼女だってこの洞窟に一人で閉じ込められてストレスが溜まっているだろうし。


「んん……んんんっ……」


 そんな会話をしていると、アリーゼが目を覚ました。


「――ッ! アリーゼッ!」

「……お母様?」

「そう、私がアナタのお母さんよ! 大丈夫!? 変なところとかない!?」

「はい。大丈夫です、お母様」

「良かったぁ……。本当に良かった……」


 レーアはそう言ってアリーゼを強く抱きしめた。


「おっ、お母様! く、苦しい……!」

「ああ、ごめんなさい。アナタが無事なのが分かって嬉しくて……」


 レーアはそう謝ってアリーゼを離した。

 それからアリーゼは俺とレーアを交互に見て、言った。


「お父様。お母様」


 俺たちはそんな自分の娘を真っ正面から見つめ返して、尋ねた。


「どうしたんだい、アリーゼ」

「どうしたの、アリーゼ」



「一緒に帰りましょう。一緒に帰って、それで……それ、で……ッ!」


 アリーゼは泣くのを我慢していた。

 以前なら、ここで堪えきれずにすぐに泣いていたはずなのに。

 うん、アリーゼもちゃんと大人になってきている。

 そのことが嬉しくもあり、誇らしくもあり、少し寂しくもあった。


 しかし——


「うっ、ううっ、うわぁああああああああああああああああああああああああああああぁあああああぁああああああああん! お父様! お母様! もう私を一人にしないでください! もう私を置いていかないでください! ずっと、ずっと、ずっと、ずっとい、一緒じゃなきゃ駄目なんですからぁあああああああああああああああああああああああああぁあああ!」


 アリーゼは結局、我慢できずに泣いてしまった。

 俺はレーアとアリーゼを同時に抱きしめると、言った。


「ああ。もう絶対に一人にしない。だから、みんなで一緒に帰ろう」

「……ええ。そうね。これからはみんなで一緒に楽しく暮らすのよ。うん、それがいいわ」


 それからしばらく俺たちは抱き合い、互いの存在を確かめ合った。

 抱きしめ合い、互いの体温を感じ合った。


 温かい……。


 緊張で凍り付いていた心までもが温かさを帯び溶け出してくる。

 これは生きているという証だ。

 この温かさは、そこにいるという証なのだ。


 しばらくしてアリーゼが泣き止むと、俺は二人を離し立ち上がって言った。


「さて。そろそろダンジョンのコアを探さないとな……」


 そう呟く俺に、背後から揶揄うような声が聞こえてくる。


「なあ、クリストフ。俺たちが無視されて三人の世界に入ったことへの謝罪はないらしいぞ」

「ちょ、俺を巻き込まないでくださいよ、ジンさん! 俺今、メッチャ感動してたんですから!」

「えー、嘘だぁ。ちょっとくらい、俺たちの存在を思い出して欲しいなぁなんて思わなかったか?」

「思うわけないじゃないですか! 超感動の再会だったんですから! 逆にジンさんには人の心がないんですか!?」


 俺は振り返ってジンを睨んだ。


「おー、こわこわ。〈絶殺(ぜっさつ)の魔剣士〉様に睨まれるのは怖いねぇ」

「絶対に許さん」

「あっ、ちょ、ちょっと待って、冗談じゃん、ねえ、ねえってば、何で剣を拾い上げてるの!?」


 俺がジンを切り裂こうとした時、アリーゼがキョトンとした顔でこう言うのだった。


「〈絶殺(ぜっさつ)の魔剣士〉、ですか……?」


 ――――あっ。

 俺の周囲だけ時間が止まる。

 俺は娘に黒歴史がバレて、一瞬で思考停止してしまうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ